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噺の扉(短編集)

お前は空気の何が分かる!

作者:

空気とは何かと考えた事はありますか?

「卓也なんて、もう知らない!!」


俺の放ったこの言葉を聞いて、卓也は何とも言えない表情で立ち尽くしていた。


事の発端は、30分前。


授業が終わった放課後、教室で俺と卓也は二人で勉強していた。


まぁ、勉強と言っても、俺の補習の課題なんだけど。


「なぁー、卓也。 ココが分からないんだけど! どうすりゃ、いいんだ?」


「あぁ、それは…この公式を使って、こうすると答えが出るよ」


「んっ? この公式を…こう? こうして、こうするとこう?」


「そうそう、その調子。 もう少しで答えに辿り着くよ」


「ふっふっふ。 答えが徐々に近付いてる気がする♪」


スラスラっと、シャーペンをノートの上で走らせていると、呼び出しの放送が流れた。


"2年3組、2年3組の小野 誠さん、小野 誠さん。 至急、職員室…職員室に来て下さい。繰り返します、2年3組の小野 誠さん、至急職員室に来て下さい。"


「誠、なんか呼ばれているぞ」


聞こえないフリをしていた俺に卓也が話しかけてきた。


「げっ…まじかよ。 俺、何かしたっけ? もしかして、俺の他に小野 誠という人物が…痛てぇ!「待っててやるから、早よ行け!!」


冗談を言おうとしたが、頬を引っ張られ、卓也に遮られた。


「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」


「うん、行ってら」


卓也を教室に残し、職員室に向かう。


コンコン…職員室の扉を叩く。


「失礼しまぁーす! 小野 誠でーす」


「おぉー、待ってたぞ。 小野」


「金やん、なんかあった?」


「金やんじゃなくて、金田先生! なんかあった?じゃなくて、何かありましたか?だろ!」


「だから、何かありましたか? 金やん」


「お前、人の話聞いてたか? まぁ、いい。 お前、まだ進路表出してないだろ? 明日までに、出して欲しいんだけど」


「あっ…忘れてた! 明日、出すよ」


「まぁ、将来の事だからな…しっかり、親御さんと話して決めろよ!後悔しないようにな」


「はいはーい」


「はいは、一回!」


「はーい!」


俺は、金やんの言葉を受け流しながら卓也の待つ教室に向かった。


教室の前に着いた時、中から話し声が聞こえた。


(卓也の声だ。誰と話しているんだ?)


思わず、扉に耳を近付けてみると、話し声の詳細が聞こえてきた。


「なぁ、お前って…小野の事どう思ってんの?」


「そうそう、前から気になってたんだよねー」


「誠の事?どうって、何が?」


話し声の正体は、隣のクラスの小林と木村だった。


「だから、小野だよ! お前、小野と仲が良いだろ!」


「まぁ、誠とは幼馴染みだからね」


「でも、本当に仲が良いよな。いつも、補習に付き合ってやってさ…」


「まぁ、誠の補習は毎回だし。もう、慣れたよ」


「ふーん。前から思ってたんだけど、なんで小野となんか一緒に居るんだよ。アイツ、頭悪いし…運動神経だって普通だし。それに、加え…お前は学年一位だし、部活の陸上だって県の代表になったじゃないか」


「そうそう、俺もそう思う」


木村の意見に小林が同意する。


「先生も言ってたぜ。小野といると、お前に悪い影響が出るんじゃないかって。成績落ちたり、タイムが落ちるんじゃないかって。だって、練習の時間を削って、小野の補習に付き合ってるだろ」


