表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/37

代償と最強の二人

ヘルクレードとヘルンは、獣人に対する怒りと、二人を助けたいという気持ちで、たった五秒であるが、人類の限界を越えた。


ヘルクレードは、ケルベロスの頭の真下に一瞬で移動し、三つの首を切り落とした。

ヘルンは自信に強化魔法を重ね掛けし、キメラの真上に飛んで移動し、炎の光線でライオン、ヤギ、ヘビの三つの首を焼き切った。


獣人が作り出した最高傑作の二体の化け物は、ヘルクレード達を前に、いとも簡単に崩れ落ちた。


一瞬で勝負はついた。


「サイラム、ちゃんと街まで連れてくから、安心して眠れ。今までありがとな。」


サイラムの遺体をケルベロスから切り取り、ヘルクレードは声をかけた。


「ありがとう、ヘル。これで成仏出来るよ。未練は…エルのことだけだが。それはいずれあの世でエルに会ったら聞くことにするよ。ヘル、お前は長く生きてソフィと幸せになってくれよ。それが俺の最後の願いだよ。」


ヘルクレードには、サイラムの声が聞こえていた。


「お前の分まで、幸せになってやるよ。じゃあな、あの世で幸せにな。サイラム。」


心なしか、サイラムの亡骸が微笑んでいるように、ヘルクレードには思えた。



「エイティ、戻るのが遅くなってごめんね。俺は当分、そっちの世界には行けないけど、君をいつまでも愛してるから、安心して待っていてくれ。」


ヘルンもエイティの遺体を取り出し、声をかけた。


「ありがとう、ヘルン。この世界から離れようとしたけど、やっぱり貴方のことが心配で離れられなかったの。でも、もう安心ね。さすが私の最高の旦那さんだわ。私もいつまでも貴方を愛してるわ。…残念だけど先に行くわね。」


エイティの魂は今度こそ、あの世に行くことが出来た。


「俺があの世に行ったら、結婚式を挙げよう。何十年も後になって俺がヨボヨボになっても、俺の気持ちは変わらないと約束するから!」


エイティの亡骸は凄く幸せそうな顔をしていた。

それを見て、ヘルンは少し心が軽くなった。



一方その頃、ザラカス達はおおいに焦っていた。


「な、なんだと!?あの化け物が一瞬でやられただと!?夢でも見ているのか?」


あっという間にただの肉の塊へと変化した二体の化け物と、それを倒した二人を呆然と見つめていたが、状況の不味さに気付き、焦りはじめた。


「予定ではあの二体にもっとたくさん人間を殺してもらうはずですが、まだかなり少ないので上が黙ってないと思います。」


黒ローブの男が発言すると、ザラカスは焦り、イラつきはじめた。


「そんな事は分かってる!もっと殺さないと俺らが咎められて、制裁を受けるかもしれない!名声など話してる場合ではない、汚名を着せられる前に何とかしないと。」


「ヘルクレード、ヘルン。まさか、あの二人があんなに強いなんて…。」


エルの発言に、ザラカスはハッとした。


「そ、そうだ、エルお前のせいだ!お前があの二人の力量を測り違えたおかげでこんな目にあってるんだ!元はと言えば、お前がヘルンをきちんと捕まえたり、上手くやっていればこんな目には会わなかったはずだ!責任は全てお前が負え!」


