激震
テンプレ展開からの〜...
何が起こるか楽しみにしてください。
大公国公都『カムイ』の中央部にある王城。
王城から続く舞踏会場には煌びやかな服装や装飾を着飾った女性と、その女性たちをエスコートしている男性で溢れている。
主役たちの登場はまだだが、大公家主催という事もあって数々の余興で会場は盛り上がっていた。
そこに突如としてざわめきが広がっていく。
会場の入口に着いた馬車から降り立った者達が原因のようだった。
「アウグスト殿下よ!」
「隣にいる方はオルフェミーナ殿下だわ」
「お綺麗ね〜...」
「ああ...私もオルフェミーナ殿下のような美しさが欲しいわ」
「そうすれば、アウグスト殿下の隣にも自信を持って立てるのにっ」
女性たちはこぞってオルフェミーナの美貌とアウグストの立ち居振る舞いに嘆息をもらす。
そんな空気の中でも2人の殿下は表情を変えずに会場の貴賓席まで進む。
オルフェミーナは常に微笑みをたたえて。
アウグストは凛々しさを崩さずに。
そして、ちょうど2人が席に着く頃、主役たちが登場する。
2階から降りる階段の中腹まで、向かって左側がレオン、右側にマルティナ、間に双子を入れて4人手を繋いで降りてくる。
緊張した面持ちのリオンとシオンに優しく声をかけながら。
そして、レオンが大きな声で来賓への挨拶を始める。
「本日は、私たち2人の息子の為にご来場いただき感謝します」
「息子が2人とも無事に6歳になったことで、お披露目をする事ができます」
「今宵はどうか、息子たちの為に心ゆくまで楽しんでいっていただきたい」
「向かって左にいるのがリオン、右にいるのがシオンです。どうか今後ともよしなに取りはからうようお願いします」
レオンの挨拶が終わるとワッと歓声が広がっていく。
4人が手を取り合い階段を降りていくと来賓たちが4人を取り囲んでゆく。
順々に挨拶を交わしてゆく中でリオンとシオンは周りからの好奇の目に緊張を強めていく。
公子としての立場だけではなく、双子の持つ物珍しい瞳に周りの目が集まる。
そんな中、突然取り囲んでいた来賓たちが道を開け始めた。
開けた道から現れたのは2人の殿下、アウグストとオルフェミーナであった。
アウグストが前に出ると、レオンと握手を交わし祝辞を述べる。
「レオン公、ご機嫌麗しく、且つ公子たちは誠におめでたく。是非私から祝辞を述べさせてください」
「これはこれは、アウグスト殿下。遠路はるばるようこそおいで下さいました」
「オルフェミーナ殿下もありがとうございます」
レオンの謝辞にオルフェミーナはスカートを持ち上げ優雅に挨拶する。
レオンは双子を呼び寄せて、2人に挨拶をさせる。
「アウグスト殿下、オルフェミーナ殿下、この度は」
「私、リオンと」
「私、シオンの為に」
「遠いところからようこそおいで下さいました。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」
リオンとシオンの挨拶にオルフェミーナがにこやかに挨拶を返す。
「ご丁寧にありがとうございます。リオン公子殿下、シオン公子殿下」
双子とオルフェミーナのやり取りに、周りにいた来賓たちから嘆息の声が聞こえてくる。
すべての女性の憧れとまで言われるオルフェミーナに、黒髪に色違いの瞳を持つ可愛らしい容姿の男の子が2人。
周りにいた誰もが相好を崩さない理由が無かった。
アウグストとオルフェミーナか来たことで双子の周りには更に人垣が築き上げられていた。
このままではと、アウグストとレオンは場所を変えた。
「殿下、このままではアレなんで、移動しましょう」
「バルト」
「はっ」
「アウグスト殿下、オルフェミーナ殿下、
どうぞこちらへ」
バルトの先導で再び貴賓席に戻る2人、その後をちょこちょこと付いていく可愛らしい影が2つ。
その光景に周りいた賓客達は更に顔を崩す。
アウグストとオルフェミーナの2人が席に着くと、すぐさま声がかかる。
