急いでいる時に限って
一話完結の怪談短編シリーズです。
人物・背景などは想像力全開フル回転でお楽しみください。
今日の私は急いでいる。
電車の先頭車両に乗りこんだ。
なぜなら停車位置が階段のすぐ前だから。
揺られて待つ事50分。
やっと到着駅のホームへ入った時、数人の乗客がざわついた。
「カバンだ」
「カバンだ」
私も見た。
「カバンだ」
窓の景色をカバンが横切った。
間もなく足元に感触があった。
指でなぞる様に丁寧に感じる。
腕…線路…胴体…線路…腕…線路…
「人が飛び込んだぞ!!」
一連の感触が終わった後に叫び声を聞いた。
扉が開く。
大勢の野次馬が私の前を塞いでいた。
「どいて下さい!降ります!」
野次馬を掻き分けなんとか降りた。
私は先を急いでいる。
急いでいる時に限って邪魔される。
人ゴミを押しのけ、他人の足を踏みつ踏まれつ階段に辿りつく。
急いでいる時に限って足が重い。
やっと階段を上がり、改札口を抜けた。
サラリーマンが並ぶ列に加わりバスを待つ。
私の後ろがざわめいていた。
今さっきの人身事故の話しだろう。
私はそんな事にかまってるゆとりは無い。
今日の私はとても急いでいるんだ。
急いでいる時に限って足が怠い。
時間に少し遅れてバスが到着。
さっさと乗り込もうとしたら運転手さんが叫んで止めた。
「学生さん…足!」
急いでいる時に限って…。
私は気を失った。
電車の車輪で切断された手が、なぜか私の足首を掴んでいた。




