胎動
双子がこの先どう動いてくれるのか。
楽しみですね。
『ボーデンス大陸』南西部の商業都市『ドラグガーデン』から東に向かったところに魔人族の首都『カグラ』がある。
そこから更に東に向かうと大公国公都『カムイ』である。
大陸南東部にある大公国の公王
レオン・ヴァン・ヴァイス大公とその妻マルティナ・ザザ・ヴァイスの間には双子の兄弟がいる。
兄をリオン・フォン・ヴァイス
弟をシオン・ファン・ヴァイス
と言う。
双子が生まれてから3年の年月が流れていた。
双子には魔人族特有の角の他に特筆すべき特徴があった。
生まれてすぐにそれが発覚する。
それは双子の瞳に表れている。
片方の瞳は母親譲りの翠緑玉の輝きを持ち、もう片方の瞳に白銀の輝きを持っていた。
白銀の瞳を持つ者は必ず何かしらの能力に秀でる。
更には古来より死後、神々に認められると神格を得る事が出来ると伝えられていた。
また、数奇な運命を辿る者が多く、中には悲惨な最期を遂げたり、自身の能力によって幼い時に亡くなったりする者もいた。
そんな白銀の瞳をリオンは左目に、シオンは右目にそれぞれ有している。
それを知ったレオン大公と妻のマルティナは双子の身を案じて、数奇な運命に翻弄されることのないよう双子に魔術や戦闘術、学術、果ては医療術さえも教育に組み込んだ。
とはいえ、今はまだ物心が付く前である。
基礎的な算術や国語、魔術基礎学を学び、戦闘術に至ってはほぼ遊ぶことが訓練となっていた。
リオンとシオンは訓練を訓練と思わずに日々を過ごしていた。
ひとえに両親の努力の賜物だろう。
双子が楽しく学問や訓練に熱中できるように最善を尽くしていた。
また、本人達の気質も関係していたのだろう。
学問は苦とも思わず、自ら勉学に勤しむ。
訓練は嬉嬉として腕を磨いていく。
物心付く頃には同年代の子供よりもひとつ頭抜けるほどに成長したのだった。
魔族統一暦4733年の龍神の月白狼の日
大公家に激震が走る。
この日、リオンとシオンは6歳になる。
父レオン大公は祝辞を述べる為に来る領民や他領地の領主の相手を朝から精力的にこなしていた。
また、他種族からの祝辞や祝いの品もひっきりなしにやってきていて、それの返礼の準備に忙しなくしていた。
「レオン様、午前は先程の方で最後とさせていただきました」
大公家の家令を務めるバルトがレオンを気遣い休憩を挟ませる。
「そうか...すまない、助かるよ」
言うとレオン大公は、大きく息を吐き座っていた椅子に深々と沈みこんでいく。
その様子を見ていたバルトはじろりと目で諌める。
「レオン様、たとえ休息中といえども大公としての自覚をお忘れなきよう」
「分かっている。分かってはいるのだが、朝も明けない内から待たれては応対しないわけには行かないだろ?」
暗に疲れているんだと主張するレオン。
「左様でございます。その判断は誠に見事でございます。しかし、応対すると決めたのはレオン様でございます。なれば朝早くからの応対で疲れていようとも大公として仕事を始めた以上はそれ相応にしていただかなければ」
バルトはその主張も理解した上で主人を諫める。
「分かった分かった…」
レオンは諦めたように返事をする。
レオンは幼い頃からバルトに学問から戦闘術、マナーや大公家の在り方まで教わっている。
そんな彼に頭が上がるはずも無く、心の内に嘆息を漏らすだけしか出来なかった。
しかし、バルトは厳しいだけの家令ではない。
(コンコンッ)
ふいにドアをノックする音がする。
バルトが扉を開けようと近づくもそれを遅しと扉が勢い良く開く。
「お父さん!」
「父さん!」
入ってきたのは最愛の息子2人。
駆け寄ってくる双子にレオンは顔を綻ばせ、声を掛けようと口を開きかけるが、突如双子の前に壁が現れる。
バルトだ。
バルトが双子とレオンの間に立ち塞がる。
双子はバルトを目の前に直立不動に硬直した。
「リオン様、シオン様」
「はっ...はいっ!」
双子の声がシンクロする。
「お部屋に入る時はどうすれば良いのか、お教えしましたよね」
「はいっ!!」
大きな声で返事を返す。
そして、そのまま部屋から出ていく。
(コンコンッ)
再びドアをノックする音が聞こえると、今度はバルトが扉を開ける。
扉の先に立つ者を確認し、このまま待つよう伝えて扉を閉める。
そして、レオンに向き直り来客を告げる。
「レオン様、ご子息がいらっしゃいました」
バルトの徹底した教育にレオンも双子の為にと合わせる。
「そうか。リオンか?シオンか?」
「お二人でございます」
「分かった。通せ」
バルトは恭しく頭を下げ、扉に向かう。
ドアノブに手を掛け扉を開けると双子が姿勢よく待っていた。
「どうぞお入りください」
双子はバルトの招きに応じて部屋へ入ると一礼して一言。
「失礼いたします」
「失礼いたします」
そこまでやるとバルトは終わりの言葉を掛ける。
「よろしい。お二人とも上手に出来ていました」
「しかしです。今のように私だけならまだしもお客様がいらしてる場合、最初の入り方は言語道断です。分かりましたか?」
「はいっ!」
正しい姿勢でバルトの話を聞いてた双子は返事をする。
「よろしい。ではレオン様の所へ。私は下がらせていただきます」
言うと優美な身のこなしで部屋から退出していく。
レオンと双子との時間を邪魔しないように気を遣うバルト。
