代償と異世界転生
心地のよいフカフカのベットで寝ていたら、急にプールに落とされて息が出来なくなった時のように苦しくなった。
「おぎゃー、おぎゃー」
上手く息ができず、22歳なのに、泣きわめいてしまった。
しばらく泣き止むことが出来なかったが、息が出来るようになり、段々落ち着いてきた。
世界がぼやけ、音がはっきりと聞こえない。
そして誰かに抱き抱えられている感覚がある。
この状況から、俺は転生して赤ちゃんとして生まれたのだと分かった。
今、俺は「私がママですよー」とでも言われてるのかと思っていたが、周りが異様に騒がしくなってきた事に気が付いた。
なにやら俺が生まれて喜んでいる雰囲気ではないっぽい。
どうしたのだろうと考えているとき、二つ気付いたことがあった。
一つ目は右目が見えていないことだ。
右と左で明らかに視野に差があったから気付いた。
二つ目は左腕がないことだ。
右手は動かせたが左手が動かないなーと思って下目で見ると、そもそも肩から先がなかった。
一瞬驚いたが、技能と引き換えに右目と左腕を失ったことを思い出した。
周りが騒がしいのは俺の右目と左手が無いからだろう。
とりあえず、泣き疲れたのでしばらく寝ることにした。
さてさて、生まれてから色々検査されたみたいだが、相変わらず視界はぼやけ、音も上手く聞き取れないので、しばらくはたくさん寝て母乳を飲んでを繰り返すことにした。
二週間ほどが経過し、大分目と耳がしっかりとしてきた。
なので、父親と母親らしき人の部屋で寝ていた俺は、そろそろ状況を整頓することにした。
まず、新しい名前はターリア・フレードらしい。
ターリアが名字、名がフレード。
日本語と同じく名字が先のようだ。
父さんにはフレード、母さんにはフレちゃんと呼ばれている。
父さんはターリア・ヘルクレード。
日に焼けた体で、髪の毛は無くスキンヘッド。
鋭い目付きで顔が怖く、そして体がでかくてゴツい。
「フレード、お父ちゃんでちゅよー。あーもう、かわいいなー!ほれほれ高い高いー。」
だが、俺にデレデレなのでうれしい。
怖いから顔を近づけられるとつい泣いてしまうが。
母さんはターリア・ソフィ。
肌が透き通るほど白く、髪は長い銀色、目の赤く、スレンダー体型のとんでもない美人だ。
「もう貴方ったら、またフレちゃん泣かして!フレちゃん、怖かったねー、でも大丈夫でちゅよー。おっぱいの時間にしましょうねー。」
父さんと同じく母さんも優しい。
この人からおっぱいを貰うとき、内心はヒャッハーと叫んでいるが、赤ちゃんなので性的興奮が出来ず、ずっと賢者モードだ。
さて、次に俺のステータスだが、自分自身に鑑定をかけると見ることができた。
鑑定をかけたと言っても、自分の体を見ながら「ステータス見えろ~」って念じただけだけどね。
ターリア・フレード
年齢 《エイジ》0
職業 無職
レベル 22
種族人間
技能
『異世界言語 』 誰とでも会話が可能
『鑑定』 見たものの価値や効果がわかる
『回復を極めし者』 死んでいなければ、どんな病気、怪我も治すことができる
『魔導書』 一度見た魔法を記録し、使用できる
※レベルに応じて効果上昇
状態 元気
右目、左腕欠損。人間の女性と性交不可。
とりあえず、一つ一つ確認してみる。
名前と年齢、職業は合ってるが、いきなりレベル22からスタートになってる。
22歳で死んだからかな?
女神様からのサービスかもしれない。
女神様に感謝だ。
次に技能、『異世界言語』。
これは便利だね。
しゃべれるようになったら、いきなり会話が出来るってことだもんね。
言語の壁よ、いつでもかかってこい!…なんてね。
次に『鑑定』。
これは今、自分にやったからなんとなくわかる。
ためしに部屋のドアを調べてみた。
ドア 硬い木使用 定価15000クロムと見えた。
見えたといっても、目の前に浮かんでいるように文字が表示されたと言った方が正しいかもしれないが。
すごく、便利な技能だ。
この技能で転売とかでお金を稼げるかもしれない。
この世界でのお金の単位は「クロム」みたいだ。
次に『回復を極めし者』。
これはとてつもないと思う。
俺の前世の集大成かもしれない。
今、現時点でどれくらい大きな怪我を治せるかは分からないが、かなり期待できるのではないか。
試しに自分に回復しろーと念じてみた。
すると、自分の体が白く光り、疲れが完全に吹き飛び、小さな傷も全て治った。
とても驚いたが、魔法が使えるのことに大喜びだ。
詠唱とかじゃなくて、イメージが大切なのかな?
