安堵そして……
いつも前書きって何書けばいいか悩みます。
ネタバレしそうになるし...
とにかく、楽しでいただけたら幸いです。
マルティナはリオンとシオンを寝室に寝かせてから、足早に応接室へ向かう。
念のために双子に護衛をつけた。
扉を開けるとそこには、アウグストとオルフェミーナ、そして、レオンがいた。
「あなた!?」
寝室で寝ていた筈の夫が両殿下を前に手当てを受けている。
「すまない。心配をかけた」
「いいえ。いいえ。」
両の目に涙を貯めて、頭を振る。
「無事だと信じていました」
そういうとマルティナはレオンに抱きつく。
「お、おい...殿下の前だぞ」
突然のマルティナの抱擁にびっくりするレオン。
目の前ではアウグストとオルフェミーナが微笑ましく見ている。
「まぁまぁ、レオン公。奥方もああは言っていたが、やはり不安であったのでしょう」
「いやはや、お恥ずかしい限りで」
苦笑しながらも、決して無理にマルティナを剥がそうとしないあたりに、レオンのマルティナへの愛情がうかがい知れる。
そのうち、マルティナは自らレオンから離れ、恥ずかしそうに体裁を整える。
「お恥ずかしいところをお見せしまって申し訳ありません」
「あぁっ!私ったら、殿下にお茶も出さずに!」
言いながらパタパタと台所まで駆け出していく。
そのとき、オルフェミーナがマルティナに声をかける。
「あの、マルティナ様」
「はい?なんでしょう?オルフェミーナ殿下」
「私もお手伝いさせて下さい」
言うとオルフェミーナもパタパタと台所までやってくる。
「まぁ!嬉しいわ!」
そんなオルフェミーナを嬉しそうに歓迎するマルティナ。
「お、おいおい...皇女殿下になにを...」
「いいんですよ。レオン公」
マルティナを咎めようとするレオンにアウグストはそれを制する。
「いや、しかし...」
「あれも、ああいうことが好きなんですよ」
「皇族としてはやらなくてもいいのかも知れませんが、やりたい事なのであれば、止める理由もありませんよ」
「はぁ...まぁうちのも似たようなものですが」
大公家では家令のバルトを筆頭に屋敷の警護や管理、清掃ときちんと雇われている。
もちろん料理人もいる。
しかし、家族の食事だけはマルティナが必ず作っている。
ややもすれば、使用人たちの昼食も作ったりしている。
料理人たちの仕事いえば、使用人たちの毎日の食事、たまに来る賓客たちへの料理と今日のような晩餐会だけだった。
マルティナが大公家に嫁いできてから、この体制は維持されている。
手当てを終えて、気を取り直しレオンは切り出す。
「この度は、殿下に危険な場に居合わせることになって誠に申し訳ありません」
と、頭を下げる。
「そのようなこと気にしないで下さい!現に一番危険に晒されたのはレオン公なのですから!どうか頭をお上げください!」
アウグストは頭を下げるレオンに慌てて止める。
今日、双子の息子達のお披露目であった場に皇族からの来賓としてアウグストとオルフェミーナは来ていた。
その場に予期せぬ闖入者がやって来たのだ。
闖入者はレオンに狙いを定めて短剣による初撃を辛くも致命傷を避けるが、塗られていた痺れ毒により呼吸困難にまで陥るほどに追い込まれた。
しかし、その窮地もオルフェミーナの『キュアー』の魔法でこうして話が出来るほどに回復していた。
「奴の目的がわたしの命と分かっている以上、警戒は密にしなければなりません。しかし、もし、私以外の誰かが狙われた場合...」
「...その可能性も無いとは言い切れません」
「なんにしろ、今は警備を厳重にする他ありませんね」
「そうですね。とりあえず、後ほど会場で何か手がかりが無いか探してみます」
「レオン公。あなたはまず静養するべきだ」
アウグストが苦笑混じりに諌めると、そこに同意の声がかかった。
「そうですよ!あなたはまだ安静にしていてください!」
台所からマルティナとオルフェミーナがお茶を入れて戻ってきた。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいませ。マルティナ様」
憤るマルティナをなだめながら、オルフェミーナはマルティナの隣に座ると、レオンに向かって、苦言を呈した。
「レオン様、あなたの勇猛さは時として毒にもなります。マルティナ様やリオンとシオンのお気持ちもお考え下さいませ」
「それはもちろん。だからこそ、こうして...」
「いいえ。分かってはおりません。確かにマルティナ様たちへの想いは本物でありましょう。しかし、今、レオン様が無理をしてまで為す事ではないでしょう」
「む......むぅ...」
オルフェミーナの言葉にぐうの音も出ないレオンは力なく肩を落とす。
ちょうどその時だった。
どこからか、声が響く。
「そうですよぉ♪無理しちゃダ〜メ♪」
