代償と新たな左腕
目が覚めた。
「おっ、起きたか主よ。一時間ほど寝ておったぞ。」
俺の頭を膝に乗せながらしゃべるエント。
…下から見る景色は絶景だった!
「ありがとう、エント。僕を止めてくれて。」
「なんてことはない。さて、それじゃあ、契約の話でもしようか。」
俺は体を起こしてエントと話し合った。
「まず、契約ってなに?」
「なにを言っておる。お主は我を呼び出したではないか。その時点で我を従える意志が見えたのだが。力を貸してほしいのだろう?」
「ああ、そうだね。助けて欲しくて君を呼んだね。これから呼んだら来てくれる?」
「もちろんだ。そのために契約の内容をしっかり決めとくべきた。我はお主の魔力を定期的に貰いたい。お主の魔力の量と質は間違いなく誰よりも上だ。」
「定期的ってどれくらい?あと、僕自分の魔力の量とかわからないから、割合で教えてほしい。」
魔力の量と質を誉められたことがとてもうれしいが、たくさん貰われて僕に影響が出るのは嫌なので、きちんと質問をする。
回復魔法で治せはするけど。
「そうだな、一月に一割貰おうか。人間で言う給料みたいなものじゃ。月の初めにお主から貰いたい。月の初めは必ず我を呼ぶことじゃ。」
「わかった、その条件でいいよ!これからよろしくね。」
「契約成立だ。よろしく頼むぞ、主よ。」
月の初めに一割魔力をあげたところで、すぐに回復出来るから安いものだと思う。
改めて見るとすごくきれいな精霊だし。
「あ、そういえば、あのドライアドは?」
「ん?ああ、ドライアドならきちんと叱っておいたぞ。おおーい、出てこい。」
エントが呼ぶと大樹からドライアドが出てきた。
「この度は調子に乗って恩人にとても失礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」
登場してすぐ頭を下げて、俺に謝ってきた。
なんか、見るからにボロボロになっている。
「まあ、いいよ。お礼だけしっかりして貰うけどね。あれば魅了魔法だろ?僕にそういう精神的な攻撃を防ぐ方法を知っていたら教えて。」
「あ、ありがとうごさいます。本当にすみませんでした。魅了魔法等を無効化するには、精神魔法から身を守る、防御魔法が必要なのです。」
「あ、やっぱりそういう防御魔法もあるんだね。ドライアドかエントは使える?」
「我は造作もなく使えるぞ。と言うか、常に張っておるぞ。」
「え?本当?見えないんだけど。」
「それは透明じゃからの。だが、お主ほどの魔法使いならよく見れば見えるはずじゃ。片目じゃ見えるかはわからんがな。」
左目を凝らして見てみる。
うっすらと光の膜が張っているように見えた。
「見えたよ。うっすらとだけど。ありがと、これで多分使えるようになったよ。」
魔導書を取り出し、早速自分に試してみる。
体中に光の薄い膜が張っていく。
「なんとも珍しい技能じゃ。見た魔法を使えるのか!?お主は相当特殊な人間のようじゃな。」
「そうだよ、それが僕の技能さ。見た魔法を使える魔法であってるよ。」
エントに聞かれたので答えた。
特殊な人間と言われて少しうれしい。
「お主はとても興味深い人間じゃ。…ふむ、どれ、少し契約を変える気はないか?」
「え?どうするの?」
「なに、我が常にそばにいてやろうと言うのだ。そして、毎日少しだけ魔力を貰うと言う契約に変えようと言うわけだ。」
ふむ、常にエントがそばに居てくれるのか、それはうれしい。
毎日魔力を少しずつ貰うってことは、月給制が日給制に変わるようなものかな。
全然いいと思うが…
「常にそばにいるって言っても目立たない?」
「なに、その点はなんとか大丈夫じゃ。お主には普通の人と違って足りない部分があるじゃろ。」
「足りない部分?…あ、目と腕か。」
「そうじゃ。お主の左腕じゃの。我がお主の左腕になってやる。」
左腕になるとはどういうことだろうと考えていると、エントが俺の左肩に抱きついて来た。
「ちょっ、どうしたの?」
「なに、見ておれ。」