段々研究していきたい。
ただ、この技能は使うことが少なければいいと思う。
技能を使う分だけ苦しんでいる人がいるってことだもんね。
助けられる人がいたら極力助けたい。
自分に回復魔法をかけたとき、ほんの少し自分の腕が再生するかも、と考えたがそんな都合よくはいかなかった。
…代償だもんね、少し残念。
次に『魔導書』。
これが俺の戦える能力で、三つの代償を払って貰えた能力だ。
一度見た魔法を記録して使える効果。
大人数でやる魔法とかを見ることが出来れば、俺一人で大きな魔法を使うことも出来るのではないだろうか。
世界中の魔法をパクって、改良出来れば改良して、最強を目指してやる。
そして最後に俺の状態だが。
右目と左腕、人間との性交不可。
ちゃんと女神と話し合った内容道理だ。
いずれどうにか出来るといいが、慣れるまで時間がかかりそうだ。
まあ、がんばるとしよう。
そんなこんなで、大体自分のことは知ることができた。
あとは、どうすればレベルが上がるのか調べたり、この世界の情報も集めて、幼少期を乗りきるだけだ。
大体早くて8ヶ月から赤ちゃんはハイハイだったり、ママと呼んだり出来るようになるから、頃合いを見て行動しようと思う。
これが本当の赤ちゃんプレイ。
…なんてね。
なんとかがんばろうと思う。
まあ、ハイハイとかは左腕ないから難しそうだけど。
1日中状況整理などで疲れて寝ていた俺だが、ふと、声が聞こえたので目を覚ますと、母さんが僕を抱っこしながら何かを言っていることに気が付いた。
「…ごめんね。フレちゃん。ちゃんと生んであげられなくてごめんね。目と腕、しっかりしてあげられなくてごめんね。」
…どうやら母さんは、俺の右目と左腕か無いことに謝っているようだった。
代償だからと割りきっている俺の心境など、伝えることなど出来ず、俺は心の中で母さんに「大丈夫だよ」と言い続けるのであった。
ターリア・ヘルクレード視点
ソフィが妊娠してから10ヶ月が過ぎ、念願の赤ちゃんが生まれた。
もちろん俺の子だ。
なかなか子どもが出来ず、ソフィは気に病んでいたが、俺はソフィさえいれば大丈夫と思っていた。
だがソフィが、妊娠したと聞いたときは喜び過ぎて色々やらかしてしまった。
まあ、いい思い出だろう。
我が子の為にお金を稼ごうと、いつもの何倍も頑張った。
十分過ぎる貯金が出来たので、生まれる月には、ずっと一緒にいることにいた。
ソフィの負担を減らすために、慣れない家事もがんばった。
そして、ソフィが子どもが産まれると言ったとき、一瞬パニックになったが、出産の立ち会い経験のある人たちを何人か呼んできた。
念のため大ベテランの婆さんも呼んできた。
俺はソフィの手を握り続け、ずっと「がんばれ!」と声をかけた。
そして、何時間たったかは分からないが、ようやく子どもが生まれた。
おぎゃーと泣いていて、元気な男の子だった。
だが、一目見たときに左腕が無いことに気がついた。
さらに右目も…。
俺は混乱したが、その状況を理解したソフィが泣きながら謝り始めたため、一気に冷静になった。
そして、ソフィをなだめて、二人で大切にしっかり支えながら育てて行くことに決めた。
足りない部分があったとしても、かけがえのない我が子にはかわりない。
めちゃくちゃ可愛いのだから。
何でも治せるというユニコーンの角というアイテムの噂を聞いたことはあるが、そんな噂に惑わされず、1日1日大切にこの子を育てることを決めた。
ただ、毎回俺の顔を見て泣くのはやめてほしい。
いつになったら俺の顔に慣れてくれるのかも少し不安だった。
この子はフレードと名前を着けた。
俺のおじいちゃんと同じ名だ。
おじいちゃんはSランク冒険者で、国を襲った竜を撃退した英雄だった。
今は死んでしまっていないが。
そのくらい強く、たくましくなってほしいと、願いを込めてその名を着けた。
…近い未来、フレードはその名以上のことを成し遂げるのだが、それは後の話。
この世界は基本、冒険者を基準として強さを計られています。
代償はそう簡単には治って貰っては困るので、当分は片目、片腕です。ただし、例外はあります。
不便ではありますが、主人公は割りきっているので大丈夫です。
よろしくお願いします。