11・じゅうほうてんはいろいろなじゅうがあるところです
射撃教習に受かったことで、クレー射撃パートの三人が三人とも散弾銃を撃てるようになった。
三人がそれぞれ銃を使うには三丁の銃が必要だが、部にはベレッタのコレクション96が一丁、アニーの父がオーストラリアから部に譲渡したIABが一丁の合計二丁しかないので、何とかもう一丁工面しなければならない。これが一八歳以上であれば、何とかお金を工面して購入するのだが、さすがに一五~六歳の高校生には難しい問題だ。
今日は『ベレッタを誰が使うか』『もう一丁の銃をどうするか』と云う事を相談する為に部室に集合したのだが、美味は既にその問題は避けて通れないと理解しており、寺の手伝いや雑事をする事で幾ばくかのお金は工面していた。
「拙僧は自分の銃を購入しようと考えておるので、コレクション96は硯耶先輩が使うがよろしかろう」
「有り難う、美味……」
言葉とは裏腹に、美味には硯耶先輩が乗り気でないように見え怪訝に思って尋ねる。
「? 硯耶先輩? どうしたのじゃ?」
「いや、使わせて頂く立場の身で言うのもなんなのだが……この色は……ちょっと……」
硯耶先輩はコレクション96のサイケデリックな模様を見ながら呟く。
「なかなかポップでよいではないか」
「いや、もう少しこう……落ち着いたというか……銃らしいというか……」
「スッズーリヤ先輩、なかなか保守的ですね。ガンメーカーもサムシング考えているんですよ。如何にもガンらしい黒いものじゃなくて、ピンクや赤いカラーをわざわざ塗ったガンが女性向けに売られているぐらいなんですから。ブラック・ガンがガンらしいというのはオールド・コンセプトになりつつあるんですよ……あれ? 先輩」
どうやら硯耶先輩はアニーの『オールド・コンセプト』という言葉に衝撃を受けたようだ。書道部の新しいパフォーマンス主体の活動を受け入れられなかった自分にその言葉が重なった様で、いつの間にか部室の隅で膝を抱えて、暗くなっている。
「どうせ……どうせ……わたしなんか……オールド・コンセプトで……イジイジ……」
『ズーン』という擬音が聞こえてきそうだ。
「ドント・ウォーリィですよ、スッズーリヤ先輩。どっちにしても、このシャッツガンはこのままでは使えません」
「どういう事じゃ、アニー?」
「この銃は大人用のフォアアームとストックが付いていて、このままではラージすぎて正しくグリップ出来ないわ。一度ウッドを削り落して、新しくチェッカリングする必要があるの。このカラーは単なるペイントだから、削った時に落ちてしまうの。そのあとリカラーすれば普通のガンと同じになりますよ、先輩」
「そうか……有難う、アニー」
硯耶先輩は神を拝むかのようにアニーに手を合わせる。
「バーット、どこかのガンスミスにオーダーしなくてはいけないわね……ミス小日向、どこか知りません?」
「地元の銃砲店は狩猟が主体で、こう云う競技銃の加工はしてくれないし……」
「アニー、お主の父上殿の知り合いの、あの東京のガンショップはどうなのじゃ?」
「エ?」
「あそこは散弾銃などが一杯あったし、こう……手慣れた感じがあった様な気がするのじゃが……」
「そういえば、ストックのウッドブロックも置いてあった気がしたわね……」
「早速行ってみましょう。美味さんも一緒に行って、自分の銃を見つくろってくればいいじゃない?」
「なるほど、それは良い考えじゃ!」
「それではスケジュールを調整して、みんなで行きましょう」
「「「はい!」」」
こうして全員での東京行きが決まった。
◇
翌週の土曜日。オーストラリア人一名、僧侶一名、日本人教師と生徒各一名の奇妙な集団は例の如く秋葉原を通り過ぎて、件の真田銃砲店に向かった。思った以上に小奇麗な外観に硯耶先輩も小日向先生も戸惑う。
「これが……銃砲店?」
「なの?」
「ね? 思ったよりファッショナブルでしょ」
「うちの方の銃砲店と云えば、暗くておっさんしかいない、という感じじゃからな」
「さあ、行きましょう」
「はい」
