英霊が主神に転生させられた
次の転生者はこいつだ!!!
ガイアの自室は壁一面の本棚に本が敷き詰められており、本棚の前には重厚な机に椅子が備え付けられている。
ガイアは椅子にもたれかかるように座ると嘆息を漏らす。
「アレと面と向かって喋ると疲れるのぅ...」
先程まで相対していた邪神を思い出し苦笑する。
ふいにドアをノックする音がする。
「入りなさい」
ノックする音を聞き、もたれかかった体勢を直しながらガイアは入室を促す。
(ガチャ)
ドアが開くとフードを目深に被った天使が1人の青年を連れて部屋へと入ってくる。
天使は扉の前で青年に前を譲り、自分はそのまま退室していく。
青年がガイアのいる机の前まで来ると、姿勢を正し、最敬礼をする。
そして言葉を紡ぐ。
「キャラウェイ・セイザリス参りました」
『キャラウェイ・セイザリス』
かつて勇者であった青年は魔王との激しい戦いの果てに魔王を討ち取る。
だが彼自身も魔王から致命に至る傷を受け、間もなく天に召されたのだった。
その時、主神ガイアより神格を得て『英霊』となる。そして、神々の座す場所アルアリオスで神々の補佐や護衛などを務めている。
「うむ。よく来てくれた」
ガイアは机の上で手を組み、にこやかに歓迎の意を示す。
「さて、早速で悪いが本題に入らせてもらう」
挨拶もそこそこにガイアはキャラウェイに呼び出した経緯を説明し始める。
「すでに聞き及んでいると思うが、此度の人類の試練に彼奴等の力を借りる事になっている」
「先程、彼奴等に話をつけてきた。」
一方的にではあるが。
「しかし、彼奴等が素直に協力してくれるとも限らん...ひいてはお主に監視をして欲しい」
「私がでございますか?」
キャラウェイ少し驚いた様な声をあげる。
もちろん、キャラウェイも今回の試練の顛末は聞き及んでいた。
呼び出された時はガイアの補佐をするものだと思っていたのだ。
主神であるガイアの補佐に多少なりとも緊張していたりもしていたのだが、ガイアはそれ以上の事を言い出したのだ。
キャラウェイは、神々のみが行う人類の試練に自分が直接ではなくとも関与しうる事に驚きを隠せずにいた。
「うむ。君が、だ。君しかいないとも思っている」
真剣な表情(眉や髭で分かりにくいが雰囲気)でガイアは肯定する。
「その為にはお主に転生してもらわねばならん...どうだ?やってくれるか?」
キャラウェイは少しの逡巡もなく
「もちろんでございます!ガイア様より賜ったこの任、必ずや成し遂げて見せます!」
「ほっほっ、あっさり快諾してくれるとは、ありがたい。儂も多少のサポートをさせてもらうからの」
ガイアはキャラウェイのあっさりとした返事に多少驚きつつ、自身も協力を惜しまないと約束した。
「ありがとうございます。それで、転生はいつ頃になるのでしょうか?」
「うむ。今すぐにでも向かってもらいたい」
「今すぐ...ですか?」
さすがに予想してなかったのだろう。
「彼奴等の代表にはすでに向かってもらったのでな。あまり間を置くと、転生時期がズレてしまう」
ガイアは椅子から立ち上がり、キャラウェイの前まで移動する。
キャラウェイが跪くとガイアは邪神の時と同様に『転生陣』を構築していく。
「さて、あとは『呪文』を唱えれば転生出来る...」
「その前にお主に命題を与える。先に転生させた『邪神カルガイン』を魔王とし、共に人類の滅亡を目指せ。もちろん魔族としてな。」
ガイアから与えられた命題はキャラウェイを硬直させた。
今は英霊として、生前は勇者として魔族と戦い続けた自分が、よりにもよって魔族になれと言われ、あまつさえ宿敵『カルガイン』と共に人類滅亡させろと言ったのだ。
長いこと思考を彷徨わせるキャラウェイ、しかし、ガイアが何故そのような考えに至ったのか理解出来ず、全然まとまらない思考のまま言葉を発する。
「しょ...正気ですか!?ガイア様!?人類の
滅亡などと...」
言いつつ、思考が定まってくるとその真意を見定めようとガイアを見据えるが、ガイアの底知れぬ表情に真意の欠片も分からなかった。
「ほっほっ、大丈夫。正気じゃよ」
ガイアは分をわきまえない行為を咎めることは無く、朗らかに答えると不意に呪文を唱えた。
『リーンカーネーション』
「な!?」
呪文の行使に『転生陣』は反応し、キャラウェイを宙空に上げていく。
「再び天に召されてここへ来た時は『英霊』として神格を与えるでの。がんばってくれい」
ガイアが激励の言葉を送りキャラウェイを転生させていく。
「絶対ですよ!?約束ですからね!?」
納得いかないままのキャラウェイは最後の言葉を残して転生していったのだった。
「さてさて、しばらく動きは無かろうが...2人の様子を見れるように準備せんといかんのぅ」
椅子に腰掛け、一人呟くガイアは2人の働きに期待を寄せながらも、一抹の不安を感じていた。
「まぁキャラウェイもおるし、なんとかなるじゃろ」
感じてはいたのだが、存外この老人は楽観的なのであった。
そして、懐から筐体『PZP』を取り出し、電源を入れて遊び始めるのだった。
「うほほ〜♪ヤツめ、こんなに貯め込んでおったのか!」
とあるMMOで団長を操る副団長。
貴重なアイテムや装備品、持ち金を見て喜びの声を上げたのだった。
これで転生編は終わりです。
短かったですか?長かったですか?
どちらにしても次回新章突入です。
期待して、待て次回!!