小林の言葉を聞いた瞬間、驚いて声が出なかった。


補習の時…練習がないっていつも言ってたのに。


「誠は、関係ない。練習は、しっかりやっているから。タイムや成績が落ちたら、それは自分自身の努力が足りないせいだ。だから、誠は関係ない」


「ふーん。そこまで、お前が面倒見てやる必要あんの?」


「だって、高校生だぜ! いくら、幼馴染みでも…そこまでやらなくて良い気がするけどさ…お前にとって、あいつは何なんだ?」


卓也が何て2人に答えるのか、ドキドキしながら扉の前に立っていた。


「うーん、そうだなぁ…………。空気の様な存在かな」


「空気の様な存在!? それって、居ても居なくても関係ないってこと?」


「お前、そんな酷い事を考えていたのかよ!」


小林と木村が大きい声で笑う。


まさか、卓也がそんな事を言うなんて思っていなかった俺はショックを受けた。


ショックを受けた俺は、教室の扉を開けて思わず


「卓也なんて、もう知らない!!」


と、叫んでいた。


いきなり、教室の扉が開いた事と大きい声で叫ばれた事に驚いた卓也は、ただ呆然としていた。

そんな卓也の隣で木村も小林もびっくりしていた。


呆然とした卓也の姿を見て、俺は思わず廊下を走っていた。


卓也が後ろから追い掛けて来ない事を祈りながら、ただ走った。


遠くで先生の「廊下は走るな!」という声が聞こえた気がするが、無視をする。


どれくらい走ったのだろうか、そう思う程に自分の息が乱れていた。

目の前を見れば、廊下の端の視聴覚室。


気付けば、校舎の反対側まで来ていた。


でも、ここなら卓也も追ってこないだろう。


この視聴覚室までの道のりの間に、下駄箱があったから俺が下校したと思うだろう。

ふぅーと一安心したのも、束の間。


「誠! おい、誠! 何で、いきなり叫んで走っていなくなるんだ」


「げっ!? 卓也??」


「げっ!?とは何だ! 失礼だぞ。 なんで、いきなり走る。 転んだら危ないだろう。 んで、なんで走ったんだ?」


「だって、お前が…卓也が…酷い事を言ったから」


「はっ? 酷い事?…そんな事、言ったか?」


「お前、しらばっくれるつもりかよ!」


「だから、本当に分からないんだって。 なんで、誠がそんなに怒ってんの?」


必死に考える卓也の様子を見て、本当に俺が怒っている原因が分からない事に気付いた。


「本当に分かってないんだな。 俺が怒った理由…」


「だから、何回も言ってんじゃん。 だから、なんなの?」


ふぅーと、溜息を吐きながら俺の目を見る。


「俺が怒った理由は、お前のさっきの一言だよ」


「一言?」


「そう、俺の事を空気の様な存在って、言っただろ!」


「うん、言ったね」


「だから、その一言だよ! 小さい頃からずっと一緒だったのに、居ても居なくてもいい存在だって言われたら、誰だって怒るだろう?」


「誠こそ、何言ってるの? 確かに、俺は誠の事を空気の様な存在だと言ったけど。居ても居なくてもいい存在なんてこと、一言も言ってないよ」


「えっ? だって、空気の様な存在だって…」


「そっか、そういう事か。 誠は、早とちりしてるよ。 俺の言った空気とはそういう意味で言った訳じゃない」


「でも、空気って…」


「だから、空気とはお前にとって何だ?」


「すぐそこにあるもの? そして、ないと困るもの…かな?」


「うん」と卓也は首を振って頷いた。


そんな卓也の様子の意味が分からず、

「うん?」と聞き返してしまった。


「だから、そういう事…お前は。 小野 誠は、俺にとって…すぐ傍にいないと困るものかな」


「…///ばっか! 卓也、何言ってんだよ」


「なっ、照れてるの? 誠が珍しく照れてるw」


「こらっ、指さすな! しかも、照れてねぇし!」

そう言いながら、赤くなった頬を隠すので精一杯だった。


「じゃあ、さっき言った事を取り消せよ!」


「………?」


「誠、俺に向かって…もう、知らないって、言っただろ」


「げっ…」


「げっ、じゃないよね? 俺に向かって言う言葉は何かな?」


「ご、ごめんなさい。 あの言葉は、取り消します!」


「しょうがないから、許してあげるよ。 でも、帰りに俺にチョコバナナクレープ奢ってよね」

そう言って、卓也はニコッと笑った。


「じゃあ、そうと決まればクレープ食べに行こうぜ!」


「その前に、教室に鞄を取りに行かないと…」


そう言って笑いながら、2人で教室に向かった。


その頃、教室の中で、小林と木村は頭を抱えていた。


「あぁー、卓也を怒らせちゃったな…」


「コバが変な事言うからでしょー」


「だって、卓也をからかってやろうと思っただけだし・・・それに、きむさんだって話に乗っかってきたでしょ」


「いつも、冷静な卓也がどんな表情をするのか気になっただけだもんなー」


「ふふ、でも卓也のいつもと違う姿が見れて良かったよ」


そう言って、卓也とのやり取りを思い出す。


”誠は、俺にとって大事なやつなんだ・・・俺が勉強を頑張れるのも、陸上を続けている理由も、誠がすごい!って喜んでくれるから・・・だから、俺は誠の傍にいる。誠がいないとダメなんだ”


「でも、俺達もどんどん大人になる。そして、それぞれ歩む道も違ってくるんだぞ」


”あぁ、分かっている。 だから、誠が俺がいないとダメだと教えようかなーなんて”


そう言って、教室を飛び出していった卓也の後ろ姿を思い出して、同時に呟いた。


「「高校を卒業したら、小野の就職先は、卓也だな」」



この10秒後、噂の二人が教室の扉を開ける。




卓也さんの愛が重い。誠ちゃん、逃げて!

少し、ヤンデレ入ってます。

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