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代償と報告と決断

ヘルンは、ヘルクレードとソフィに一部始終全てを話した。


ヘルクレードとソフィはその話を静かに聞いていた。

そして、二人の瞳からは涙が溢れていた。


「そんな、嘘だと言ってよ…ヘルン。そんな事信じられるわけないよ。エイティとサイラムさんが死んだなんて、エルさんが裏切るなんてあるわけないよ!」


ヘルンが嘘を言っていないことは明らかだが、ソフィは叫ばずにはいられなかった。

受け止めたくない現実がそこにはあったのだから。


「ソフィ…。俺のせいだ。エイティもサイラムも守ることが出来なかった。」


「ヘルンのせいじゃない。ヘルン、良く帰って来てくれた。お前が一番辛かっただろ。今は、傷を癒すことに専念してくれ。」


ヘルクレードは、歯をくいしばって泣いているヘルンに声をかけた。


「サイラム、エイティ…。そしてエル。つい先月まであんなに仲良く皆で笑いあってたのに。それがこんなことになるなんてな。」


ヘルクレードはもう二度と見ることは出来ない、パーティー全員が揃った姿を思い出し、再び涙を流した。


各々、気持ちを整理するために、今日は解散して明日話し合うことに決めた。


「サイラム、いつも俺達は小さい頃からいつも一緒だったのに、お前だけ先に行くなんてな。俺を置いていくなよな…。」


「エイティ、貴方の笑顔に何回救われたかしら。貴方がいたから今の私はいるのに。まだ、恩返し出来てないわよ。帰って来てよ、エイティ…。」


ヘルクレードとソフィは、夜、星を見上げて呟いていた。



…次の日になった。

ヘルンのところに集まり、今後どうするかを三人で話し合った。


「サイラムとエイティを森に残しておくわけには行かない。この街じゃないとあいつらは安らかに眠れないからな。」


ヘルクレードとソフィは、二人の遺体を連れ帰ることに決めた。


「エイティにだけは、魔法をかけたから運が良ければ見つかっていないはずよ。でも、もうすぐ大規模な戦争が始まるわ。そう簡単に森にはいけないわよ。」


ヘルンの言うとおり、クロム王国が獣人国に大規模な攻撃を仕掛けることは、国から聞いていた。


「…戦争には国から呼ばれていたが、参加する気はなかった。だが、状況が変わった。俺は戦争に参加して、軍に紛れて森へ行く。そうしたら、サイラムとエイティを連れて帰ってくるよ。」


「だめよ、ヘルクレード!行かないで!もし、貴方の身にまで何かあったら、私はこれから先、生きていくことできない!側にいてよ、ヘルクレード!」


ヘルクレードの考えに、ソフィは反対した。

ソフィは、最愛のヘルクレードにまで何かあった時のことを考えると、怖くてたまらなかった。


「ソフィ、大丈夫だ、必ず帰ってくるって約束するから。俺は死なない。ソフィが生きている限り。ソフィは戦争で怪我した人が一人でも助かるように治してあげてくれ。頼んだぞ。」


