J‐POPを口ずさめば
「いや~、久しぶりのドライブだね~」
彼女は助手席に座って、腕と体をぐーんと上に伸ばした。
彼女が指定した場所まで僕は車を走らせる。窓の外には海が広がっており、彼女はそれを眺めていた。
「ラジオでもつけるか?」
「いいね! いいね! ドライブといえばラジオだよね!」
彼女も乗り気なようなので、僕はラジオをつけた。スピーカーから女性の歌が聞こえてくる。
『前髪で隠した会いたい気持ち 愛しているのに……』
どうやらその曲はラブソングだった。途中に早口のメロが入ってからサビに入る。
まあ、今時の曲と言えば今時の曲だった。
「ねぇ、あのさ」
「おう、どうした?」
「なんでこういう曲の時っていつも前髪で何かを隠すの?」
彼女の声が少しずつ大きくなっていく。
「ちょっと、ワンパターンし過ぎだよね」
「そうなのか?」
「そうだよ! 大体さぁ、気付いて欲しいなら、その前髪を切っちゃえばいいのに」
そして、彼女が発する言葉に興奮が添えられていく。
「そしてさ、『愛』を動詞にしてるじゃん! だからなんだよ!」
ああ、彼女はこの『愛』という言葉を動詞にするのが嫌いだったなぁ。
「それが会いたいって感情だけで終わってるんでしょ? なら会いに行けよ! って話じゃない?」
「つまり……」
僕は彼女の言葉を呼び込む。
「そう! 態度で示しなさいよ! って話よね」
「ふむふむ。前もそんなこと言っていたね」
「そうだっけ? でも、まとめはこれじゃないわよ」
僕はこれがまとめだと思っていたので、少し驚いた。
「じゃあ、そのまとめは?」
「この歌に出てくる女の人の愛情は、『会いたいと思ったら会わないで待つだけでいいや。向こうから会いに来ないと、前髪で隠せるほどの愛しか与えないよ!』という意味になるんだよ!」
彼女がそう言い終えると同時に、ラジオから聞こえてくる歌が終わった。
僕は横目で彼女を見ると、海の煌きと相まって、いつもより眩しく見えた。
ラジオDJが次の曲の紹介に移る。そんな風に、僕らのドライブはまだまだ続く。
読んで頂き、ありがとうございました。