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代償と仲良し

「今は、クロは僕の奴隷って形なだけだよ。この治療院でお金を稼いだら、そのお金で奴隷から解放させるんだ。」


僕はこの世界で11年生きてきたとはいえ、人生の三分の二は日本で暮らしてきた。

奴隷なんてあるのがおかしいと思うし、クロはかけがえのない存在だ。


「そんな戯れ言信じられぬわ。…だが治してくれたことには感謝をしよう。助かった。」


戯れ言って言われた。

感謝されたのはうれしかったけど。

だが、納得して貰えるまで返したくない。


「僕は戦争の後に生まれてるんだよ、だから、大人のいざこざなんて知らないよ。獣人とか人間とか種族なんて関係無いさ。」


僕がそう言うと彼女の目が少し変わった。

ほんの少し可哀想なものを見る目で僕を見てきた。


「…子どもは大人の恨みを聞きながら成長する。だから、自然と子ども達も対立してしまうのさ。…もし、仮にそなたが差別なくクロさんといることが出来ても、周りから必ず嫌がらせなり、変な目で見られたりするさ。残念だがそう言う時代さ。」


時代の雰囲気には逆らえないとでも言うようだった。

彼女も獣人と人間のお互いが仲良く暮らす世界を、一度は夢見てたかもしれない。

俺は心に熱いものを感じた。


「…僕が変えて見せるさ!どんな試練があろうとも僕が変えて見せるよ!クロと二人でね!」


そう言うと俺は近くにいたクロを引き寄せ、手を握った。

クロの手は思いの外、弾力があって気持ちが良かった。

クロは少し驚いた表情をしたが、嫌では無くにっこりと微笑んでくれた。


「…そなたらは、相当仲の良いみたいだな。クロとやらから嫌がる雰囲気が一切感じられぬ。もしかして恋人同士か?」


恋人同士に見られるのは嬉しい。

クロへの想いは出会ったときから何倍にも膨らんでいる。

はっきり面と向かって「好きだ!」と言いたい気持ちはあるが、長年の童貞にはまだ難しい話だ。


「そ、そんニャ!恋人だなんて!ご主人様はご主人様ニャ!身分が違うニャ!私なんかじゃ釣り合わないニャ!」


クロが慌てて否定をしてきた。

だが、クロのようなとてつもなく素敵な女性が、身分を気にした発言をしたことに少し悲しくなった。


「クロ、僕の目を見て少し屈んで。」


俺はそんなクロを見て、行動に移した。

クロの目をしっかりと見つめ、微笑んだ。


「クロ、身分とか釣り合わないとか言わないでよ。寂しいよ。僕はクロが大切で、かけがえのない存在なんだから。僕はクロに、これからも側にいてほしいと思ってるよ。どんな困難も乗り越えてね。」


「好きだ」とか「恋人になってくれ」とかはまだ言えない。

僕はまだ、この世界で11年しか生きていない甘ちゃんだ。

クロが大切だとは言えるけど、他の言葉は俺が大人になってから言うつもりだ。


「…ニャア。嬉しいニャ!勿論、ご主人様の側にずっといるニャ!」


クロは満面の笑みを浮かべた。

そのとっても素敵な笑みを見て、僕も嬉しくなった。


「…お主らのような人ばかりなら、戦争がまた起きなくて済むのにな。今度の戦争でそなたらが生き残ることを祈っているよ。…じゃあな。」


俺とクロのやり取りを見ていた女性は、そう言うと立ち去ろうとした。


「…ん?今度の戦争?ちょ、ちょっと待って!今度の戦争って何!?」


俺は慌てて彼女に質問した。


「…ああ、そなたは知らなくて当然だな。私は軍に関わる獣人なのでね、色々知っているのさ。ガルム獣国では獣人の選別を行っていて、純粋な獣人どもだけを集め、最強の軍隊を作っているのさ。近々、総攻撃を仕掛ける手はずさ。」


彼女はそう話してくれた。

俺は驚きを隠せなかった。

だが、あまり実感はなかった。


「それじゃあ、また戦争が起きるってこと?というか、こんなこと、俺にはなして大丈夫なの?」


僕が人間にこのことを伝えた場合、獣人には大きな痛手になると思って聞いてみた。

…あれ?もしかしたら子どもの戯れ言とか思われるのかな?


