代償と五年
5歳になった。
体が大分思うように動くようになり、日々成長しているのを感じるようになった。
子どもの成長って早い。
髪の毛は黒く、短めだ。
顔はどちらかと言うと母さんに似ていると言われる。
将来、イケメンになれるかもしれない。
髪の色は多分父さんに似たのだと思う。
父さん、髪の毛無いからわからないけど。
この街から出たことはないけれど、生活には慣れてきた。
お出かけの時に眼帯を着けることだけは、中二病っぽくて恥ずかしいけれど。
近頃は、父さんと母さんに分からないことをたくさんきいたり、町を散歩して楽しい日々を過ごしている。
基本、母さんが俺にべったりだが、一人で要られる時間も増えてきた。
それでも母さんは相変わらず過保護だ。
腕とか目のことが心配だからしょうがないとは思うが…。
心配は嬉しいけれど、心は年とってるから勘弁して欲しい。
最近、母さんと散歩していると良く色々な人に「フレードちゃん大きくなったねー」と声をかけられる。
俺はそこそこの人気者のようだ。
どうやら父さんが冒険者ギルドの有名人らしく、その息子でしかも片目片腕の俺の名前は、たくさんの人が知っているらしい。
俺の父さんの顔が恐いのを知っているからか、特に俺を苛めようとする人は現れなかった。
逆に近所の同い年くらいの子どもたちとは仲が良くなった。
「ねぇ、遊ぼーよ。」
「私とも遊んでー!」
…なぜか誘ってくるのは女の子が多い。
もしかしたらモテ期かも。
…可愛らしくて微笑ましい。
腕と目が無いことは、気になっているようだが、関係なく遊びに誘ってくれている。
「ねー、なんでフレ君は眼帯つけてるのー?」
「それはね、大人になったらわかるよ」
「フレ君って、左手ないねー。不思議だね。」
「そうだね、どうしてだろうね、不思議だねー。」
それでも子どもだからストレートに聞いてくる場合もあるよね。
ちょっと返答に困るけど、適当に誤魔化している。
まあ、それでも普通に馴染めて正直、うれしかった。
精神年齢が大人だから、微笑ましいと言ったほうが正しいね。
「やーい、眼帯やろう!」
「こっち来てみろ、腕なしー!」
ただ、たまにいる悪ガキには、けっこうムカつく。
10歳前後の年上の連中ね。
「……」
俺はひたすら無視を貫く。
「君たち、フレちゃんに何てこと言っているのかな~?」
「ヒッ!」
俺まで寒気がした。
母さんがガキ達を注意してくれたみたいだ。
殺気を感じるが…。
さて、俺は5歳として出来ることを探しながら日々冷静に考えながら行動して過ごしていた。
「フレード、何かしたいことがあるんなら遠慮なく言っていいんだぞ。」
「フレちゃん、何か欲しいものとかない?誰かにいじめられたりとかしてない?」
「思い付かないから、大丈夫だよ!いつも、パパとママのおかげで楽しいよ!」
考えて行動していたせいか、5歳らしからぬ俺の落ち着いた姿に、若干父さんと母さんは心配しているみたいだ。
しっかりしすぎても、心配ってされるんだな。
「フレードちゃんは凄くしっかりしていて、えらいわね。」
「ありがとう、お姉さん。」
「あらら、ありがと。」
でも近所のママさんたちには誉められるのでうれしい。
だが、もう少し子どもらしい姿を見せてったほうがいいのかもしれない。
もっと甘えたりした方が良いのだろうか?
この世界で五年間生きてきて、一度も怒られたこともないし。
調整が難しい。
俺の5歳の頃を思い出しつつ、悩んでいるのであった。
さて、この世界で生まれて5年がたった訳だが。
驚いたことは三つ。
一つ目は、この世界には、俺が生まれる前までやっていた戦争のせいで、孤児や奴隷がたくさんいることだ。
実際にこの街でも、獣人の奴隷をたくさん見かける。
大人から小さい子まで、年齢は若めだ。
皆首輪をしているから奴隷とわかる。
「ねー、ママ、なんで首輪をしている人がいるの?」
「それはね、フレちゃん。お手伝いさん達は首輪を着けるのが当たり前になっているのよ。」
母さんに質問しても、素直に奴隷とは教えてもらえなかったが、ステータスを覗き見したときに、奴隷とわかった。
初めて奴隷を見たときは、なんとか助けたいと思った。
だが、今の俺に出来ることはほとんど無いと気付いてしまった。
…悲しい。
奴隷なんて酷いと思ったが、この世界では当たり前のようだ。
ちなみにこの街の奴隷の扱いはずいぶんと、マシな方らしい。
何でも街の決まりで、最低限の衣食住の保証はしないといけないらしい。
少しだけ安心した。
奴隷はこの国では、獣人が多いが、色んな種族がいるらしい。
逆に獣人の国では、人間が多く奴隷になっているらしい。
獣人の国での人間の扱いも、地区や種族によって大分異なるらしい。
早く一人でも多く助けたいが、まだ、焦らずいこうと思う。
まだ、戦えないし。
お金ないし。
そう、これからだ!
…やっぱり戦争なんて無いほうがいいね!
