勇者、怪盗を始める
魔王を倒し、世界を救った勇者アレクは頭を抱えて苦悩していた。
「何だって勇者だった僕がこんな犯罪染みたことを……」
アレクは今、夜中にこっそりと城の中へと侵入し、足音を立てないようひっそりと廊下を進んでいる。
こうしないといけない理由はただ一つ。
とある王様のお宝を盗みに来たからだ。
「昔の勇者は白昼堂々と民家のタンスとか、お城の宝箱とか、他人の目の前であされたんですよね」
アレクの後ろを進んでいた黒髪の少女が残念そうにそんなことを呟く。
「あれはちゃんと王様に許可貰ってたからね!? 物資支援の協力願いをちゃんと見せてから貰ってたから――」
「今は潜入中です。大声を出しちゃダメですよ。私達はもう勇者のパーティじゃなくて怪盗団なんですから」
少女が咄嗟にアレクの口に手を当て、うぐっとアレクが声にならない声を出す。
少女の言う通り、勇者という肩書きの価値はとっくの昔に消え去った。
何故なら、三百年前にアレクが魔王を倒したおかげで、人の世は大きな脅威がなくなり勇者を必要としなくなったからだ。
しかし、実際はそうではなかった。
誰も迫り来る脅威を知らなかっただけだ。
平和の影に忍ぶ魔王復活の兆しを。
そんな脅威から皆を守るため、勇者アレクは三百年の時を経て蘇り、怪盗として世界を救う旅を始めることになる。