小日向先生が先頭を切って扉を開き、全員が店内に入る。
「失礼します」
「グッダイ」
「御免つかまつる」
店の中央にあるテーブルで銃に油を引いていた店主が、驚いて入口の方を向く。
「おや、億里さん、いらっしゃい。……こちらの皆さんは?」
「初めまして、私は香春鳩高校の射撃部顧問・小日向と申します。こちらは億里さんと一緒に活動しているクラブのメンバーです」
「初めまして」
「宜しくお願い申す」
店主は軽くのけぞったような格好になって、呟く。
「いや、凄いメンバーですね。日本の射撃シーンも変わっていきますね」
その時、美味はテーブルの上にある店主が整備している散弾銃に目を引かれた。アニーのIABやコレクション96と違って、スリムで古びた感じがする散弾銃が分解された状態で置かれている。
「何をやっておいでか?」
「こちらの銃を分解・整備していたんですよ。売れるかもしれないのでね」
「ウィンドウに並んでいる銃とは、ずいぶん違いますな」
「ええ、こちらの銃はサイドロックと云って、機関部の部品がこの銃の横に来るプレートの内側に配置してあるのですよ。どうぞ」
店主はそう言って、美味の手の平にメカの詰まったプレートを置いた。
「近代射撃銃と違って箱型の機関部の中にメカが入るのではなく、メカの入ったこの部品を本体にはめる形になっています。野外での整備に便利なようにね」
「他の銃も、このように複雑なメカニズムで御座るか?」
「いえ、これは野外で狩猟に使用するので余計です。射撃銃の方が、用途が限定されているのでシンプルに出来ますが、野外で使うとなればいろいろな事に気を配らないといけないので、複雑になります。複雑、と云っていますが、メカニズムとしては理にかなったシンプルなものです。撃鉄の上に部品が見えるでしょう? ここです」
「はい」
「これは引き金を引かないのに、何かのきっかけで撃鉄ハンマーが逆爪シアーから離れても倒れないようにする部品です。引き金を引かない限り、弾が発射される事はありません」
「へえええええ!」
美味はもちろん、アニーも硯耶先輩も驚いた。事故を防止する、そんな工夫が銃に施されていたなんて考えた事も無かった。銃は引き金を引けば弾が発射される、単純なだけのモノだと思っていたからだ。
「反対側を見てみましょう。このピンの頭にある三角形のマーク、これが何か判りますか?」
「なんですか、これ」
「これを見れば撃鉄が起きているか/いないかが一目で判ります。人の銃を見て危険かどうかが、一目で解るように工夫されているのです」
アニー達はまた衝撃を受けた。美味の手の平に乗っているメカニズムは、自分だけでなく同行者にも配慮し、安全に射撃や狩猟を行えるように作り手が配慮した、アイデアの集大成だった。
「素晴らしい! こんな素晴らしいモノがあったとは! この小さなメカの中にこれほどの理ことわりが内包されていたとは! これはもはや一つの宇宙じゃ!」
「あ、有難う御座います……」
美味の変なテンションに店主は圧倒される。
「ご主人、これほどの逸品! 是非に所持して見たいものじゃ! いかほどのお値段なのじゃ? この銃は?」
目をキラキラさせた袈裟姿の女子高生に迫られた主人は、苦笑いを浮かべて答える。
「一千万円です。消費税が付きますので一千百万ですね」
「い、い、一千万?」
さすがの美味も、見えない札束に横面を張り飛ばされたようだ。今まで片手で持っていたメカを思わず落とさない様に両手で支える。
「こここ、これが一千万……」
「美味! ドロップしちゃだめよ!」
「美味! お前一生かけても払えないぞ!」
アニーと硯耶先輩は慌てて美味を落ち着かせようとするが、同じ様に札束で顔を張られて変な汗をかいた二人も、すでにおかしな領域に達している。
変な汗を垂らしながら、ガタガタ震えながら超スローな動きでテーブルに戻そうとする美味の手から、部品をひょいと取り上げた店主が笑いながら言う。
「いやぁ、驚かせてすいませんねぇ……ははははは」
その時、店内に怒号が響く。アニー達も緊張するほどの裂帛の気合いだ。
