咆哮
体調を崩してて、遅くなりました。
この話から双子にとってとても重要な事件が始まります。
刮目して見よ!
時は過ぎて。
魔族統一暦4734年 海神の月 黒狼の日
リオンとシオンは、初等部一年生を修了して、二年生が始まる前の休みに入っていた。
この日はリオンとシオンの両親が、王都私邸へ来ることになっていた。
両親は普段、大公国で執務をこなしているのだが、この時期は年末年始に当たるため、新しい年をリオンとシオンと祝うために大公国からやって来たのだ。
大公国で年始の挨拶とかありそうなものなのだが、そこはそれ、親バカぶりは領民にも知れ渡っており、生暖かい目で見守られている。
しかし、大公として仕事をこなし賢政を奮うため、領民には慕われている。
そのため、年始の挨拶等は帰国後にちゃんと予定されている。
「ねぇ!シグ兄!!もうすぐ着くかな!?」
突然声をかけられたシグはまたかと思いつつも丁寧に答える。
「...リオン様...先程からまだ10分と経っていませんよ?」
振り向くとそこにいたのはリオンではなくシオンであった。
「僕、シオンだよ!シグ兄!」
「も、申し訳ありません!」
「てっきり、リオン様がまた聞きに来たのかと...」
焦るシグに今度こそリオンから声がかかる。
「ぶぅぅ、シグ兄!それどういう意味!?」
膨れるリオンにシグはしれっと答える。
「そのままの意味ですよ。リオン様」
さらにリオンの頬が膨れ上がる。
リオンとシオンは双子である。
見た目に決定的な違いがあれど、声をかけられただけではどちらか判別するのはシグでも難しい。
シグもそのことに関しては努力は怠っていないが、まだ判別出来ずにいる。
そのため、双子の行動の違いや性格の違いで判別するが、今回の件に関しては予想外だったのだ。
「しかし、シオン様が聞いてくるとは珍しいですね」
ほぼ一年ぶりに会える両親だ。
リオンでなくとも待ち遠しいのだろう。
と、シグは考えていたりする。
シオンは首をかしげて、そうかな?という感じになっている。
「どちらにせよ、レオン様とマルティナ様のご到着は正午過ぎになります」
「リオン様もシオン様もお暇なら訓練でもなさいますか?お相手しますよ?」
「どうする?シオン?」
「ん〜...暇だし、僕はそれでもいいかな」
「じゃあそうしよっか!」
シグの提案にリオンとシオンは乗っかる。
両親が来るまでの暇つぶしのつもりで。
双子は自分達の部屋へ戻り、いそいそと準備を始めるのだった。
レオンとマルティナは馬車に揺られていた。
王国と大公国を結ぶ『ボーデンス大陸』最大の街道『アルブラン街道』をひた走る。
石畳で整備された街道は多くの馬車や旅人、行商人が王国と大公国を行き来している。
しばらくすると、王都の外門が見えてくる。
レオンの気持ちは逸るも、馬車の速度は上がらない。
やきもきしているレオンを見て、マルティナがクスクスと笑っている。
レオンは笑われていることに気づくと逸る気持ちを落ち着かせ、体裁を繕う。
それがおかしくて、まだ笑い続けるマルティナだった。
レオンは、笑い続けられていることに少しムスッとした顔をする。
そんな彼にマルティナが声をかける。
「もうじき、会えますわね」
ことさらにこやかに。
リオンとシオン、そして、レオンへの愛情が可視化出来るようなほどに溢れている。
「んっ?あぁ、そうだな」
「やっと会える」
マルティナは、レオンの素直な言葉に少し驚くも、すぐに言葉を返す。
「そうね...一年ぶりですものね」
「それに...あの子達が危険な時に一緒にいられなかったもの」
後悔を滲ませてマルティナはつぶやく。
「その件は仕様のないことだ...あの子達が無事だったのを喜ぶべきだよ」
「そう...そうね」
2人の会話の中、馬車は王都の大通りを進む。
やがて、目的地である大公国の王都私邸へ到着した。
レオンは馬車から降り、歩を進める。
扉の方を見ると、使用人たちが礼を尽くして待っていた。
「お帰りなさいませ」
使用人たちは声を重ねて挨拶をする。
レオンは最大限威厳を放ち、答える。
「うむ」
それを合図に重厚な扉が開いていく。
レオンとマルティナが伴だって屋敷へと入っていく。
すると、遠くの方から駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
レオンはその場で立ち止まる。
顔がにやけていくのが自分でも分かってしまった。
もちろん、足音をたてて来るのは息子たちだ。
息子たちが目に入った瞬間、息子たちの格好にギョッとする。
息子たちは真っ裸で一目散にこちらへ走ってくる。
「お父さん!」
「母さん!!」
隣でマルティナがあらあらとつぶやくのが聞こえた。
どうやら、お風呂に入っていたらしい。
2人とも、真っ裸の上に濡れねずみだった。
その双子のあとを着崩れてはいるものの、一応体裁は整えているシグが追いかけている。
シグはなんとか2人を取り押さえることに成功し、双子を小脇に抱えて、いそいそと風呂場へ戻っていく。
レオンはその後ろ姿に声をかけた。
「3人とも、準備が出来たら私の部屋へ来なさい」
その言葉に双子は元気よく、シグは元気なく返事をしたのだった。
双子とシグがレオンの私室へやって来る。
部屋にはレオンとマルティナが待っていた。
レオンは双子と親子のコミュニケーションをとっていた。
