代償と魔法見学
こんにちは。
今回は魔導書に魔法をたくさん、覚えさせるための回です。
10歳の誕生日が過ぎてから一ヶ月がたった。
明日は、王都に行って大きな魔法の大会を見に行く予定だ。
魔導書に新しい魔法をたくさん載せるために行くわけだ。
強い魔法をたくさん見れると思うと嬉しくなってきた。
「フレちゃん、そろそろいくわよー!」
「はーい、少し待ってて!」
母さんに呼ばれたので、慌てて支度をする。
家族三人で遠出するのは始めてだ。
王都まで行くには馬車で丸一日かかるので、前日の朝早くから出発しないといけない。
「ごめん、お待たせ。」
「よし、それじゃあ、出発するぞ!」
馬車は父さんの友人から借りたもので、父さんが運転してくれるみたいだ。
王都までの道は人通りも多くて、安全らしい。
家族水入らずのお出かけだ。
街の入り口から出て、北へ続く道をしばらく進む。
たまに馬車の運転を教えて貰いながら、他愛もない話をしつつ、道を進んでいく。
途中に辺りが草原から森に代わり、スライムや弱くて数の多いウサギみたいなラピットというモンスターを多く見かけるようになった。
強いモンスターは現れなかった。
道中、俺より体の小さくて、錆びたナイフを持ったゴブリンの群れに襲われた。
顔は醜く肌は緑色で耳がとがっている、奇妙な生き物だ。
初めて見るゴブリンに俺が驚いているうちに、父さんと母さんが殲滅させていた。
父さんは剣を無駄な動きをせずに流れるような動きでゴブリンの首を跳ねていた。
「内部から破壊せよ、ウォーターブレイク!」
母さんはゴブリンの前に水を発生させて、無理やり口の中に入れて内側から破裂させていた。
…グロい。そしてエグい。
「父さんも母さんもすごいよ。かっこいい。だけど、血とか内蔵とかが飛び散ってて気持ち悪くなっちゃった。」
戦闘をすごいと誉めつつ、残骸を見て気持ち悪くなったことを訴えた。
「ごめんね、フレちゃん。もう少ししたら休憩を入れましょ。」
母さんがそう言ってしばらく歩くと、森を抜けて草原にでた。
ゴブリンの残骸から大分離れたので、休憩になった。
さっきの戦闘を見てすごいと思った。
二人とも俺がすごいと言ったら照れていた。
いきなり戦闘モードに入れるのは、俺にはなかなかできない。
日本にいるとき、そういうの無縁だったし、こっちの世界でもモンスターとそんなに戦ってない。
だから、危機管理能力が足りないのだと思う。
今後の課題が見つかった。
モンスターを見つけたらすぐに戦闘モードに入るように心に刻みながら、休憩を終えて出発した。
その後は特に何もなく、初めての野営も父さんと母さんに任せて、目が覚めた時には日が登り初めて王都が見えていた。
「わぁ、すごくきれい。」
朝日に照らされるお城と城下町、近くに流れる川のきらめきなどが調和して、写真を撮りたくなるような景色だった。
正に王都にふさわしい光景だ。
さすが、王がいるだけのことはある。
砦の入り口の門番に父さんがギルドカードを見せて、三人分のお金を払って王都に入った。
僕は子どもなので身分証を見せる必要が無いみたいだった。
王都はすごく賑やかで人が多く、商業が盛んのようだ。
とりあえず、今夜泊まる宿をとり少し休んだあと、いよいよ魔法大会を見に会場へ向かった。
会場はコロッセオのような作りで、大きく岩や鉄でできていた。
観客席がきちんとあって、東京ドームのようにプレイヤーをどこからでも見えるような施設だ。
魔法の力で作ったのだろうが素晴らしいと思った。
魔法を使う人たちを結構近くで見ることができる席をとれたので、今か今かとワクワクしながら待っていた。
しばらく待っていよいよ、魔法大会が始まった。
実況の厳つい人が拡声魔法で声を響かせながら、開幕した。
「みなさん、本日は大魔法大会にようこそお越しくださいました。この国の魔法自慢達の魔法によるショーや戦いを存分にお楽しみください。それではいよいよ開幕です。」
開幕の合図とともに、何人もの魔法使いたちが空に向かって、火魔法や水魔法など様々な魔法を放った。
花火みたいに色々な色があってとてもきれいだった。
一人一人、見逃さないようにきちんと魔法を見ておく。
少人数で作り上げる炎の柱や氷のゴーレムなど初めて見る魔法がたくさんあった。
オープニングセレモニーだけでこれだけ見れるといいな。
魔法使い同士の戦いや、10人以上の人数で行う大型魔法の演舞もあるみたいだ。
今日だけでいくつ魔法を覚えることが出来るか、すごく楽しみだ。
「それでは、皆さん、お待たせしました。これより一回戦を開始いたします。」
どんな魔法が在るのだろうなどと考えていると、魔法使いの戦いが始まった。
一回戦目、茶色の長い髪の似合う女性と、黒いローブの男性が対戦した。