「アウグスト殿下、オルフェミーナ殿下、私たちとお話をして下さいませんか?」
両殿下は後ろから付いてくる双子に気づかずにいたため、声を掛けられた瞬間びっくりしていた。
だが、それも瞬間の話である。
すぐさま、双子に快諾の意を示した。
「もちろんだとも」
アウグストの気さくな返事に双子は緊張を和らげ、アウグストとオルフェミーナの隣にそれぞれ腰掛け、話を始めるのであった。
内容といえば相変わらず、6歳児とは思えないほどの内容であり、やはりアウグストとオルフェミーナは面食らうのであった。
レオンとマルティナは相も変わらず来賓たちの応対をしていた。
大公国として、盛大に催してることもあって賓客があとを絶たない。
レオン達の予想以上の来賓であった。
よく考えればわかることだった、予想以上の来賓の原因...息子達の瞳である。
現在、神格保有者は魔族では確認されていないため物珍しさも手伝って、ここまでの来賓となったようだ。
賓客との挨拶も終わりが見えそうになった時だった。
突如、会場が暗闇に襲われる。
慌てふためく声が四方から飛んでくる。
「なんだ?どうしたというんだ!?」
「きゃっ!?真っ暗だわっ!!」
「どうか皆様落ち着いて下さい。これは魔法によるものです」
「この魔法自体に危険はございません!」
「どうか動かずに身の安全を最優先にしてください!」
声が飛ぶ。
会場中に聞こえるように。
己の身を最優先に守れと。
「バルト!」
「ここに!」
「私はいい。アウグスト殿下とオルフェミーナ殿下、リオンとシオンを守ってくれ!」
「両殿下とリオン様、シオン様には我が息子達が付いております。私はレオン様と奥様を」
突然のことにも落ち着いて対処してみせるレオンにバルト。
これ以上ないほどの対処だった。
それにもかかわらず、なぜそれ以前の対処が為されていないのか。
賓客たちの中で疑問に思う者も少なくなかった。
しかし、次のレオンの言葉で理解することになる。
「バルト!カウンターマジックはどうなっている?」
「は!どうにも機能を停止されているようです」
『カウンターマジック』
重要な拠点や人物が赴く場所に設置される大型の対抗魔導装置。
この場合、大公邸や舞踏会場が含まれる。
「装置に衛りは当然...」
「はい。常時、4名から5名の小隊に当たらせています…」
バルトからの返答に衛りは破られたと確信にいたる。
レオンは周りに聞こえぬように気をつけながらバルトに話しかける
「ならば、狙いはここにいる誰かと言うことか…」
「恐らくは...」
「しかし、ここまで大規模な『シャドウ』ならば、そう長い時間保たないだろう」
「となると、すぐに行動に移るはずだ」
不意に、会場中に女性の声が木霊する。
「ふふふっ♪ご明察♪」
「誰が死ぬかは灯りが点いてからのお楽しみっ♪」
「これは...『エコー』か!」
「会場中に反響して特定できんな...」
苛立たしげにレオン。
『エコー』
本来は、指向性の音を相手に向けて放ち、状態異常に陥らせる魔法。
この場合、逆に指向性を全方位へと変更し、音の出どころをわからなくする。
本来の使い方ではない魔法をすぐに看破できたレオンだが、どうしても後手に回わらずをえなかった。
それほどまでに考えられた強襲である。
そこへレオンに魔の手が忍び寄る。
「そこね。死んで頂戴」
己の真上から聞こえた声に驚きながらも即座に飛びず去る。
致命傷は避けたものの肩と左脚に短剣が刺さる。
「ヘッタクソ〜♪」
「次は私の番ね♪」
レオンは自分に刺さっている短剣を引き抜くと気配の感じる方へと投げる。
が、
「きゃっ♪あっぶな〜い♪」
どうやら寸でのところで避けられたようだった。
強襲者の気配が消えていく。
再び闇に紛れていく。
レオンは、気を張り気配を探るも、肩と左脚の痛みが邪魔をする。
次第に体も動きが鈍くなっていくのが分かる。
短剣に痺れ毒が仕込まれていたようだ。
「グッ...」
レオンは堪らず呻き声を上げてしまう。
