代償と二人の過去
過去の話になります。
ソフィとヘルクレードの出会いは18年前。
ソフィが16歳、ヘルクレードが26歳の時だ。
「一目惚れした!俺と結婚してくれ!」
「ごめんなさい、顔が怖いので嫌です!」
「ノォォッーーー!」
二人の出会いは、ヘルクレードの無様な玉砕から始まった。
獣人の国と仲の悪い、クロム王国は小競り合いが多く国境周辺の空気はとてもピリピリしていた。
そんな時、国境の警護及びモンスターの討伐でギルドから派遣されたヘルクレードの四人パーティーは、森に入っていた。
「この辺はゴブリンやオークばかりで、楽勝だがきりがないな。」
「粘り強くいこうぜ、ヘル。俺の剣さばき、良くみてな。」
ヘルクレードに大剣を見せつける、ゴツくてデカイ短い金髪の男はギルガ・サイラム。
皮と鉄でてきた鎧を着て、いつも豪快に笑う男だ。
ヘルクレードのパーティーメンバーの一人であり、近距離戦闘担当でパーティーのナンバー2だ。
ヘルクレードと幼少期からずっと一緒に鍛えてきた、ヘルクレードの一番の親友だ。
「さすがね!サイラム。惚れ惚れしちゃうわ。」
滑らかな剣技で敵を切り裂くサイラムを見ながら頬を赤くするヘルン。
赤い髪にオールバックのゴリラのようなおねえだ。
街の傭兵をやっていたが、酒屋でフレードと出会い、パーティーに入った、チームの魔法支援及び強化担当だ。
「なんか最近増えてるよな。モンスター。何でかわからないかエル」
「わからないわん。人間の国に問題は無いのかしらん?私たちの国はなんの動きもしてないわん。」
エルと呼ばれた女性はパーティーメンバーの一人、ルアリー・エル。
ヘルクレードが16の時に森で出会い、それから度々行動を共にしてきた犬獣人だ。
垂れた犬耳に黒い髪、ぱっちりとした茶色の目、スラッと背は170ほどあるきれいな女性だ。
今はパーティーの魔法支援及び、長距離攻撃担当だ。
「エルが言うなら獣人国には問題がないのか。だが、こっちもなにも問題ないからな」
「まあ、全部倒せばいいだけだ!」
「倒した後にでも、原因でも探らないとだわん。」
それぞれが得意な倒しかたでモンスターを蹴散らしていく。
「キャー!」
そんな時だった。
そんなに離れていないところから悲鳴が聞こえて来た。
「他の冒険者が襲われている。皆、援護に急ごう!」
ヘルクレードの指示を聞き、四人で声のした方に向かった。
そこでは女の子二人がオークの集団に囲まれてているようだった。
「うぉぉー!」
「今助けるぜ!安心しな!」
ヘルクレードとサイラムがオークをあいてに一気に距離を詰め、切り捨てる。
ヘルンとエルも魔法でオークを確実に蹴散らす。
一分も経たない内に勝負は着いた。
「「助けて頂きありがとうございます。」」
一段落して向き合ってお礼を言われたとき、ヘルクレードの目は少女の一人にくぎ付けになっていた。
銀髪で白い肌の驚くほどの美少女。
その少女の赤い瞳と目が会ったとき、フレードは恋に落ちた。
「私はリース・ソフィ。まだ、冒険者を始めたばかりで、ゴブリンの討伐をしていたらオークの集団に出会ってしまい、危うく殺されてしまうところでした。本当にありがとうございます。」
「わ、私はクローラ・エイティ。ソフィとは幼なじみで、一緒に討伐クエストとかこなしてきたの。私が調子に乗って森の奥に行き過ぎたせいでこんなことになってしまったの。ソフィ、本当にごめんね。そして皆さん助けて頂きありがとうございました。」
エイティは双剣を腰に下げた、背は低めの八重歯の可愛らしい女の子だ。
「同じ冒険者として助け合うのは当然だぜ!街までちゃんと護衛してやるよ!遠慮せずに先輩の胸を借りればいいさ。」
「そうだわん。頼っていいのよ。だけど、これからはきちんと自分の実力を考えて行動するのよん!」
「「はい、ありがとうございます。」」