アウグストとレオンが戦闘態勢を一気に引き上げる。
さらにバルトを呼び出す。
「バルト!!」
すぐさま扉を押し開き、バルトが飛び込んでくる。
「あははっ♪やだやだこわ〜い♪」
まるで小馬鹿にしたような言葉使いから一転
「今はもう、あなた達とやりあう気は無いわ」
「ただ一つ、言いたい事を伝えに来ただけ」
「レオン公。あなたは殺すわ。必ずね♪」
驚愕が場を支配する。襲撃があったその後に、警備を幾重にも張りながらも、女はここまでやってきたのだ。
「それじゃ、用も済んだし。またね♪」
そう言うと女の気配は消え去っていった。
バルトはすぐに捜索隊を出す。
「申し訳ありません。我々がいながらこうも易々と侵入を許すなど...」
「現在、追手をかけて捜索に当たらせております」
「ですが...恐らくは」
そこで言葉を切るバルト。
易々と侵入してきた相手を捕まえるなど、バルトでも不可能なのはレオンにも分かっていた。
バルトの強さの本質は白兵戦にある。
様々な対策を立ててはいるが、特定条件下の戦闘では同等の相手によってはだが、不利は免れない。
つまり、女の能力はバルトに及ぶものと考えられた。
そんな相手からの殺人予告である。
レオンでさえ、戦慄を感じえずにいられなかった。
「恐ろしいことだな…」
レオンの呟きに、マルティナもアウグストもオルフェミーナも何も言えずにいた。
「レオン様、このような大変な時に申し訳ないのですが...暇をいただきたいと思います」
突然のバルトの言葉に一様に驚いた顔でバルトを見上げる。
意図を汲みきれず、困惑の色を浮かべるレオンたちに、バルトは補足を説明する。
「私が一人で女を追います。期限は一年。それまでに捕らえられなかったら戻ってまいります」
「もし、私が一年以内に戻らなかったら死んだものとして、あとはシグをお頼りください。」
「あれも、家令としてしっかり仕込んでありますれば」
バルトの決意の程が知れる。
しかし、バルトは大公家にとって最高戦力である。
何かあった時、やはり一番頼りになるのはバルトなのだ。
簡単に離れて欲しい男ではない。
「しかしな...バルト」
「今は守りを堅めるべき時だろう。そんな時にお前がいなくてどうするのだ?」
レオンの言葉は至極真っ当なことだった。
レオンもバルトが分かっていないはずがないと思いつつも言葉にする。
少しの間を置いてバルトが口を開く。
「レオン様...私の二つ名を覚えておいでですか?」
そう言われると、レオンはハッとし、小さく微笑む。
「わかった。一年だ。手がかりを見つけようと必ず戻ってこい」
「はっ!ありがたきしあわせ!」
バルトは膝まづいて最敬礼をする。
そして、すぐさま女の後を追った。
バルトの二つ名。
『阿修羅』
全盛期のバルトを形容していた言葉である。
大公家に仇なす者を根こそぎ倒してきた事実がそこにはある。
バルトが家令に就いてからは、その『阿修羅』っぷりも大人しくなっていたが、本質はそうそう変わるものではない。
バルトはその牙を女に剥いたのだ。
そんな激動の日から一夜明けて、アウグストとオルフェミーナは大公邸から離れた馬車の上にいた。
出発前にアウグストはレオンに協力は惜しまないと約束をし、オルフェミーナも妙に仲良くなったマルティナと再会の約束をして王都『カグラ』へと戻っていった。
さらに月日は流れて、6ヵ月後。
魔族統一暦4734年、魔神の月、白羊の日
リオンとシオンが7歳になるその年に、双子は王都『カグラ』にある学校に入学する。
「シオン。準備終わった?」
「リオンは忘れ物ない?」
しきりに2人の様子を見に来るマルティナに双子は準備完了の言葉を送る。
「はい。終わってます。母さん」
「何回も確認したから、大丈夫だよ。お母さん」
「そう。私達もすぐに行けたら良いのだけど...」
「大丈夫だよ。お母さん!シグ兄も一緒に来てくれるし!他のみんなだって一緒になんだから」
「そうね。すぐに合流するから待っててね」
「はい!」
そう返事して、双子は馬車に乗り込む。
マルティナは後ろに控えていたシグにくれぐれもと念を押す。
「シグ。リオンとシオンをお願いしますね」
「はっ!お任せ下さい。マルティナ様」
シグが双子と同じ馬車に乗り込むと馬車が走り始める。
「お母さん!行ってきます!」
「母さん!行ってきます!」
双子が窓から手を振り出立の挨拶をする。
マルティナがそれに合わせて手を振り返す。
「行ってらっしゃい」
母の姿が見えなくなるまで手を振っていた双子も馬車に戻る。
馬車は走る。
王都『カグラ』まで。
リオンとシオンは期待に胸を膨らませて馬車に揺られるのだった。
はい!作者大好きバルトさん!!
どっか行っちゃいました...
次章から双子入学〜成長編です。
期待して、待て次回!!