厳しいだけではなく、優しく配慮に優れるそんなバルトだからこそ双子も懐くしレオンも頼りにするのだった。
双子は突然始まった授業から気を取り直しレオンに向かって駆け出す。
「お父さん!」
「父さん!」
「お仕事おつかれさまです!今日はどのような方がいらしたのですか?」
「獣人族の方や夜魔族の方がいらっしゃったのでしょうか?それとも鬼人族の方が?」
「巨人族の方は来たら分かるでしょうし…」
「ちょっと落ち着きなよリオン」
シオンが興味が溢れ出したリオンを落ち着かせる。
「でもでも、こんなにいっぱい他種族の方たちを見れる機会なんて今までに無かったじゃないか!」
シオンが窘めるも、リオンの興味は尽きない様子だった。
「そうだけど、その前に伝えなきゃ行けないことがあるだろ?」
「あ!...そうだった」
シオンの言葉にやっと落ち着きを取り戻すリオン。
双子のやり取りを破顔した様子で見ていたレオンに双子はまず要件を伝えることにした。
「母さんがお昼ご飯出来たから冷めないうちに連れてきてって」
「お、そうか。なら早く行かないと母さんに怒られてしまうな?」
「うん!」
レオンは椅子から立ち上がり双子の手を取り、妻マルティナの元へ向かう。
道中、リオンからの質問攻めが止めどなく続く。
更にシオンも我慢していたのか、リオンと同じように質問してくるようになる。
レオンはその全てを聞き、答える。
マルティナの元へ着く頃にはすっかり興奮状態の双子が出来上がっていた。
「お母さん!」
「母さん!」
「スゴイんだよ!獣人族の方って身体能力を強化する魔法を使うんだけどね!感覚器官まで強化出来るんだって!!どこまで鋭敏になれるのかな!?」
「巨人族の方から贈られてきた珍しい鉱石があるんだって!どんな効果が現れるんだろう?魔装具作って効果を見てみたいな!」
まくしたてるように双子は父から聞いた話を母親に報告する。
「まぁ!獣人さんって凄いのね」
「巨人さんにお礼のお手紙書かないといけないわね」
マルティナは興奮状態の双子を苦もなくさばきながら昼食の準備を続ける。
昼食の準備を終えると双子に手洗いを促す。
「さぁさぁ、手を洗って来てね」
「はーい!」
双子は元気良く返事をして、父親の手を取り手洗い場へ直行する。
3人が手洗いから戻って来る頃には料理が並べられていた。
「さぁどうぞ召し上がれ」
マルティナの言葉に3人は声を合わせて
「いただきます!」
双子は食べながら父から聞いた話をお互いに話し合っている。
食事のスピードが目に見えて遅い。
「だから、巨人族の方から貰った鉱石を使えば前に作った魔装具を改良して新しい効果を追加できるようになるかもしれないんだよ!」
「そうすれば、耐久面や耐性面が大幅に強化できる!」
「それなら、獣人族の方の身体強化魔法を合わせれば全体的に強化が可能になるね!」
会話の内容は6歳児のそれではないが…
そんな双子の会話をレオンとマルティナの2人は幸せそうに見つめていた。
そんな中、マルティナがレオンに対して話を切り出す。
「夜はこの子達のお披露目ね」
「うん?あぁ、早いもんだな」
「準備の方はどうなってる?」
「バルトさんが仕切っているから心配要らないわ」
「あとは、私たち自身の準備だけね」
「そうか、窮屈だが…それもこの子達の為なら苦でもない」
「王家の方からはどなたが来られるの?」
「アウグスト殿下とオルフェミーナ殿下だな」
「そう...」
少し、不安そうな顔をするマルティナをレオンは励ますように声を掛ける。
「大丈夫だよ。アウグスト殿下とオルフェミーナ殿下なら」
「ええ、そうね」
一抹の不安を抱えながらもレオンの言葉に頷くマルティナだった。
「ごちそうさまでした!!」
そうこうしている内に、双子はご飯を平らげ、食器を台所に片付け始める。
「午後は剣術の訓練だったね。今日はシオンに勝ち越すよ!」
「へっへーん!今日も僕が勝ち越してみせるさ!」
「なにをー!!」
午後からの剣術の訓練にやる気を燃やす双子はどっちが勝ち越すか毎回勝負している。
今のところはシオンが6:4で勝っているが、大した差がある訳ではないようだ。
「二人共、今日は夕方からお披露目が始まるから、訓練は短めにね」
食堂から出ていく2人にマルティナから声がかかると。
「はーい!」
遠ざかりながらも元気な声が返ってくる。
その声を聞くと不安が遠ざかるような気がして、マルティナは心安らぐ気分だった。
「さて、俺も行かないとな。ごちそうさまでした」
「会場の方頼むな」
「はい。任せてください」
午前の仕事の疲れをほぐすかように、ストレッチを始めるレオンと片付けた食器を洗い始めるマルティナ。
こうして、お互いに午後の仕事へと戻っていった。
時は遡り未だ夜の帳が覆い尽くす時間。
頼りになるのは月明かりしかない部屋で妙齢の女性が一人、ワイングラスを傾けている。
妖艶な笑みを携え一人呟く。
「久しぶりの依頼ねっ♪」
「失敗は許されないわよ」
「これが成されれば、私たちの目的も加速的に進むね」
「大丈夫。必ず殺すわ…」
まるで誰かと話しているかの様に呟く女性は一人楽しそうに笑っている。
目の奥にほの暗いものを湛えて。
というわけで、出ましたね。テンプレ展開!
さぁさぁ!妖しい女性が出てきたところで
期待して、待て次回!!