「大丈夫さ。そなたは中立の立場だから。それに…」


彼女はそう答えると俺に魔法をかけた。

殺気は感じられなかったので、常に貼っている防御魔法を解除して魔法にかかってみた。


「…何したの?」

「ああ、さっき私が話したことを誰にも伝えられないように、そなたとクロどのに魔法をかけたのさ。」


特に違和感がなかったので聞いてみたが、僕は誰にもこのことを伝えられない状態になっているらしい。

試しに大声で「近々、獣人が総攻撃仕掛けてくるぞー!」と言おうとしたが、声が出なかった。

声だけかと思ったら、紙に書こうとしても手が動かなくなり無理だった。


「ほんとだ!すごいね、この魔法。どうやっても伝えられないかもね。」

「私の自慢の魔法だからな。内緒だぞ。…そなたらは、戦争から逃げてほしいと思って言ったことさ。恩人であるそなたらに死んでほしくはないからな。…なんとか生き残ってくれ。」


そう言うと彼女は帰っていった。


治療院を閉めた後、さらっとかけられている魔法を解除してクロと相談した。


「クロ、戦争が今度起きるみたいだね。僕たちはどうすれば良いのかな?」

「クロはご主人様にずっとついていくニャ!ご主人様に任せるニャ!…でも、出来れば獣人も人間も死なないでほしいニャ。」


俺も悪いやつ以外は死ななくていいと思う。

だが、規模はわからないがかなりの死人が出るだろう。

俺は人間だけど、獣人とは戦いたくない。

かといって、この街の人を見殺しにもしたくない。

それなら…。


「国境の森の木を異常に成長させて、獣人国と人間国に行けなくしちゃえばいいのでは?」


俺は思い付いた。

俺の回復魔法なら時間さえあれば軍が通れなくなるくらいの木の壁を作れると。


「ご、ご主人様?クロにはどういうことかわからないニャ?」

「クロ、ちょっと閃いたことがあるから試してみるよ。戦争がそんなに直ぐに起きるとは思えないから、その考えがだめだったとき、また話そ。」


クロにそう伝え、家に帰り両親が寝たのを見計らって、俺は国境の森まで飛んだ。


国境の丁度真ん中辺りに飛んでいる俺は、真っ直ぐ飛べるように光の線で目印を作った。

ラ○ュタの飛行石が出す、道のりを示す光をイメージした。


「主よ、いくらなんでも無理ではないのか?」


エントがそう言うが、俺をなめてもらっては困る。

物理的な意味でなめてくれるなら歓迎だが。


「エント、大丈夫だよ。見てて!」


そう言うと俺は森の木の上を超高速で飛びながら、広範囲に思いっきり魔力を込めて回復魔法を使った。

もちろん、人間や獣人がいないか魔法でサーチしながらだ。


「…主は我より化け物じゃな。」

「エントの何処が化け物だよ。可愛い女性だろ。俺もちょっと人間離れしてるだけだって!」

「か、可愛い女性などとっ!」


そんなやり取りをしながら、俺はひたすら飛んだ。

俺の通ったところの木が成長し続けているのが、目に見えた。

途中途中見つけた人は、魔法で眠らせて完全に安全なところまで運んであげた。


そうしている内に夜があけて来たので、帰ることにした。


「…これは、やり過ぎたかもしれない。」


振り返ると、そこには真っ直ぐきれいにはるか遠くまで、木の壁が出来ていた。


壁というと大したこと無さそうに聞こえるが、育とうとする木がぶつかり合い、上に横に広がり密度がかなり細かくになった木は、横幅50メートル以上、高さ200メートル以上の壁を作り上げた。


「主よ、いまさら何をいっておるじゃ。すごいではないか。目的は達成しているのじゃから。」


エントにそう言われたので、まあ、目的を達成したからいいかと思い、家に帰った。



後日、両方の国で大騒ぎになったことは言うまでもない。

だが、フレードはトレーニングになると思い、毎日の夜、壁の長さや厚さを増やしていった。


「主よ、いまさらじゃが完全に獣人国への道をふさげば商人達が困り、また双方仲良くなるという目標を達成するのは難しくならないか?」


後々、エントにそう言われた俺はハッとして、獣人の関所から人間の関所に一直線につながる、馬車がすれ違うことの出来る幅の道を、3日で作り上げた。

木の壁をぶち抜いたトンネルも作った。


「道がよくなったけど、これだと軍も動き安くならないかな?どうしよう…。そうだ!」


俺は木のトンネルに魔法をかけた。

殺意を持った人はその障壁に弾かれ、入ることは出来ないようにした。

殺意を攻撃と見なし、障壁で守る。

殺意は体全体から出ているため人が入ることが出来ない仕組みだ。


魔法の組み合わせや、対象の変更など、魔法には沢山の応用が出来る。

その度に魔導書には新たな魔法として追加されたり、吸収合体されて一つの魔法になったりする。

気付いたのは少し前なので、これから頑張りたい。


フレードはドライアドを呼び、木の壁を住みかとして与えて代わりに管理を頼むことにした。


両方の国は大騒ぎになったり、神の仕業など色々と言われたが、しばらく戦争は起きそうになくなったので、フレードは安堵した。

一時的に戦争が起きないように止めました。

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