その声が聞こえてしまったのか、強襲者が再び襲ってくる。
「スキだらけだよっ♪」
「貴様がな」
と、突然横合いから裂帛の気合とともにバルトが飛び出してくる。
「きゃっ!なにこのオジさーん!」
「もう!すっごいムカつく!!」
バルトは腰に下げた得物を抜き放ち、刹那の内に強襲者へ詰め寄る。
「ふっ!はぁっ!!」
バルトの連撃に押されつつも寸でのところで避ける強襲者。
しかし、徐々にバルトの連撃にレオンとの距離を離されていく。
「私が健在の内は大公家には指一本触れさせませんよ」
「きさまぁぁっ」
強襲者はみるみる内に顔歪ませていく。
苛立ちを隠そうともせず、バルトを罵り始める。
「邪魔すんなよぉぉ!」
「このクソジジィがぁぁぁ!!」
バルトは意に介さず、気配のする方へ鋭く目を向けている。
不意に、女性の声が柔らかいものへと変わる。
「ふぅ...仕方ないわね...今日はこの辺でお暇しましょう」
「また会うこともあるでしょう。その時は宜しくね」
バルトが気配が消失したのを感じ取ると同時に暗闇が晴れていく。
すぐさま、レオンの方に向き直り駆け寄る。
「レオン様!ご無事ですか!?」
バルトの声に返事はない。
聞こえてくるのはレオンから発せられる呻き声だけだ。
痺れ毒が全身に回り始め、呼吸もままならない状態になっていた。
「まずい...このままでは...」
「早くダイグラード先生を!!」
専属医を呼びに行かせるが、間に合うとは思えなかったバルトは焦りが積もる。
「先生はまだか!?」
「親父!少し落ち着け!!」
「周りを見ろ!みんな見てる...」
余裕のないバルトを諌めたのは息子のシグである。息子の声に落ち着きを取り戻す。
だからといって、状況が好転する訳でもない。
再び焦りが募り始めたところに、意外な人物から声がかかる。
「バルトさん。私に任せてくださいませんか?」
「オルフェミーナ皇女殿下!?」
バルトは驚くもオルフェミーナの言葉を信じ、場を空けた。
オルフェミーナは苦しむレオンの前に膝まづいて魔法陣を構築する。
『キュアー』
レオンの体を緑の光が包み込んで消えていく。
すると、レオンは苦しみから解放され、静かに意識を失っていった。
『キュアー』
全ての状態異常を癒す。上級魔法である。
本来は儀式魔術であるが、オルフェミーナは己の持つ魔法力によって単独で行える。
「お父さん!」
「父さん!」
アウグストと一緒にリオンとシオンもやってくる。
リオンとシオンは父親の横たわる姿を見て、何が起きたのかも分からないまますぐに駆け寄ろうとするがアウグストに止められる。
「待て、おまえ達の父親は無事だ。今はすぐに安静に出来る場所に移動させよう」
アウグストに諭されても、不安で不安でたまらない双子。掴まれた腕を振り払おうにも子供の力ではどうしようもない。
「リオン、シオン。大丈夫ですよ」
ふわっと2人を包み込む存在。
マルティナが2人を抱き寄せる。
双子は母親の胸の中でわんわんと泣きじゃくる。
「ご来賓の皆様!この度はこのようなことになり誠に申し訳ありませんでした!」
「ささやかながらではございますが、皆様に記念品を用意させていただきました!」
「どうぞ、これからも我が大公家をよしなにお願い申し上げます!」
「このような事態です!本日はこれにてお開きとさせていただきたいと思います!」
凛としてマルティナは来賓たちに、閉会を告げた。
そして、バルトにあとを託す。
「バルト。来賓の皆様を見送り差し上げて、私たちは屋敷の方に戻ります」
「申し訳ありませんが、アウグスト殿下、オルフェミーナ殿下、屋敷の方まで御足労をお願いします」
泣きじゃくる双子を抱き抱えながら、アウグストとオルフェミーナを屋敷まで連れていく。
あとに残るのは、来賓たちの不安と会場に満ちる不穏な空気だけだった。
新キャラがドバドバ出てきましたね。
やっぱり王族ってイケメン、美女ですかね?
では、いつものいきます!
期待して、待て次回!!