表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
接木の花  作者: のら
二章
30/35

29. 母親



「お母さーん、樹が来たよー。」


希が勢いよく玄関の引き戸を開けると、開口一番にそう言い放った。


すると……


──ガラガラ…ガシャーン!


数秒経ってから何やらけたたましい音が家の奥の方で鳴り響いた後、誰かが廊下をパタパタと早足で歩いてくる。


「あらあらあらあら、まあまあまあまあ…。

ようこそ、いらっしゃいました。」


そう言って三つ指付いて挨拶をしてきたのは、割烹着を来た40代前半位の落ち着いた感じの女性。

年代からして希の母親だろうか、目元の愛らしいところが親子共々良く似ている。


…あれ?今、ガシャーンって凄い音が聴こえたんだけど…


「お母さん、彼女が樹よ。」


希がニコッと微笑みながら母親に言う。


…あれ?希は今の音、スルーなの?


「この前、お母さんに見せたあの写真よりも、今の樹の方がちょっと髪が伸びてるかな?

…あ、そうそう。それとねお母さん。やっぱり、樹は私の部屋で寝るから。寝る場所はあのベッドで充分よ。」


…ん?写真?…部屋?…ベット?

いやいや、それよりもガシャーンって…


「ん?樹、どうかした?」


「……あ!そうだった!

あ、あの…は、は、初めまして……えっと、里山樹って言います。今日からお世話に────」


少し慌てながら挨拶をして、深く頭を下げた時…


「────喋ったぁ!」


「………え…?」


お辞儀をした姿勢のまま、声がした方へとそっと顔を上げてみると、希のお母さんがあんぐりと開けた口を両手で隠している。


「ちょ…ちょっと、お母さん!」


「…あ、あらやだ、私ったら…ごめんなさいね。つい、あの写真の印象が強くて……その、意外だったものだから…………オホホ。」


「ほら、また!」


希にそう一喝され、シュンと下を向く希のお母さん。


「もう!」


今日2度目の希のふくれっ面だ。


「ふふ。ごめんなさいね、樹ちゃん。

改めまして、希の母親です。この子がいつもお世話になっています。」


そう言うと希の母親は改めて三つ指を付いて丁寧に頭を下げてくる。


「あっ、いえいえ、そんな!とんでもないです!

あ、あのっ、私の方こそ、希さんに迷惑ばかりかけちゃって……だから、いつも助けてもらって感謝してるんです。」


希の母親に向かって手を大袈裟に横に振って否定をするが、けっして謙遜ではなく、ほぼ事実だ。


「…フフ。あなたの事は希から良く聞いています。この子ったらね、樹ちゃんの事になると、とっても楽しそうに話をしてくれるのよ。

ほんと、小さい頃から希は、根が頑固で気難しい所があったから、友達を作るのがとても下手でいつも心配してたんだけど……。

でもこうして、樹ちゃんのような素敵な子

が友達になってくれて本当に嬉しく思うわ。

これからもこの子の事をよろしくお願いします。」


「いえ!こ、こちらこそ…よ、よろしくお願いしますっ!」


そう言って勢いよく頭を下げたら、背中に背負ってるリュックの重さで前につんのめりそうになった。


「お母さんてば、私の事なんか今はどうでもいいでしょ!もう行くからね!

さぁ、部屋に案内するから、上がって、樹。」


「う、うん。…では、お邪魔します。」


「あ、そうそう。それとね、樹ちゃん。着いたら道場に来るようにって隼人が言ってたわ。来て早々、落ち着かなくてごめんなさいね。でも、ゆっくりでいいから準備が出来たら行ってあげてね。」


「はい、分かりました。」


そう言ってペコリと軽くお辞儀をした時、希の母親はとても優しそうな笑顔でニコニコしていた。ふと、3年前に亡くなった浩介の母親の笑顔と希の母親の笑顔が重なり、胸がギュッと締め付けられる。


「ほら、こっち。」


そんな複雑な気持ちも、希が何故か赤面しながらズルズルと手を引っ張ってくれたお陰で、次第に薄まっていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