この国では16歳が成人みたいなので、あと11年たったら、一気に行動しようと思った。
さてさて、二つ目はレベルの上がり方だ。
毎日限界まで自分に回復魔法をかけて、寝てを繰り返していた。
しかし、最近ではいくら回復魔法を自分にかけても限界が来なくなった。
多分、魔力まで回復出来るようになったのだと思う。
消費する魔力を回復出来てしまうため、無限に自分に回復魔法をかけることが出来るようになったのだ。
そのため、起きている時間で、両親にばれない程度にずっと回復魔法をかけていたため、驚くほどレベルが上がってしまった。
レベルが上がり難い感覚もあまり無く、どんどん成長しているのがわかった。
もしかしたら、幼少期の方が成長しやすいのかもしれない。
それか女神からのサービスでレベルが上がりやすくなっているのかもしれない。
いずれにせよ、大分レベル上げは出来たのでよかった。
今の俺のレベルは55、母さんは57、父さんは63だ。
両親もレベルはほんの少しだけ上がっていたが、もうすぐ抜いてしまいそうだ。
親より自分がレベルが上なの事はばれたくないが、とりあえず一人立ちするまでは変に思われないようにしたい。
ちなみに俺の回復を極めし者の技能はこれと言って呪文が無く、イメージしただけで治したいところが直せた。
が、今ではイメージしなくても、感覚で魔法が使えるようになった。
セリフなどは必要ないが、自分を触りながら「ヒール」と言って魔法をかけるのが一番やりやすい。
大分、回復魔法は体に定着したと思う。
努力するってすばらしいね。
3つ目は魔導書のことだ。
この技能は凄いと思う。
本当に見た魔法を使えるのか疑問に思って、母さんに日常生活で使える色々な魔法を見せてもらった。
結論から言うと普通に使えた。
本が出て来て欲しいと思うと魔導書が出て来てくれる。
魔導書は厚いが模様のない、真っ黒な本だ。
デ○ノートを厚くした感じだ。
魔導書は、出すとお腹の前に常に浮いていてくれる。
使用方法だが、例えば火を起こしたいと思ったら、本がめくれて、火魔法一覧のページになる。
そこに書いてある魔法名をタッチすれば使える。
さらに、魔導書を出して無くても、一度使った魔法は普通に使えた。
魔法を見て、魔導書を使いその魔法を使えば、次からは魔導書が無くても使用できる。
それが俺の魔導書の力みたいだ。
とても便利な技能なのではないだろうか。
代償を払っただけのことはある。
魔法の欄はほとんどが?マークだが、魔法を見ると空欄が埋まっていくみたいだ。
魔導書のコンプリートを目指して頑張ろう。
魔法マスターに俺はなる。
五歳の誕生日も父さんと母さんに祝って貰えた。
父さんから木刀をプレゼントされて、母さんからは文字を覚えるための本をプレゼントされた。
木刀はかっこいいので素直にうれしかった。
母さんからのプレゼントもうれしかった。
俺は愛されてると実感した。
まあ、異世界言語の技能のおかげで文字はかけるのだが。
いずれ、たくさんの子どもたちに勉強を教えてあげないとだから、その時の教材の参考にしようと思う。
二人にお礼を言って、いつもより豪華なご飯を食べた。
その後はいつも道理に過ごした。
この国では、パンとかパスタが主流なので、ひたすら米が食べたかったが。
いつか、お米探しをするのもいいかもしれない。
5歳を迎えた次の日から、父さんからは剣術、母さんからは魔法と勉強を学ぶことになった。
保育園や小学校のような施設はないみたいだ。
簡単な勉強は塾のようなところに通って、勉強するのが一般的みたいだ。
だが、俺の場合、両親が一流なので、直々に教えて貰える。
この両親の元に生まれて本当に良かったと思う。
前世では俺が小学生の時に母親は出ていったので寂しかったが、今世は両親の仲がいいので心が温かい。
幸せだ。
ターリア・ヘルクレード視点
フレードが生まれて早くも五年がたった。
フレードは大人しい子どもだが、見るもの全てが珍しい様子で色々と質問をしてくれる。
好奇心旺盛で、一度教えたことも忘れない、とても優秀な子だ。
さすが、俺とソフィの愛の結晶。
全てが可愛くて愛らしい完璧な息子だ。
だが、逆に誉めることしか出来ない現状に、これでいいのかという不安もある。
フレードは、やってはいけないことと、いいことの区別が生まれた時から出来ているかのように、教えてもないのにきちんとしている。
近所の他の子どもと比べてもフレードは色々と良く出来すぎている気がする。
ソフィも昔から育児に対して疲れた様子もなかった。
今は、育児に対して少し不安そうだ。
他の奥さん方の育児の悩みが分からないので、同年代の奥さん方の輪に入り辛いのが悩みらしい。
しっかりしすぎているのが不安になるなんて、子どもが出来たときには思ってもいなかった。
間違ったことをフレードがしたとき、きちんと叱ってあげることが出来るのかも不安だ。
だが、温かく見守りつつ、のびのび育てたいと思う。
父親らしいことが出来ていない気がして不安になる。
5歳になったフレードを祝いつつ、剣の扱いだけはきちんと指導しようと考えた。
「フレードに合った、剣術を考えないといけないな。これから忙しくなりそうだ。」
息子の身体に合わせた、剣術の開発に、ヘルクレードは取り組むのであった。
5歳の時点でレベルは両親にほぼ追い付きました。
しかし、実戦経験がないので、戦えません。
これから戦えるようになっていきます。
余談ですが、作者は前世の記憶が少しあります。
土の通路の脇に木の建物があり、そこの横にある鉄製のゴミ箱の中に食べ物が無いか探そうとしたところで野垂れ死にました。
一話で書いた、貧しい人生、普通の人生、裕福な人生を選択できる話も体験談です。
まあ、死んでみないとそんなことは分かりませんが…。