ヘルクレードの意思は変わらない。

ソフィはヘルクレードに抱きつき、不安を押し殺していた。


「ヘルクレード、一人じゃさすがに無理よ。私もついていくわ。エイティにすぐに戻って来るって約束したから。私がサイラムとエイティの場所まで案内するわ。」


「ヘルン、助かる。お前に相当な負担をかけてるが、しばらくは頼らせてくれ。」


「何言ってるのよ。仲間は助け合うのが当たり前よ。」


ヘルンとヘルクレードで行くことに決定した。

ソフィは前線では足手まといになるため、後方で怪我人を治療するのに専念することになった。


「ヘルクレード、ヘルン。絶対に帰って来てね。」


「もちろんだ。ソフィも気を付けろ。危ないと思ったらすぐに逃げてな。」


「ソフィちゃん、私たちは必ず帰ってくるわよ。ヘルクレードのことは任せてね。」


話し合いが終わり、それぞれの役割が決まった。

三人は戦争の準備を開始した。



それから二日が経過し、クロム王国の大規模な作戦が始まった。

王国の軍隊と、各地から集められた冒険者や国民が国境の森へ進軍していく。


森には、たくさんの獣人が待ち構えており、大規模な戦闘が始まった。


「進め!獣人どもを皆殺しだ!」


軍の指揮官の合図にあわせて、たくさんの人間が相手側に流れ込む。

身体能力の高い獣人と魔法と連携に優れた人間の対決だ。


「死ね!消えろ!」

「う、腕が。誰か助けてくれ!」


あちこちから爆音や悲鳴が響き渡る中、ヘルンとヘルクレードはエイティのいた場所まで来ていた。


「エイティどこだ!なぜいない?」


ヘルンは敵を切りつけつつ、エイティと別れた場所にきていた。

しかし、一向に見つからなかった。


「ヘルン、ここで間違いないのか?」


「ああ、間違いない。この木だ。だが、エイティがいない。もしかして、獣人共に見つかったのかも。」


エイティと別れて数日がたっているとはいえ、ヘルンの魔法の効力はそこまで低下していなかった。

それをモンスターが見つけるのは考えづらい。


「黒ローブ達を見つけて聞くしかない。」


二人は黒ローブ達を探すことにした。

獣人で魔法が得意ならば、必ず戦争に参加してくるはずと考えていた。

ちょうど、その時だった。


「な、なんだ!?あの化け物は?」

「ひぃぃー!に、逃げろ!」


叫び声を上げながら、ヘルクレードとヘルンよりも前にいた人達が、一斉に逃げてきた。


「なんだ!?何がいる?」


二人は気を引き締めた。

かなり奇妙な気配が二つ、近付いてくるのが分かったからだ。


「な、なんだこれは!?」


木々が倒され、姿を表したのは、十メートルを優に越す、化け物だった。

一体は三つの犬の首が着いた、俗に言うケルベロス。

もう一体は、ライオンとヤギとヘビの混ざった、いわゆるキメラだった。


「…ヘルン、分かるか?」

「ああ、勿論気付いている。」


二人はケルベロスとキメラが出たことには、そこまで驚いていなかった。

しかし…


「化け物共の背中に、サイラムとエイティがいる。」


二人が気付いたのは、ケルベロスの背中にはサイラムが、キメラの背中にはエイティが混ざっていたことだ。

二人とも下半身がモンスターと融合しており、上半身のみ出ている姿だ。


獣人達は、サイラムとエイティの死体を、自分たちの作った化け物を強化するために融合させたのだ。

静かに激情を抑えていた。


「許さない、俺の大切な仲間を、死んでもなお苦しませるなんて!獣人達に地獄を見せてやる!」


「エイティ、サイラム。今助けるよ。…獣人共、絶対に許さない!」


ヘルクレードとサイラムは、かつてないほど怒った。


「ヘル、すまん。頼む、助けてくれ!」

「ヘルン、助けて!怖い、怖いよ!」


二人にはそれぞれ、亡くなったサイラムとエイティの魂の叫びが聞こえ気がした。


「「今、必ず助ける!!」」


ヘルクレードはケルベロスに、ヘルンはキメラに向かって走り出した。


ケルベロスは人間の剣を完全に見切り、キメラはその体に見合わない速度で動き、沢山の人間を亡きものにしていた。

サイラムとエイティの能力が混ざっているのが目に見えて分かった。


「はっはっは!完璧だ、エル見てるかあの化け物達を。あれは最高傑作だ。見ろ、また一気に十人真っ二つだ!これでヘルンを捕まえられなかった失態がチャラになる。」


「さすが兄さんの発想にはいつも驚かされるわ。まさか、二人をあれに混ぜるなんて。」


「だろ~。エルが二人の遺体を埋葬するって言い出した時に、ピンとひらめいたんだ!これは大きな功績だぞ!」


ケルベロスとキメラの活躍を影で、黒ローブ達に混ざりザラカスとエルは見ていた。


しかし、次の瞬間彼らが見たのは、首を切り落とされる、二体の化け物の姿だった。

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