代償と負け戦
クロが記憶を取り戻してから数日が経過した。
「さあ、クロ、何処からでもかかってきな!」
「分かったニャ!全力で行くニャ!」
クロは魔法を思い出し、治療院での仕事が終わった後は、近くの森で手合わせをしている。
クロの魔法は初めて見るものが多く、魔導書に沢山記録出来たので良かった。
そして、なかなか強くて驚きだった。
完全に死角を攻撃され、防御魔法に頼る回数が多くなってしまった。
レベル差をものともしない、いい戦いだった。
「すごいな、クロ。予想よりも全然強くて、正直驚いたよ。まだ、改良出来そうなところも見つけたから、これから頑張ろ!」
「やっぱりご主人様は強すぎるニャ!ありがとニャ!頑張るニャ!」
クロとの特訓を終えた後、ふと国境の森が気になったのてを、ドライアトに調子を聞きに森へ飛んでいった。
大分飛ばしたので早めについた。
相変わらず大きな木の壁を眺めながら、俺はドライアドを呼んだ。
「おーいドライアド、いるかー?」
「はーい、いますよ。」
ドライアドは直ぐに木の壁からスルッと生えてきた。
なかなかシュールな光景だ。
「異常は何も無いかな?」
「はい、いつもと変わりませんよ。」
戦争しないために作った木の壁だが、ドライアドのおかげで変わらずに保たれているみたいだ。
「それなら良かったよ、また、定期的に来るからね。」
「はーい、いつでもいらしてくださいねー。」
そう言うと俺は空を飛んで帰ろうとした。
その時だった。
「んな!?なんだ、この魔力は!?」
いきなりはるか上空に強大な魔力を感じた俺は、急いでドライアドを抱きよせ、自分の出来る最大の防御魔法を使い身を守った。
次の瞬間、空がピカっと光ったかと思うと木の壁が一瞬で消し炭になり、俺自身に大きな衝撃が伝わってきた。
「頼む、耐えてくれ!」
俺は必死になり、回復魔法と防御魔法を同時に発動するという進化をとげていたが、そんなことを気にしている場合ではないほど魔法を連発していた。
時間としては数秒間でしか無かったが、体感としてはとても長い時間が過ぎていた。
「何が起きたんだ?」
「えっ!えっ!?」
「なんじゃ、何が起きたのじゃ主!?」
煙や塵で辺りが見えない中、エントも元の姿に戻り警戒を始めた。
ドライアドはまだ状況を理解できず混乱しているみたいだ。
「分からない。でも攻撃されたのは確かだ。」
俺自身、心臓がドキドキして落ち着けず、冷静になるのに時間を要した。
少しして、煙の届かないところまで二人にしがみついてもらい、空を飛んでみた。
「これは!?」
空高くから見て分かったことは、俺が作った木の壁、戦争させないために国境に作った木の壁が消滅していたのだ。
明らかに木の壁を狙って真っ直ぐに攻撃されているのが目に見えて分かった。
「これは、どういうことだろう。いったい誰が?」
「主の作った壁がほぼなくなっておるな。これはもしや…。」
何か心辺りがありそうなエントに質問をしようとした時、いきなり後ろから声がしてきた。
「ほう、妾の攻撃に耐えるとは珍しい人間がいるものだ。」
俺は驚き後ろを向いて臨戦態勢になった。
振り替えると金髪ツインテールのゴスロリ姿の幼女がいた。
いつもの俺なら「金髪幼女キター!」とか叫んでいるところだが、今はひたすら警戒をしてそれどころではなかった。
「…何者だ?なぜ、俺らを攻撃した?」
俺はそう言い、幼女を睨んだ。
だが、隣のエントとドライアドは何故かガタガタと震えて、蛇に睨まれた蛙のようになってしまった。
空に飛んでいる時に力を抜かれると支えている俺が困るので、風魔法で二人を遠くに運び、座らせておいた。