「こらぁおやじ殿! まだまだ整備する銃はあるんだ! もっとキビキビ働け!」
「はいはい、どうもすいません幸美さん」
店主は怒号に臆することなく、ひょうひょうとした態度で美味から取り上げた部品の汚れを落としていく。
「まったく、堪えないわね……あれっ? お客さん? やだ、あなたたち、まさか?」
アニー達は改めて怒号の主を見た。
歳の頃はアニーと同じくらいの少女が、バックヤードとの境の扉の前に立っていた。
油で汚れたワークエプロンとつなぎを着て、髪はワイルドにウェーブのかかったセミロング、負けん気の強そうなボーイッシュな顔には機械油や黒ずんだ汚れが付いている。
少女はツカツカと近付くと、アニーの手を油で汚れた手でしっかり握った。
「えっ? なに?」
「あなたたちも高校生のクレー射撃シューター志望?」
嬉しさに溢れた、はち切れそうなほどの大きな声で尋ねられ、アニーは思わずたじろいだ。
「え? え? ……そうだけど……」
「やったぁ! こんなに仲間が居るなんて、嬉しい限りだわ! アタシね、真田幸美って云うの、あなたは?」
「お、億里アニー……」
「根源院美味じゃ」
「硯耶翅采です」
「硯耶さんはあたし達より上の学年ですよね? 凛々しい先輩って感じですもん! うれしい、こんなにクレー射撃を始めようっていう人達が居るなんて!」
入ってきた時のままのテンションで話していた幸美だったが、あまりの勢いに香春鳩高校射撃部の面々がまったくついて来れていないのにようやく気付く。慌てて身なりを取りつくろい、満面の営業スマイルを浮かべて接客モードに入る。
「あっ、ようこそいらっしゃいませ、どういったご用件で?」
「実はこの銃のストックの加工をお願いしに来たんですが……」
小日向先生がケースを開く。
「へえ、コレクション96か。誰がこれを使うんですか?」
幸美は一瞥しただけで銃の素性を見抜く。
「私なのだが……」
「硯耶さんが? こんな派手な銃を使いたがるように見えませんけど?」
「いや、だからこそ何とかしてくれると嬉しいのだが……」
「そうですよね! こんなイタリア人のだっさいセンス、信じられませんよね!」
「解ってくれるか!」
硯耶先輩が今度は幸美の手をしっか、と握る。
「え、ええ……。取り敢えず構えてみてくれませんか?」
硯耶先輩はケースからコレクション96を取り出し組み立てる。
幸美がアンティークっぽい姿身を示し、硯耶先輩はその姿身に向けて構える。
「うーん、プルは全然長いっすよねー。グリップも太いし、先台も太いし……」
幸美が構えのチェックをする間、硯耶先輩は構え続けていたが、だんだん疲れてプルプルしてきた。幸美もそれに気が付いて
「あっ! すいません、降ろしていいですよ」
硯耶先輩は『ぷはっ』と息をついて銃を降ろし、自然な流れで銃を折る。
「すっごい! マナー、出来てますね」
感心する幸美の顔を見て、硯耶先輩は少し照れくさそうに顔を赤らめる。
「散弾銃って重いですよね、すっごく解ります。木部を削るだけで、結構な重量軽減になりますよ」
「そうだとうれしい、私はこんな重い物を持った事が無かったのでな……」
「でも、これはいつまでに完成すればいいんですか?」
横から口をはさんだ店主の問いに、小日向先生が答える。
「出来る限り早い方がいいんです。夏の懇親射撃大会までに、なるべく練習させたいので……」
「うーん、何とかしたいのはやまやまなんですが、整備する銃や修理する銃が結構たまっているので……」
「大丈夫! あたしが何とかする!」
「幸美さん、あなたが言った通り整備する銃が地下に溜まっているんですよ」
「あたしが一週間以内に何とかする! 同じ高校生シューターの頼みだ! 何とかするっきゃない!」
「彼女に出来るんですか?」
小日向先生が思わず店主に尋ねる。なにせ相手はアニーと年の変わらない高校生なのだ。
「彼女はちゃんとストックスミスとしての修業はしています……が、何せ修行中の身ですしね」
