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客人

 

「此処は、イギリスのど田舎さ」

「イギリス...ど田舎...」



 理沙は、フェルとレトルを交互に見た。



「あ、あの飛行機の事だけど...実は、みんな亡くなっていて...とりあえず埋葬したけど、リサの親とかは?」

「みんな、死んじゃったんだ...」



 フェルの言葉を聞くと、理沙は静かに涙を流した。レトルはフェルの頭を叩いた。



「このKY野郎。何て事を言うんじゃ」

「わ、悪いリサ! そんなつもりじゃ...」

「ううん、良いのフェル...私、嬉しくて...」



 何だろうこの気持ち。嬉しいのに悲しい。この事故で蘇我さんという苦しみから解放された。でもその所為で、何百人という人の命が犠牲になった。



「でも...悲しくて...」

「い、一体何があったんだ?」



 理沙は、泣きながら全てを明かした。「SR細胞」の事、国際連合の事、そしてーーあの拷問の日々も。レトルは黙って聞いていてくれた。フェルは...情緒不安定なのか泣いたり喚いたりしていた。



「な、何でそんな目にあってるんだよぉ!!」

「し、信じてくれるの?」

「当たり前だろ! お前に嘘をつく理由はねぇ!!」



 フェルは真剣な顔で理沙の事を信じていると告げた。理沙は違う意味で泣きたくなった。



「リサが不死身なのは分かった。じゃが、問題はその連合の連中がやってきた時じゃ。もし仮にリサが居る事がバレたりしたら...」

「...大丈夫です。彼らは私を捨てましたから。最後の最後まで期待させて、信じさせて...捨てましたから」

「...」



 「捨てられた」何処か悲しいワードだ。だが、これでもう自由。二度とあんな場所に縛られる事なく、自由に生きる事が出来る。この場所でーー。



「リサ、目が覚めたんなら村に挨拶に行くか? みんな心配してたんだ。多分、そろそろ埋葬も終わったと思うし...」

「そう、だね」



 理沙はフェルに連れられ、木造の家の外へと出た。途端、田舎の涼しいそよ風が吹いた。自然の香り、鳥の囀り、日本でも滅多にお目にかかれないであろう場所だった。

 フェルの家の側にも、たくさんの木造建築が立ち並んでいた。いずれも一軒家で、ペンションのような形をしている。

 向かいの家の前には、タバコを吸っている巨乳のヤンキーっぽい赤毛のお姉さんが居た。



「あっ! 目が覚めたのか!!」



 お姉さんはタバコを投げ捨てると理沙達の所へかけて来た。



「おいおい、山火事になるぞ?」

「平気だ小僧。山火事になってもみんなが消してくれるからな」

「そういう問題じゃねぇよ...」



 理沙はお姉さんを見て首をかしげた。



「良かった。目が覚めたんだな。あたしはライト・バンディーヌ。この村の...”薬剤師”って言うのかな?」

「お薬を調合される方なのですね。私はリサ・サイトウ。助けて頂き、ありがとうございました」

「いやいや、飛行機のとこで倒れてて、まだ息があったから急いで運んだだけだ。っていうか、飛行機の乗客だろ? リサは」

「は、はい...」

「じゃあ聞くけど、何で無傷なんだよ」

「え?」



 ライトは理沙をジロッと見た。それは優しい視線ではなく、もっと理沙を怪しんでいるようなーーそんな目だった。



「普通さ、骨折かぐらいはすると思うんだよ。周りの乗客の遺体は、少なくとも骨が粉砕か飛行機の部品が体に突き刺さっていた。それに、飛行機の外に居たって事は投げ飛ばされたんだろ? なのに何で擦り傷もねぜんだよ」

「そ、それは...」



 若干涙目になった理沙を見て、フェルはライトを睨んだ。



「あのなライ姉、あんまりそういう事言うよ」

「何でだよ」

「それはな...これが絡んでんだ」

「な、何だと...?!」



 フェルはライトにしか見えないように”チャリーンマーク”を手で作った。すると、ライトは目を見開いてニヤリと笑った。



「な〜るほどチャリーンが絡んでいるのか...」

「そうだよライ姉。チャリーンが絡んでるんだよぉ...」



 二人は陰でクスクス笑っている。理沙はそれを見兼ねてため息をついた。

 ーー確かに私の血は価値があり、1ccだけでも幾ら値がつくか分からないけど...うん、バンディーヌさん...。



「なぁリサ、あたしの事はライ姉と呼びな!」

「はい...ライ姉...」

「良い子だ!!」



 その後、フェルとライ姉(金目当て)の案内で村を回った。どうやら、今は飛行機事故で亡くなった人の埋葬を村総出で行っているらしい。たった一人の生存者である理沙は、村の人達からとても心配されていた。



「怪我はないかい? 本当に大丈夫なのかい?!」

「俺の嫁、大丈夫なのか?」

「まだ休んでいた方が良いんじゃないですか? 我々は貴女の事を何時でも受け入れられます。無理をしないで存分に甘えてください」



 変なのもあったが、とりあえず心配してくれた。何だか居づらい雰囲気となっていたが、理沙は笑顔を取り繕っていた。



 翌日の昼頃、フェルの家のベルが鳴った。



「悪いがリサ、出てくれないか?」

「はーい!」



 理沙は、きっとライ姉だと思い、笑顔で家のドアを開けた。途端、その笑顔は電光石火の如く曇った。



「あ...ぁ...」

「やっと見つけた...」



 客人を目の前に、理沙の震えはピークへと達していた。手を伸ばし、理沙の腕を掴もうとする客人。理沙が涙目になりながら倒れ込むと、客人はしゃがみ込み優しく理沙を腕で包み込んだ。



「リサ...僕のリサ...」

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