ザラカスは、国から自分が嫌われないために、事の全ての失態をエルに押し付けた。

幼い頃から支えあってきた兄妹の関係を簡単に壊す発言だった。


ザラカスにとって、一番大切なのは国と自分であり、エルはいざというときに切り捨てることが出来る、駒の一つに過ぎなかったのだ。


「そ、そんな!ひどいよ!いくらなんでもそれはないよ、お兄ちゃん!」


「う、うるさい!お前は一人で敵に向かっていけ!全員殺すまで帰ってくるな!」


その時、エルは泣いていた。

小さい頃からずっと一緒に育ってきた、最愛の兄にこんなにも簡単に捨てられたことに。

涙が溢れて止まらなかった。


「うっ!な、泣くな!殺すぞ!その顔を見せるな、さっさと行け!」


「お、おい、いくらなんでもそれは…。」


「だ、黙れ!」


「ぐはっ!」


さすがに周りにいた黒ローブのひとりが止めようとしたが、ザラカスは腰に下げていた剣でそいつを切り捨てた。

ザラカスの追い討ちの発言に、エルの精神は完全に壊れた。


「ザラカスさん、何をしているんですか!?エルさんもしっかりしてください!」


「うるさい、黙れ!」


「……!!」


ザラカスは、感情が高ぶり、自分に意見する味方を攻撃しはじめ、エルは部下の呼び掛けもむなしく、無言でケルベロスと対峙していた敵の集団に向かって走り出していた。


「…ザラカスさん、すみません!」


状況を見かねた黒ローブの一人がザラカスを後ろから殴り、気絶させた。

エルは人間に魔法を放とうとした時、一人の男に気絶させられていた。


エルを気絶させたのは、ヘルクレードだった。




ヘルクレードとヘルンは、二体の化け物を倒したあと、すぐに黒ローブ達の存在に気がついた。


「ヘルン、気付いてると思うがお前の言っていた黒ローブ達はあいつらだな?」


「ええ、そうよ!魔法で気配は消しているけど、間違いないわ。…敵を討つの?」


「ああ、勿論だ。俺はあいつらが許せないからな。ここは、俺一人に任せてくれないか?ヘルンは、サイラムとエイティの遺体を街に連れ帰ってくれ!俺も直ぐに帰るから!」


ヘルクレードはサイラムの遺体をヘルンに渡した。


「分かったわ。ここは、貴方に任せるわよ。私は責任持って二人を連れ帰るから、ヘルクレードも必ず帰って来てね!」


ヘルンはそういうと、急いで街に戻り始めた。

ヘルンも黒ローブ達を倒したかったが、一刻も早く戦場から二人の遺体を離してあげたかった。


ヘルンを見送り、黒ローブ達の元へ近付いていくヘルクレードだったが、いきなり一人が飛び出し味方に攻撃しようとしたので、急いで倒そうとした。


「な!?エルだと!?」


だがしかし、切ろうと思った敵がいつも一緒にいたエルだったため、殺さずに気絶をさせた。


状況が理解出来ないヘルクレードは、取り敢えずエルをその場に寝かせ、黒ローブ達の元へ走り出した。


「ま、不味い、気付かれた!」


黒ローブ達は、ケルベロスを一瞬で殺した男に見つかったことに気付き、一目散に逃げ出した。


「俺はお前らを許すわけには行かない。だから…死ね!」


「嘘…だろ…。」


黒ローブ達は全員、ヘルクレードの手によって、下半身とお別れをし、息絶えた。


「こいつは生きてるな。…事情を聞かせてもらうか。」


ヘルクレードは一人だけなぜか気絶していた男を肩に背負い、気絶しているエルも持つと、戦場から離脱した。


ケルベロスとキメラの化け物がいなくなったため、人間達は勢いを取り戻した。




数時間がたった。

比較的安全な場所にきたヘルクレードは二人を地面に下ろし、エルをゆすって意識を戻し、話を聞くことにした。

心の何処かで、エルをまだ信じていたヘルクレードは、すぐにエルを殺すことが出来なかった。


「エル…。事の全てを話せ!」

「……。」


エルはゆっくりヘルクレードを見ると、目の光を取り戻し始めた。

しかし、それと同時に自分が今までしてきたこと、仲間を裏切ったこと、兄に裏切られたことが一気にエルの脳内を駆け巡った。


「あ…ああああ!!」


エルは気付いてしまった。

自分の愚かさに、何も知らなかったことに。

国や兄にとって、自分はいつでも切り離される存在だったことに。

唯一、本気に自分を大切にしてくれた人達を裏切ったことに。


「おい!エル、どうした!?」


エルは涙を流し、意識を手放した。

…そして、二度と起きることはなかった。


エルはショック死です。

ザラカスがクズなのも育った環境のせいかもしれないですね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