その間、シグは扉の前で待機していた。
しばらくすると、マルティナが双子を部屋から連れ出す。
そうして、部屋に残されたシグをレオンは近くに呼び寄せる。
シグは覚悟を決め、レオンの前まで歩み出ると背中の後ろで腕を組み、直立不動になる。
「さて、シグ」
「はっ!」
「今回の一件だが…」
シグは背中に汗をかく。
たとえ未遂とはいえ、リオンが暗殺されかけたことに変わりはない。
警備責任者としての責務を十分に果たしていたとしても、かなりの失態である。
どのような処罰も受ける気ではいるが、如何せん、レオンの凄みに怯んでしまう。
「君の『レジスト』の魔法で事なきを得た」
「ありがとう」
「はっ...?え?」
覚悟して、待っていた言葉と違うことを言われてシグは素っ頓狂な声をあげてしまう。
「はっはっはっはっ」
シグの呆然とした姿を見て大きく笑い声をあげるレオン。
逆にシグは、笑うレオンを見てさらに混乱してしまう。
「いやはや、すまんすまん」
「笑うつもりは無かったのだが…シグの顔が面白くてな」
言いつつ、クククッと喉の奥でまた笑う。
そんな様子のレオンに正気に戻ったシグが問いかける。
「ど、どういうことでしょうか?」
レオンは咳払いを一つついて答える。
「うむ。今回の一件、特に咎めるつもりは無い」
「先程も言ったが、君の『レジスト』が無ければ、リオンはこの世にいなかっただろう」
「だからこそ、感謝しているのだ」
「しかし!現に私は...リオン様を危険な目に合わせてしまいました!」
「生きていたから良かったと...それだけでいい筈がありません!」
「そうかもしれん。だかな、経過よりも結果が大事なこともある」
「シグ。君にとっては、リオンを危険な目に合わせたことはとても大きな事なんだろう」
「しかし、私にとっては小さな事なのだよ」
「生きている。それだけで十分なんだ」
レオンはハッキリと言い切った。
リオンが、シオンも、無事でさえいればいいのだと。
その他のことは全て小事なのだと。
しかし、シグは今だに納得出来ないでいた。
リオンは生きている。
だから罰は必要ない。
レオンはそう言う。
だからといって、リオンを危険な目に合わせたという罪悪感がなくなる訳では無い。
「私は...」
言葉が繋げずにいるシグ。
そんなシグの様子に苦笑しつつレオンが声をかける。
「君たち親子は本当にそっくりだな」
「ならば、シグ。君に罰を与える」
「命ある限り、リオンとシオンを守れ」
「必ずだ」
レオンの言葉にハッとするシグ。
さらにレオンは最後にこうつけ足した。
「頼むな」
「はっ!命に代えましても、必ずリオン様とシオン様をお守り致します!」
結局のところ、レオンの思う通りになってしまった感が否めないが、シグは少しばかり心地良い気分であった。
「さて、話は変わるが…」
レオンの言葉に表情を変えるシグ。
その後、シグは暗殺者の侵入経路から撤退するまでをリオンから聞いた限りを伝える。
さらに、その後の警備の強化、対応を話し合う。
2人が今後の対応策を協議し終えたのは日も暮れそうな頃だった。
商業都市『ドラグガーデン』から王都へ伸びる街道を信じられない速さで走る人影がある。
白髪に、皺の刻まれた老齢な紳士然とした男だ。
腰には両脇にショートソード程の長さの得物を携えている。
彼の名はバルト。
およそ一年前、謎の襲撃者を追って旅に出ていた。
そんな彼が、襲撃者の手がかりを見つける。
一週間ほど前のことだった。
バルトは1年という期限の中で大陸中のありとあらゆる都市を巡り歩いた。
西へ東へと、たとえどんなに可能性の低い情報でもその場へ赴いた。
だが、その全てが空振りに終わる。
そして、期限が迫る二週間前。
商業都市『ドラグガーデン』から北西に城塞都市『ドラグロック』という都市がある。
バルトは『ドラグロック』経由で『ドラグガーデン』、王都『アルフォリア』を抜け、大公国『アルレディオ』へ向かおうとしていた。
バルトは『ドラグロック』で一つの事件に巻き込まれる。
解決するのに、一週間の時を要した。
だがその際、一つの情報を得る。
バルトはすぐさまその足で、一路王都『アルフォリア』へ向かったのだった。
王都へ向かう影がある。
主人を守るべく、これ以上無いほどの速さでひた走る。
シグの眼前に悪夢のような光景が広がる。
傷を負った痛みも忘れて、その光景に見入ってしまう。
(なぜ?どうして?)
(傷は痛まない...なら夢か?夢ならば覚めてくれ!)
現実感の無さがシグを支配する。
しかし非情にも、それは現実だった。
(馬鹿か俺は!!惚けてる場合じゃない!)
自分自身を無理矢理現実に戻す。
しかし、シグの体は戦闘で満足に動かない。
左の腕を折られ、左脚に深い切創があり、体のあちこちに切り傷が刻まれている。
それでも、立ち上がり駆け出そうとした。
直後、扉を激しく開け放つ音がする。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
目の前に広がる光景を目の当たりにしたバルトの咆哮が部屋に響き渡った。
帰ってきた〜!!!
バルトさ〜ん!!!
ってことで、サブタイトルの意味が最後の最後で分かるように出来ました。
次回は事の顛末、そして、その後の双子はどうなるのか…
期待して、待て次回!!