「もう一度聞く、なぜ、俺らを攻撃した?そして何者だ?」
幼女は俺を見て少し感心したかのように答えた。
「ほう、妾の威圧に耐えるとはお主人間ではないのか?なかなか珍しい。良かろう、質問に答えてやる。妾は炎竜ミスティ。五大竜族の一人だ。そしてそなたらを攻撃したのではない、邪魔な壁を取り除く際、そなたらがたまたま側にいただけだ。」
五大竜族だと!?…知らん。
「たまたま側にいただと?それで俺らが死んだらどうするんだ!」
ミスティを睨み付け言ってみる。
「そんなことは知らぬ、虫が一匹死のうと妾はどうも思わぬ。まあ、妾の攻撃を防いだそなたは虫では無さそうだがな。」
「てめぇ、人の命を何だと思ってんだ!それになぜ壁を壊した?あの壁のお陰で人間と獣人が戦争をしなくて済むかもしれないんだぞ!」
俺は怒った。
殺されかけたのだから。
「ほう、妾にそんな口を聞くとはいい度胸だ。まあ、躾のなっていない子どもだと思って大目に見てやろう。壁を壊した理由は、妾が人間と獣人の戦争が見たいからじゃ。暇潰しに。」
…はぁ!?
時間が止まった。
こいつ、戦争を暇潰しと言いやがった。
あまりにも身勝手なことを言ったミスティに怒りゲージがマックスになった。
「戦争で多くの人が死ぬってことが分からないのか?てめぇは。」
「妾が見たいから見るだけで、人間や獣人のことなど知らぬ。」
俺が止めるしかない。
この炎竜の行動を。
「お前の暇潰しに戦争を起こさせてたまるかー!!」
俺は魔導書を取り出し今までの水魔法を思い出し、合成させる。
そして怒りに任せて出来た最強の水魔法でミスティを攻撃した。
どんな防御魔法でも貫けるような水の槍が飛んで行き、ミスティに当たる。
「ドゴォォー!」
水蒸気爆発でも起きたかのように辺り一面が真っ白になった。
「どうだ!?」
確実に当たったはずだ。
そして、俺の全力はこの世界で最強だ。
つまり、どんなに竜とやらが強くても大丈夫。
……そう、心の何処かで思っていた。
「人間ごときが妾に傷をつけるなんて…許さない!」
霧が薄くなり段々と姿が見えたミスティは、幼女の姿ではなくとても大きな竜の姿になっていた。
「なん…だと!」
真っ赤な竜、全身が燃えていて距離が離れているのに熱気を感じる。
背中に大きな羽を生やし、二本の角が鋭く伸び、可愛らしい女の子の面影など一切ない竜へ変貌を遂げていた。
鱗の一つ一つが赤く黒く光り、金色の眼光は恐ろしく殺気を放っていた。
俺の魔法で出来たと思われる傷は、竜の腕にあったが大したこと無く、直ぐに塞がっていくのが見えた。
「やってくれたな。妾に傷を着けるとは。人間ごときが、竜の力を思い知れ!」
「俺は間違ったことはしてない。お前の考えを改めさしてやる!かかってこい!」
俺と竜の戦いが始まった。
「ステータス」
心の中で唱え、ミスティの強さを見て弱点を探す。
ミスティニアス(ミスティ)
年齢560
職業なし
レベル 520/1000
種族竜
技能
『竜族』 全ステータス10倍
『竜の鱗』 防御力5倍
『炎王』 火属性攻撃の威力が10倍になる
『長寿』状態異常にかかり辛くなる
※レベルに応じて効果上昇
状態ステイト 怒り
健康
犯罪歴 国を滅ぼした
体力S 魔法力SSS 筋力SSS 智力B
弱点 水魔法、氷魔法(ただし怒り状態時無効)
…おわた。
俺はステータスをもっと早く見ておくべきだった。
俺は自分よりもはるかに強い相手なんていないと思っていた。
だが、それは相手が人間の場合に限るとこのとき初めて知った。