50メートル四方くらいのステージで行われ、負けを認めるか、ステージから落ちれば敗北というルールみたいだ。
試合開始直後、男の方は強力な火魔法を使い、積極的に責めた。
女の方は必要最低限の動きで魔法を避けつつ、男の様子を伺っているようだ。
数分が経過し、男の動きが鈍り始めた。
男の隙を見つつ、女がカウンターで魔法を打ち始めた。
「…くっ」
男は苦しくなってきたみたいで、攻撃の手が休まってきた。
「くそがぁぁぁ!!」
男は最後の力を振り絞り、空高く飛び上がり、特大の火の玉を作り出した。
「俺の全力だ、食らえ!フレアボール!」
男は地上にいる女に向かって、火の玉を放った。
真っ赤に燃えるその球体が恐ろしい速度で迫ってくる。
「我が身を守れ、アイスウォール!」
女の方は大丈夫かと心配になったが、女は男の行動を予測していたようで、ステージと同じくらいの氷の壁を作り出していた。
氷と火がぶつかり合って、大きな爆発音と共に、あたり一面が真っ白になった。
そして、大量の水が降ってきた。
観客席に被害がないように、魔法使いのスタッフ達が、障壁を張ってくれているおかげで、濡れないのでありがたい。
「霧を晴らせ、フラッシュ!」
ステージに注目していると、女が風魔法を使って、ステージを見えるようにしてくれた。
女は無事のようだ。
肝心の男の方は、場外で横たわっていた。
恐らく限界に達したのだろう。
「ワァァー!!」
決着がついた。
大きな歓声が飛び交っている。
すごい熱気だ。
「すごいね!お父さん、お母さん。こんなの見たことないよ!」
「それはなりよりだ。フレードも今見た魔法が使えるようになるといいな。」
「フレちゃんなら、きっと使えるようになるわ。なんたって、フレちゃんは自慢の息子だもの。」
「ありがとう、僕も今の人たちみたいな魔法が使えるようにがんばるよ。」
一回戦目からこのレベルの魔法を見ることができるなら、俺は今日だけで最強になれるのではないだろうか。
早く、誰もいないときに魔導書を使いたい。
とてもウズウズする。
それから、二回戦、三回戦と続き、大人数で作る大きな魔法も見ることができた。
そして、大会は順調に進み、最後の演舞の時間になった。
詠唱が長ったらしかったので遅いなーと思ってしまった時もあったけどね。
「さあ、皆さん。いよいよ大会も最後の演舞を残すのみとなりました。最後の演舞はダントツで凄まじい演舞になること間違いなしなので、最後まできちんとご覧下さい。」
アナウンスに気合いが入っている。
これは期待できそうだ。
アナウンスが終わってすぐ、最後の演舞が始まった。
ステージに魔法陣が書かれ、12人で囲んでいる。
12人全員が魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる。
「「いでよ、炎の精霊、イフリート」」
「ボファァーーー!」
少しして、いきなり火柱が立ち上がり、10メートル越えの炎に包まれた大きな怪獣が現れた。
まるで燃えているのモ○ハンのラー○ャンだ。
「皆さんご覧下さい。我らがクロム王国の王宮魔術師12人の方々の呼び出した上位精霊の迫力を!いま、皆さんがご覧になっているのは十年前の戦争でも大活躍だった炎の精霊イフリートです!」
イフリートは炎を吐きながら空をかなりの速度で飛び回っている。
「おおー!すごい。フレード、王宮魔術師の方々の魔法が見れるなんて、運がいいな。」
「フレちゃん、よく見ときなさい、あれがこの国のトップレベルの人たちの魔法よ。」
父さんと母さんも興奮気味だ。
「…すごい。」
迫力があり、感動してすごいとしか言えなかった。
「なんと今回、王宮魔術師の方々に見せていただける魔法は、イフリートの召喚だけではありません。戦争終結から十周年記念として、他の属性の上位精霊の召喚もご覧いただきましょう。」
戦争終わって十周年だったのか。
他の精霊も見れるなんて、今年見に来てちょうどよかった。
そこから見ることができた精霊は「風の精霊 ジン」「水の精霊クラーケン」「雷の精霊トール」「大地の精霊 ベヒモス」「氷の精霊 フェンリル」「植物の精霊 エント」だった。
とても盛りだくさんだった。
イフリート合わせて、八体もの精霊の召喚を見ることができた。
興奮しすぎて疲れてしまった。
魔導書の力が、精霊の召喚まで出来ればいいなと考えていたらいつの間にか寝てしまった。
目が覚めたのは翌日で、王都を父さんと母さんの三人で観光してから、フロネ街に帰った。
「魔導書、お前の力を信じてる。」
魔導書の力がどこまで適用されるのか、ワクワクが止まらなかった。
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