美しいエントの姿が段々、人形の木に変わっていく。
そして、木の根のようなものが俺の左肩に巻き付いていく。
「うわぁぁー。」
予想外のことでかなり驚いた。
動きたくなるが、痛みはないので深呼吸をしながら見守る。
肩にくっついた、エントの形をした木がどんどん小さくなり、腕の形になっていく。
「大人しくしておれよ。」
30秒ほどたって、エントは完全に俺の左腕になった。
「すごい。」
右手と比べも全く変わらない。
自然な左腕が出来た。
自分の意思では全く動かないが。
「ふぅ、完了じゃ。我はこういう形で常にそばにいてやろう。どうじゃ、うれしいじゃろ?」
「うん、ありがと。何かあったら守ってほしいな。自分の意思で動かせないのは残念だけど。」
ただ、引っ付いているだけなので、動かせないのが残念だ。だが、エントがいるだけ死ぬ確率が減るだろう。
「左腕をお主の意思で動かしたいか?それなら我に心を許せば自由に動かせるようになるぞ。」
「え?それってどういうこと?」
「我がお主の心を読み取れるようになれば、お主の意思にそって動くことが出来るのじゃ。」
左腕になったエントが元の姿に戻り、話しかけてきた。
エントが俺の心を読み取って動いてくれるのか。
それは便利だな。
「心を許せば許すほど、滑らかに動けるの?」
「そうじゃ。警戒しているとお主の場合、不思議と心が読み取れないようになっておる。心を許せばお主の考えがより分かるのだ。」
なるほど、警戒心は自然と心の壁を作ってしまうみたいだ。
「それなら、まだ完全に心を開ける訳じゃないけど、僕に合わせて動いてほしいな。」
「承知した。お主がピンチになった時も出来るだけ助けることが出来るように善処しよう。仲が深まれば、お主の心に直接話かけることも出来るからな。」
段々、エントと仲良くなっていいパートナーに慣れればいいな。
心の中で会話出来るようにしたい。
取り敢えず、エントとの契約が決まった。
「あ、そういえば、契約って、お互いが了承すればいいだけ?」
「そうじゃ、精霊は約束は破らぬ。安心せい。」
「わかった、信じるよ。これからよろしくね、エント!」
「ああ、こちらこそよろしくだ、主よ。」
これから仲良くやっていきたい。
頼れる存在が出来た。
「あのー、そろそろ私も会話に入りたいのですが~。」
いつの間にか正座してたドライアドが話しかけてきた。
ボロボロなのが少しだけ治っている。
「ヒール。」
若干、可哀想なので回復魔法をかけてあげた。
ドライアドがきれいになっていく。
「あ、ありがとうございます。改めてすみませんでした。」
「いいよ、約束は覚えてる?次来たときにモンスターの場所とか教えてね。あと、今後は僕に害を与えないでね。」
「はい、約束します。」
ドライアドを治してあげたあと、疲れたので家に帰ることにした。
エントを付けて、飛んで帰っている途中に気付いた。
「僕、腕のこと、両親になんて説明すればいいかな?」
「なんじゃ、回復魔法で治ったと言えばいいのではないか?」
「いや、俺の回復魔法じゃ治らないことを親たち知ってるし、急に治っても変かなって思って。」
長年自分で治せなかった腕が映えてたら、喜ばれるとは思うが同時に怪しまれそうだ。
「なら、ドライアドに魔力を分けてもらって治したことにすればいいじゃろ。」
「ドライアドって魔力を人に渡せるの?」
「ドライアドは拉致と監禁をして人の魔力を奪うことが得意だが、魔力の受け流しも出来るのじゃ。」
なるほど、魔力を分けてもらったお陰で治せたってことにすればいいのか。
それなら行けそうだ。
「わかったよ、そうやって説明する。ありがとね、エント。」
「どういたしましてじゃ。」
そして、俺は家につき、左腕のことを報告した。
もちろん、両親共に大泣きで喜んでくれた。
少しだけ罪悪感はあったが、喜ぶ顔を見れたので良しとした。
新しい左腕、エントと上手くやっていけますように!
エントと心が段々と通っていきます。
いずれは…