混乱
~プロローグ~
〈混乱〉
「第7小隊、発進を許可する」
管制塔で不味いコーヒーをすすりながら、ライルは、滑走路で待機している部隊にGOサインを出した。
(了解、発進する)
「御武運を」
型通りの通信が終わり、ライルはため息をつきながら椅子の背もたれにもたれかかった。
「お疲れさん、なんだか今日はやけに出動が多いよな」
隣で、同じく発信許可を出していたオペレーター仲間が話しかけてくる。
「確かにな、でもそれだけあちらさんとの関係が緊迫してるってことだろ?」
頷きながら、椅子に深く座り直す、ライル。
シートに沈み込んでいく身体が急速に眠気と疲労を訴えてくるのを、コーヒーでかき消す。
「タンザ連邦の奴ら、仕掛けてくるかな?」
「さぁな」
肩をすくめる同僚。
ため息をつくライル。
今朝から、幾度となく繰り返されている問答。
やはりと言うべきか、ここだけではなくそんな光景が、管制室のあちこちで繰り広げられていた。
そのせいもあるのだろう。どこか弛緩した空気が管制室に流れ始めていた。
ウィーン
そんな時、独特な甲高い音を響かせながら、ドアが開いた。
「……」
弛緩していた空気が一気に引き締まる中、コツコツと響くエナメルの靴音が激しく自己主張を始める。
「うへぇ……上官、機嫌悪そうだな。ちゃんとしとかないと怒鳴られるぜ、こりゃ」
とばっちりを食らうのはごめんだと、同僚はモニターに向き直った。
ライルも椅子に浅く座り直し、コーヒーに一瞥をくれてから、メインモニターをチェックする。
有視界情報異常なし。
各種計器も問題なし。
慣れた手つきで、手早くチェックを済ませながら、メインモニター脇のレーダーを一瞥する。
「ん?」
レーダーに機影がうつっていた。それも、一機だけ。
……さっき出た部隊か?
しかし、データ照合するとANKNOWNと表示された。
「司令!」
ライルは上司に状況を知らせると同時に、マニュアル通り、通信回線を開いた。
「所属不明機に告ぐ。どこの所属か?所属と搭乗者名を明らかにせよ」
しばらく待つが、応答はない。
すぐに隣に来た上官が、うなずくのを確認し、ライルは再度通信回線を開いた。
「再度、所属不明機に告ぐ。そちらはラグラシア公国軍所属基地“ラベアム”に接近中である。直ちに反転せよ。繰り返す。直ちに反転せよ。これは最後警告だ。反転しない場合、敵機とみなし撃墜する」
……
沈黙が管制室を支配する。
……
しかし、所属不明機からの応答はない。
基地内にアラームが鳴り響き、防衛隊がスクランブル発進する。
「なんてタイミングだ。基地の部隊は出払ってて、今は守備隊しかいないってのに」
隣で同僚が毒づくのを聞きながら、ライルは悪寒が走るのを感じていた。
しかし、ただの管制官に、何ができるはずもなく、管制室にいる同僚たちと一緒にレーダーに移る所属不明機と、それに近づいていく防衛隊の機体を黙って見つめていることしかできなかった。