「大丈夫! イチから作るんじゃないから! 荒削りだけしてくれれば、チェッカリングと仕上げはあたしがする!」
幸美はショーケースのピカピカに仕上がった高級散弾銃を指し示し、
「硯耶さん、こんな高級な仕上げを望んでいるんじゃないでしょ? 少し艶のある普通のオイル仕上げで問題ないでしょ?」
「ああ、この派手な模様でなければいい。見てくれよりも、間に合うかどうかの方が問題だ」
「よし! 良いだろう? おやじ殿よ!」
「はいはい、しょうがないですねぇ」
店主は幸美のハイテンションを受けてちっとも動じる様子はない。やれやれと言った調子で返事をしていた。
「それではお預けしていきます、よろしくお願い致します」
「了解しました」
そう言って店主は硯耶先輩から受け取ったコレクション96を分解してケースにしまい、裏へと持って行った。
皆がその様子を見ていたが、アニーは気が付いた様に幸美に声をかける。
「ユーも懇親射撃大会に出場するの?」
「もちろん! 銃砲店の娘として、射撃の普及のために参加するのは当然よ! マストよ!」
「どちらの競技で参加の予定で御座るか?」
「あたしはトラップ。あなたは?」
「拙僧と硯耶先輩はトラップであるが、アニーはスキートでござるよ」
「へえ、珍しいね。最初からスキートを選ぶなんて。あたし、あのルールを覚えるの苦手なんだよね」
「慣れれば平気よ。他にスキートで出場する人っているの?」
「うーん、まだ参加者全体が見えてないんでね……どのくらいいるやら……」
そんなたわいのない話の最中、入口のドアがキィときしむ音がする。
「いらっしゃいませ!」
明るく挨拶する幸美だったが、次の瞬間『えっ?』と怪訝な顔をする。その様子を見ていたアニー達は思わず振り返った。
そこにアメリカの警官が居た。いや、正しくは警官のコスプレをした女の子が店に入ってきたのだ。その後ろには派手な花柄のアロハシャツを着てジーンズを履き、左右を刈り上げて正面だけをツンツンに立てたヘアスタイルの男性がついてくる。
歳はアニー達と対して変わらない様子だが、レイバンのサングラスとサンフランシスコ市警の紺の制服が、妙に様になっている。ストレートの長い黒髪で、前髪をぞんざいに市警のマークの付いたネクタイピンで纏め、『S・F・P・D』と書かれた白い帯の付いた黒いシューティングバックを肩からぶら下げた彼女は、店内に入るとサングラスを外す。現れた双眸は、硯耶先輩に勝るとも劣らぬキリッとした眼差しをしていた。
「社長はいらっしゃいます?」
「あ、はい、今呼んできます」
幸美はそう言って、裏へ店主を呼びに行く。
いきなりの異端な訪問者の登場で、店内には不穏な空気が流れた。しかしその当人は店内の空気をまるで意に介さず、並べてある散弾銃を眺めている。しかしその眼には何の興味も浮かんではいないようだった。
「あ、あの、すいません。ちょっと変わった娘コなんで……」
後ろからついてきた男性が、すまなそうに小日向先生に謝る。
「そちらもクレー射撃部のある高校の方ですか? あの、オレ……いや、私は私立PD学園の堵入といいます。宜しくお願い致します」
「香春鳩高校の小日向といいます、よろしくお願いします」
妙に人懐こい様な雰囲気のその男に、小日向先生は警戒心もあらわに返事をする
「堵入先生、鼻の下が床に届いています」
「ヒッ!」
その一言で、度入と名乗った男は一瞬にして凍りついた。
「……まったく、少しは自制して下さい」
「いや、蕃さん、そんな事は……有るかなぁ……」
「こんな男が指導員だなんて、人選を疑います」
「すいませんね、どうも……」
蕃と呼ばれた女の子は上品な口調も相まって、まるで人を寄せ付けない様な気配を漂わせている。それは警官の制服を着ている事で嫌が応にも増幅されていた。
「お待たせしました、蕃さん」
そう言って出てきた店主の右手には一丁の銃が握られている。
黒い……真っ黒だ。店主の手に握られている銃は先台から銃床まで真っ黒な色をしていた。銃本体が黒いのはわかる、しかし先台から銃床まで黒い銃を美味と硯耶先輩は初めて見た。
