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大きな代償を払い、転生しました

木の葉の隙間から優しく当たる朝日が心地よい。

一瞬、ここが何処だか分からなかったが、即座に思い出し体を起こす。


「…寝てた。疲れてたからな。」


精神的な解放感で糸が切れてしまったフレードだが、改めて気を引き締める。


「行かなきゃ。クロとエントが待ってる。」


クロとエントが俺の事を呼んでいる気がした。

俺の体と心が二人に会いたいと叫んでいるのが分かる。

俺は生い茂る木々の上よりはるかに高く飛び、北へ向かって全速力で飛ぶ。


障壁を風避けに使いひたすらに進むが、その速さ故に衝撃波が発生し遠く離れた地面を削って行く。

フレードが通ったところに半円状の溝が出来ていく。


「!?なんだ?」


俺は途中、透き通った湖の上で反射する自分の姿を見て止まった。


「これは…俺か?」


そこに映っていたのは髪の赤黒く、背丈のある青年だった。

目は赤く鋭く、鼻筋は通っていて、口元の八重歯が印象的だ。

眼光が怖く、子供の頃にあった優しい瞳では無くなっていた。

…無理もないか。


熊のような動物の毛皮を服にしているため、毛皮に手を通しただけのような不格好な姿になっている。

だが、所々から見える引き締まった体がとても綺麗だった。


俺は顔や体をペタペタと触る。

記憶にある感覚とは違く、少年ではない大人の体になっていた。


「…変わってる。…当たり前か、三年だもんな。」


水面に反射する自分の姿を見ながら、そんな事を呟く。

数分の間、俺は水面の自分を見つめつづけ、再び北へ向かって飛び立った。



ー 更にしばらく飛ぶとお腹が鳴ったことに気がついた。

しばらく忘れていた、お腹が空いたという感覚に少し戸惑う。


「確か、次元収納に肉があったな。」


俺はそう思い出し、血生臭いモンスターの肉をかじろうとしたところで気付く。

今なら、調理して食べることが出来ると。


「いただきます。」


近くにあった香草と肉を一緒に焼いただけだが、俺はその焼けた肉にかぶりついた瞬間、絶句した。

旨味が口いっぱいに広がり、香草の香りが鼻に通る。

脳が、胃がかつてないほど喜んでいるのが分かる。


「…ああ。何て幸せなんだ。」


食事という行為にかつてないほどのありがたみを感じた俺は、一心不乱に肉を食べた。

戦闘中は味など気にしている場合など一切なく、胃が悲鳴を上げても回復魔法で黙らせていた。

この日の味を一生忘れることはないと確信した。



ー 飯の感動を味わった後、俺は再び北へ向かって飛び立った。


世界がどんどん流れていき、どのくらい進んでいるのかも良くわからないが、不思議と最愛の二人に会うことの出来る気がしていた。


(早く、クロとエントに会いたいな…。)


その一心でひたすら急いだ。

休みなどほとんど必要ないこの身体は驚くほどの距離を進んでいた。


(クロとエントに会いたい!神様、お願いしますを二人に合わせて下さい。)


そう心で願いながら飛ぶこと数分。

そんな願いは、びっくりするくらい早く叶った。


… !!!!


「…こ、この気配は!?」


俺は咄嗟に限界までスピードを上げた。

一心不乱にその気配の元へと向かう。

その気配はどんどん近付きく。

…そして、ついに見つけた。


妖艶だけど人間味のある、意外と甘えん坊な精霊。

そして、見た目が変わって白髪で目が金色に光ってはいるが、仲間想いの優しい獣人。


俺が世界で一番愛している、俺を世界で一番愛してくれる、二人の姿がそこにはあった。


「っ!クロ!!エント!!」


俺は叫んだ。

二人の姿を見ただけで涙が止まらない。

そんな二人も俺に気付き、一直線で向かってきた。


「ご主人様!!」

「主!!」


俺は心の底から溢れでる喜びが抑えられなかった。

クロもエントも同じく泣いていた。


俺も二人の元へ近付き、二人を思いっきり抱き締めた。

二人も俺を強く抱き締め、声をあげて泣き出した。


「クロ、エントずっと会いたかった!…二人がいないと寂しくて苦しくて切なかった。…もう離さない、離すもんか!」


「クロだって、クロだって。寂しかったよぉ。いきなりいなくなっちゃうんだから!」


「妾も…妾も…ずっと辛かったのじゃ。…ずっと側に主がいないと妾は生きていけないのじゃ。」


三人で抱き合って、何分も何時間も俺らは赤子のようにわんわん泣いた。

悲しみの涙ではない。

幸せと喜びで溢れた涙だ。


「ごめん、本当にごめんな。これからはずっと側にいるから。」

「うん、クロの側にいて。」

「頼むのじゃ。我の側にいて欲しい。」


俺は涙が枯れるまで二人を抱き締め離さなかった。

二人も俺を離すまいと強く強く抱き締めてくれた。




ー その日の夜 ー


「そうか、父さんも母さんも妹も無事なんだね。いつの間にか妹が出来たなんて不思議な気分だけどね。」

「大変だったニャ。本当に色々あったニャ。」

「ああ、そうじゃ。戦争は良いものではなかったのじゃ。」


大分落ち着いた俺たちは、野営をしながらゆっくりとこの数年の出来事を報告しあった。


「ええっ!?クロ達、街の為に両方の王様倒したの!?つ、強くなかった?」

「大丈夫だニャ!クロは強くなったニャ!ご主人様を想う気持ちでぶっ倒してきたニャ!」

「そうじゃ!我の主を愛する気持ちを強さに変えて押しきったのじゃ。」


クロ達の強くなった原因が分かった。

何より元気な姿が見られて嬉しい。

俺も二人が心の支えだったけど、二人も俺の事を想っていてくれてた事に、幸せを感じる。


「…そっか。二人ともお疲れ様。それに寂しい想いをさせてごめんね。俺も二人を想う気持ちで強くなったよ。…改めて二人とも、今日からずっと宜しくね。」

「勿論だニャ!愛してるニャ!ご主人様!」

「わ、我も主を愛してるのじゃ!」


二人に抱きつかれた。

俺は二人の細い腰を抱いた。


「俺も二人を愛してるよ!数年ぶりに一緒に寝よっか。」

「嬉しいニャ!」

「と、当然なのじゃ!」


話の続きは後日にする。

今日はとにかく二人の存在をもっと肌で感じたいから。


三人で横になりお互いを抱き締める。

そして、眠る前にキスをする。


「今日は…久しぶりにいい夢でも見れそうだな。」

「クロもだニャ!」

「妾もじゃ!」


「クロ、エント、愛してる。本当にありがとう。…おやすみ。」


最高の幸せを感じつつ、俺達はぐっすりと眠りについた。




まだまだ、やることは沢山ある。

でも今はそれらを忘れていたい。

強くなった俺達ならきっと全て上手くのだから。


最愛の二人が側にいれば、怖いものなど何もない。

これからの旅は毎日が幸せな、きっと素敵な旅になるだろう。


転生して調子に乗ったり、苦しんだりもしたけれど、それはそれで良かったと思う。


大きな代償を払い、今、最高の幸せを手に入れたのだから。


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