彼女達を助けられて良かったと微笑みなら街に帰ろうとしたサイラムは、リーダーであるヘルクレードの様子がおかしいことに気付き、声をかけた。
「お、おい、ヘル。どうした?そんな人殺しをしそうな目で彼女らを見て。」
ヘルクレードには何も聞こえていなかった。
ソフィの表情、動き全てが愛しく、ソフィを見ることしか出来なかった。
そんな、ヘルクレードの視線に気付いたソフィは「ヒッ」と小さい悲鳴を漏らすほど、その眼光と表情におびえていた。
「おい、ヘル、大丈夫か?」
「本当にどうしちゃったのよ?」
「分からないわん。ソフィちゃんを見て固まってるわ。」
固まっているヘルクレードを動かそうとサイラムが肩を揺すったときにヘルクレードは「はっ」として、やっと動きはじめた。
ソフィに近づくヘルクレード。
少し後退りをするソフィ。
そして…
「一目惚れした!俺と結婚してくれ!」
これがソフィとヘルクレードの出会いだった。
その出来事から一年がたち、ヘルクレードの猛アタックを受けて、ソフィ達二人はヘルクレードのグループに入ることになった。
ソフィは治癒魔法が使えたため、後方支援に。
エイティは双剣使い兼、隠密行動が得意なため前衛に参加した。
そこから一年がたち、パーティーはそれから驚くほどに成長した。
パーティーのランクはAまで上がり、街で一、二を争うパーティーにまで成長した。
「ヘルクレード、はい、あーんして。」
「あーん。うん!美味しい。ソフィ、もう一回お願い!」
「はい、あーん!」
この頃、ヘルクレードの人の良さに心を開いたソフィとヘルクレードはバカップルに変貌をとげていた。
ガチムチの男のデレデレとしてあーんをする姿は、見るだけで吐き気を催す破壊力だ。
「うわっ。いつの間にか見るに耐えないくらいにラブラブになっちまったな。」
「仕方ないわん、サイラム。温かく見守りましょ。」
周りの目にも気付かずに、街にいるときはソフィとヘルクレードは二人の世界を作っているのであった。
そこから更に一年が過ぎたころ、獣人国と人間国の間で本格的な戦争が始まった。
人間が獣人国の王の奥さんを殺したらしい。
「私はどうすればいいのよ!」
エルは嘆いていた。
国境近くの街では獣人と人間で仲の良い人もいたために、彼女のような立場の人間は少なからずいた。
「今、向こうの国にいる人間達は、捕虜にされたみたいだ。エルも近い内に捕虜になってしまうかもしれない。だから、皆でここを離れよう。」
リーダーであるヘルクレードの決断は、エルを匿いながら獣人国から離れることだった。
「それはできないわ!私には家族がいる。父も母も幼い弟も妹も皆私が守らないと!」
エルの家族の住んでいるという街は、国境に近い街なため、戦争に巻き込まれることはほぼ確実であった。
逃げ遅れている可能性が少しでもあるなら、家族の元にいきたいと考えていた。
しかし、国境付近は厳重な警備が敷かれており、お互いに国を移動することは出来なくなっていた。
「どのみち、国には帰れない。俺らはエルが捕虜になって万が一にでも殺されたら、一生後悔する。だから、俺の言うことを聞いて、一緒に逃げよう。家族のことは気持ちは分かるが、この際諦めてくれ。」
ヘルクレードの言葉にエルは葛藤していた。
家族が無事に逃げてくれていることを考えるしか無いのかと。
「ヘル、ここは俺に任せてくれないか?」
「どういうことだ?サイラム。何か考えがあるのか?」
「俺が、エルを家族のところまで送ってくる。そして、戻ってくる。」
「何をいっているんだ!あっちでお前が見つかったら殺されるかもしれないんだぞ!」
サイラムの発言に、ヘルクレードは動揺した。
獣人を連れてこの国を出ようとした時点で捕まり、最悪反逆者として殺されるかもしれない。
獣人国に上手く入れたとしても、見つかったら敵と認識されて殺されるかもしれない。
いくら腕が立つからと言っても、ヘルクレードには無謀に思えた。




