最期は一緒にいたかった
ニューヨークの闇の中、暗闇をたくさんの明かりがたんたんと照らしていた。休む間もなく永遠と眠る事のない都会。一見此処は首都のようにも思えるが、実際アメリカの首都は「ワシントンD.C」だ。
その都会のど真ん中に位置する高層ホテルの最上階。
そこでは一人の美しい少女と一人の若者がテラスに座って話していた。
「何でセシルは私自身を心配してくれるの?」
理沙はつぶやいた。あの日から一週間。既に自虐行為をしなくなったため、元の部屋に戻された。もうあの鼻をつんざくような血の匂いはなくなっていた。ちなみに、セシルの給料は三倍に跳ね上がっている。
「だって...リサは何だか何時も危なっかしいから。ずっと守りたくなるんだよ」
「そうなんだ...うん、夜景が綺麗だね」
「一年経ったけど、この景色は何時も変わらないね」
セシルは優しく微笑んだ。
「あ、リサ、ちょっと...悪いんだけどさ。実はまた、明日から出張が入ってしまって...」
「え...嘘、もう何処にも行かないって言ってたのに」
「よく覚えてたね。そう、言ったんだけど...」
すると、理沙は悲しそうな顔をした。彼女は一年前の約束を覚えていた。セシルはそれを破ろうとしている。でも理沙は無理に引き止めようとも思わなかった。セシルは自分のものではないんだし、彼にも仕事がある。
「...分かった。私待ってるから。行って来て。でも、絶対に戻って来てね」
「うん、ありがとう」
お互いに微笑み合った二人。だが、その笑顔をもう二度と交わす事がないなど、双方思いもしなかった。
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赤く旋律が染まった。
人生の歯車は何時狂ったのか。人生という名の旋律に、何時の間にか真っ赤な血が飛び散っていた。拭き取ろうと足掻いても、乾いた血が取れる事はない。
黒く鍵盤が染まった。
人としての心は何時狂ったのか。心という名の鍵盤に、何時の間にか真っ黒なインクがぶちまけられていた。拭き取ろうと足掻いても、乾いたインクは中々落ちない。
白く楽譜が染まった。
未来は何時見えなくなったのか。未来という名の楽譜が、何時の間にか真っ白に消されていた。音の示されていない楽譜を渡されても、何も弾けやしない。どうにか書き直そうと足掻いても、紙に滴るインクは水の中に溶け込んで行くかのように消えていく。
人生、心、未来ーー見えなくなり、全てが狂った。どれだけ足掻いても、伸ばされた手は掴む事は出来ない。
全てが狂うと、周りの人間まで狂わせてしまう。周りの人間の人生、心、未来を曇らせてしまうーーー
理沙は泣いていた。
ニューヨークの空は、灰色の雲で覆われ、彼女と同様涙を流していた。
理沙は怒っていた。
ニューヨークの街は、車が滑って周りの車に衝突し、彼女と同様怒っていた。
理沙は辛かった。
ニューヨークの裏路地の、今にも飢え死にしそうな子供は、彼女と同様辛かった。
「セシル...っ...セシル...」
理沙の目の前には、残酷にも永遠の眠りについたセシルが居た。