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接木の花  作者: のら
一章
24/35

23. 追憶(前編)

…………


…………


…………


「…あっ、樹、それ貸して。」


視界に広がった白い霧がまだ目の前を覆っている中で、誰かがこっちに向かって声を掛けてくる。



………え?………誰…?



徐々にだが、視界に広がっていた白い霧が薄まっていく。


……………ここは……?



やがて白い霧は殆ど消えて、今までぼんやりとしていた視界がハッキリとしてくる。


目の前に表れたのは山積みになっているゴミの袋だった。周辺の雰囲気とこのゴミの山からして、どうやらここは新校舎の裏側辺りにあるゴミの集積所にいるらしい。


……あれ?……確か、希と一緒に旧校舎にいた筈なのに……ここは……


「よいしょ。…よし!これで終わり…っと!」


視界の中では、ゴミの袋を放り投げて手をパンパンと払っているジャージを着た少女の後ろ姿が見えた。


「ゴメンね〜、樹。今日は休みだったのに、こんな事に付き合わせちゃって。」


その後ろ姿の少女が不意にこちらに振り返り、そう言って笑顔を見せた。



…あれ?……この頬っぺたのエクボ………まさか…………月島遥…?


……確か…彼女は……事故で……



…あ……そうか…これは………樹の過去の記憶だ……



「…あれ?でも、よく考えたら私が謝る事は無いんだよね。元はと言えば、小夏のバカが……」


……やっぱり彼女は月島遥だ。笑うと頬っぺたに出来るエクボがとっても似合うし、樹が記憶しているいつもの明るく元気な彼女だ……


そんな遥は悪態をつきながらブツブツと独り言を言って校舎に向って歩き出している。

樹はそんな遥を見てクスクスと笑っている。


……樹の感情が…流れ込んでくる……とても楽しそうだなぁ…樹……

…それにしても、前回に見た時の樹の記憶は…何処か朧げだったけど……でも、今回の記憶はやけにハッキリしているな……


遥と樹は楽しそうにお喋りしながら校舎へと歩いて行く。

その時の二人の話によると…、遥は美化委員に所属しているらしい。そして、どうやら今日はその美化委員の活動の一環として、校内と校外周辺のゴミ拾いをする一年に数回の清掃活動の日だったらしい。各クラスの美化委員が二人で行動するらしいのだが、相棒の小夏が何らかの理由で来れなかった為、代理として樹が参加したとの事だった。


「でも、小夏には感謝かなー。こうして今日は樹と回れたしねっ!

あ〜あ、このまま小夏なんかじゃなくて、樹とだったらいいのに…。」


そう言うと遥がイタズラっぽく笑った。

どうやら、樹も親友の遥と一緒にこの美化活動に参加出来て楽しいと言う気持ちで溢れているみたいだ。


「あっ!そうだ!早く制服に着替えてさ、この間言ってたあのお店に帰りに行ってみない?ね!そうしよ、樹!」


校内にある少し薄暗い下駄箱の前で遥がそう提案してくる。それに対して樹は快く頷いていた。


……この月島遥って子……樹が好感を持てるのも頷けるなぁ…。だって、こんな屈託の無い笑顔で話し掛けられたら誰だって嫌な気持ちにはなれないもの…


「じゃあ、早く制服に着替えよ!」


遥が早速、自分の下駄箱の扉を開けると、それに続いて樹も遥の隣にある下駄箱の扉を開けて上履きを取り出す。


そして、樹がその上履きに履き替えていると、その横で上履きを持ったままの姿勢で止まっている遥がいた。

急かした当の本人が立ち止まっている事を不思議に思い遥を見てみると、彼女は左手に上履きを持ち、右手には手紙のような紙切れを真剣な顔で見つめていた。


「あれ?……遥…それって、もしかして……ラブレター?」


「…え?…こ、これ?…うん、まあ……そんなとこ…かな?…アハハー。

わ、私だってさ、こう見えてもモテるのよ!」


「へぇー、遥も隅に置けないな〜!

………あれ?

…でも、そのラブレターって………ノートの切れ端っぽくない?……それも、手で破いたような…」


「…え、これ?…あ、いいのいいの。これぐらいの手紙の方が私には似合ってるんだから!アハハハ…」


慌ててそのノートの切れ端を両手で後ろに隠し、遥が引きつった顔で笑う。


「ねぇ、遥………それってほんとにラブレターなの?……ちょっと私に見せて。」


「あー、ダメダメ。…例えノートの切れ端だっても一応ラブレターだし。それにほら、えっと、何だっけ?……ナントカ橋…だから…」


「…………プライバシー?」


「あっ、それそれ!やっぱりこういうのって人に見られると恥ずかしいじゃん?」


「…うん、まあ…そうだけど…。」


「でしょ?…だからさ、樹は先に更衣室に行って着替えててよ。私はこの手紙の主にさ、丁重にお断りの返事をしてくるから。」


「……え?…今から?」


「うん。なんか今日ずっと待ってるらしいから。こう言うのは早めに返事をしてあげないとね。それに私さぁ、今、恋愛に興味無いしー。」


「…………。」


「なぁに、心配してんの? …大丈夫だって。」


そう言って遥は笑っているが、樹としては一抹の不安が胸を刺す。そんな不安な気持ちが顔に出てしまったのか、曇った顔をしている樹に、遥が肩をポンポンッと叩いて微笑んだ。


「それじゃ、ちょっと行ってくるから。」


「…あ、待って、遥っ!」


「……ん?……なぁに?」


さっきから樹は何故か嫌な胸騒ぎを覚えていた。

気にし過ぎだと言えばそれまでだが、先程の怪しいラブレターと言い、遥の不自然に慌てた態度と言い、何か心に引っかかる物があり、できれば遥には行かないでほしかった。

そんな遥を心配する気持ちが、樹の記憶を通して、浩介の心に流れ込んでくる。



「………大丈夫よ。すぐに戻ってくるから。」









樹以外には誰も居ない更衣室では、静かに時だけが過ぎて行く…。外では運動部による掛け声が壁越しに聞こえてくる。



あれからどの位の時間が経ったのか…。


もう既にジャージから制服に着替え、更衣室の中にあるベンチで一人座って遥を待つ。もう部屋の壁に掛けられている時計にどのくらい目を向けたことか……。







…しかし、遥はまだ来ない……。




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