よく見るとベレッタとは違い、銃身は1本だけのようだった。本体の横には銀色の窓が開いており、その部分が作動する事が解る。
店主から銃を受け取った女の子は、手慣れた様子で先台を操作し、手前に引く。
『ジャキッ』と重厚な音を立てて、本体の横に窓が開いた。
店主からダミーカートを二発受け取り、一発を窓から入れ先台を操作して閉鎖すると、二発目を本体の底部から銃身と平行についているチューブ弾倉に入れる。そして人のいない方向に銃口を向けると素早く構えて引き金を引き、カチンと撃鉄が倒れた音がしたのとほぼ同時に先台を引いて戻して排莢・装填を行い、更に引き金を引いて同じ動作をする。その素早い動きに美味と硯耶先輩は唖然とした。
アニーだけはその様子を食入るように見つめている。
蕃は先台を引いたままの銃を店主に渡す。
「確かにこのCHOATEのストックとフォアアーム、細くてしっくりきます。堵入先生の見立ても満更ではないようですね。フロントサイトも明るく見やすいです」
「気に入って頂いて幸いです。堵入さん、お久しぶりです」
「社長、まいど! 儲かってますか?」
「はい、ぼちぼちですね。堵入さんがこちらのパーディーの様な銃をバンバン買って頂ければもっと儲かるんですが」
店主は手入れの途中の銃を示す。
「いやいや、銃は真っ黒じゃなきゃダメでしょ! ねえ、蕃さん」
「趣きがなければダメなのです。黒ければ良いというものでもありません」
「いや、蕃さんは手厳しい!」
堵入はまるで太鼓持ちのように、おでこを手の平でピシャっと叩いて言う。
「じゃあこちらは頂いて行きます。小日向先生、次にお会いした時はぜひお茶などいかがですか?」
食い下がる堵入の後ろから、女の子が蹴りを飛ばす。
「いたたた!」
「くだらない事を言ってないで、さっさと銃を車に積んで下さい。来週から練習に邁進します」
「わ、わかりました蕃さん。それでは小日向先生ごきげんよー」
怒りをあらわにした女の子に数発蹴りを浴びせられながら、堵入は一緒に店から出ていった。
「一体今のは何でござるか?」
「私立PD学園トータル・エンターテイメント研究部……だったかな? その顧問の堵入さんと一年生部員の蕃伽羅さんです」
まるで漫才の様なやり取りを見せられ、唖然とした美味に店主が答えた。
「トータル・エンターテイメント研究部?」
驚いた硯耶先輩が尋ねた。
「射撃部じゃないんですか?」
「ええ、違いますよ。映画やアニメ、マンガなどを研究している部だと聞きました」
「それが何でクレー射撃を?」
「あの蕃さんは大のアクション映画ファンでしてね、実際の銃がどんなものか知りたいっていうんですよ。始めは興味本位かと思ったんですけれど、結構真剣なようです」
「マスターはあのガイと知り合いだったようですが?」
「ああ、堵入さんですか、あの方はPD学園の臨時講師ですね。本業はマンガ家だと聞きました」
「マンガ家? マンガ家の人がシューティングをやるんですか?」
「ええ、マンガ家になる前から射撃をしてますから射撃歴は長いですよ。ただ……」
「ただ?」
「銃の趣味が偏ってましてね、映画に出てくるような銃しか興味が無いんです」
「なるほど、だからああいう黒い銃が好みなんですね」
小日向先生は納得したという感じで言う。
「でも射撃は上手いですよ。さっきの銃を使ってスキート競技で、満点二十五点を撃ちますからね」
「なるほど……」
アニーは珍しく真剣な顔でうなずく。違和感を覚えて美味が尋ねた。
「アニー、真剣な表情をしておるな、どうしたのじゃ?」
「さっきのガール……銃の扱いも構えも凄くサマになっていたの。日本にこんなコが居るなんて、って思うくらい。しかもさっきの挙銃姿勢はスキートのそれだったわ」
「そんなに?」
硯耶先輩も小日向先生も驚いて聞き返す。
「油断しないでね、億里さん。あの子ただ者じゃないわ」
幸美もまじめな顔でアニーに声をかける。
日本も捨てたもんじゃない……アニーの目には静かな闘志が浮かんでいた。




