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水玉の少女

作者: 暮 勇

彼女は雨の日、水たまりの中に現れる。

灰色の空から降る大小様々な雫。

それが水たまりに波紋を作る時、彼女はその中で波紋の上を駆ける。

そして、水たまりから水たまりへと渡っていくのだ。


彼女の顔と言った様な細かな処は、雨や彼女が作る波紋によって揺れ、良く分からない。

しかし初めて彼女を見つけた、学校帰りの長靴の下に広がる水たまりにを覗いた時から、きっと可愛いんだと何故か信じている。

いつも裸足で、膝までの高さの、赤字に白の水玉模様のワンピースを着て、白い傘を広げ振り振り持っている。

彼女の世界は雲一つない、透き通るような青空だけれども。



大概の場合、彼女は僕には気づいてくれない。

僕が注意して水たまりを見ても、スカートの裾が水たまりの端を横切ったり、つま先が水たまりから足を離す瞬間だったりするのがほとんどだ。

声をかけても、僕が波を立てても、反応は無かった。

ただ、時々彼女は立ち止まってくれる。

何を理由に僕の足元に留まってくれるのかは分からない。

それに、立ち止まれば必ず僕を見つけてくれるとも限らず、多くの場合は次に飛び移る水たまりを探してきょろきょろしている。

そして次の水たまりを見つければ、さっさと走って行ってしまう。


でも、ふとした時、彼女は僕の方を見る。

青空と赤白ワンピースに占められた視界が影になる。

暗くなった視界の中、彼女が僕に手を振ったり、首を傾げたりする。

そして、勢いよく上半身を起こし、頭上で白い傘をめいっぱい上に向け、ぐるりと円を描いて、また走り出す。

そんな数秒間。

ふと目が合った気がする。

何かを話しかけてくれているような気がする。

彼女が笑っているような気がする。

そんな思いすごしかもしれない気持ちを、僕はいつも抱いてしまう。


でもそれは、とてももどかしい気持ちばかりだ。

どんなに僕が彼女に何かを思おうと、行動を起こそうと、僕の気持ちは届かない。

もう彼女と出会って、10年が経った。

僕は大人になった。

彼女は多分、変わらない。

今、僕は時々思う事がある。

彼女の存在は、まやかしなんじゃないか、と。

子供の頃の、唯のいたいけな空想ではないのか、と。

しかし彼女はそんな寂しい諦めを、水たまりの中からかき消してくれる。

いつか、どういう方法か分からないけれども、彼女の一言でも思いが伝わればいいなぁ。

そんなあやふやな目標が、何年経っても僕の中にあり続けている。


そううして今日の雨の中でも、僕は彼女を探している。

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