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接木の花  作者: のら
一章
12/35

11. 帰省

明日は日曜日。

学校は休みって事で今日は泊まる事になった…半ば強引にだが。

婆ちゃんには美琴から電話して貰った。

…と言うか気が付いたら美琴がもう掛けてた。


まあ、もう少し美琴と話をしたかったと言うのもあるけど、この家にももう少し居たかったと言うのもある。


それから美琴にはこれまでの経緯を、そして樹の事も細かく話した。

昔から、美琴は何でも興味を持つので意外と話しやすかったし信じてくれて、それから話は盛り上がって幼い頃のバカ話などで二人で腹を抱えて笑いあった。


「ん〜でも、まさかお兄ちゃんが年下の女の子だとはねぇ。しかもこんなに可愛いし…。」


「あはは、お互い変な感じだよな。」


どうも美琴が俺を見る目が違うのは気のせいか?そりゃそうか、見た目は樹だし。


「実はな美琴…。お前にカミングアウトしようとしたのは他にも理由があるんだ。

その…教えて貰いたいんだけど、色々あるだろ?その…女には」


「……何がぁ?」

…もしかして、こいつ知ってて言ってるじゃないよな。


「な、何がって、そ、その、あれ、つ、月一のお勤めみたいな奴…。」


「ふーん。」


「…だ、だから…」


「………。」


「……あの…」


「…………」


「…あぁ、もう、ダメ!可愛いっ!!」

そう言うなりいきなり美琴に抱きしめられた。

「私、昔から妹が欲しかったんだ!!」


むぐぐ…く、苦しい…。



その後は事は美琴に言葉巧みにいじられてはいたが、でも、良かった。心強い味方ができた。

これで女で分からない事があったら心置きなく聞く事ができる…。


「そうだ!お兄ちゃん、一緒にお風呂にはいろ!」


ブハッ!

飲んでたお茶が変な所に入ってむせた。


「お前な、見た目は女でも中身はお兄ちゃんなんだぞ?」


「えー、私は気にしないけどなー。」


「俺が気にするわっ!」


「分かった。じゃあ、先に入って。」


ほんとに分かってんのかな、こいつ。

とか思いながらも風呂場へ向かい、風呂場で服を脱ぎながら何だか俺が襲われそうな勢いだな…と背筋に何かが走る思いがした。


あぁ、しかし、住み慣れた所の風呂はいいなぁ。とっても落ち着く。この小さい頃からある昔ながらの小さい湯船、こうしてこの家から離れるとこの湯船も独特の味わいがあるんだよなぁ。

ふぅぅ…最っ高に気持ちがいいぃー

…フンフーン…


そう慣れ親しんだ湯船にイキな鼻歌を交えながら身体の芯まで浸かっていたら、なにやら脱衣所の所でガサゴソと音が聞こえてきた。


ガラガラッ…


「お邪魔しまーす。」

と言ってバスタオルで体を隠した美琴が突然入ってきた…。


「バッ、おまっ、な、何を考えてんだ!」

「えー、いいじゃん、ほら、タオルで隠してるんだし。」

とか言ってたが、その時には俺はもう後ろを向いていた。


「もー、恥ずかしがっちゃって可愛い。」

と言いながら背後でシャワーを出す音が聞こえる。どうやら恥ずかし気も無く俺の後ろで身体を洗ってるらしい。


だから…、あー、どうすりゃいいのさ。

そりゃあ確かに女同士だから別に風呂くらいいいのかも知れないけど、だけどやっぱり元は兄貴だし、気を使うぞ…困ったな。


そうこうしてるうちに洗い終わったのか、美琴が湯船に入ってきた。


えっ?この湯船、女二人なら入れるのか?へぇー、ちょっと変なトコに感動したよ。


「なんか久しぶりだね。こうして一緒に入るの。」


「あ、あぁ。」

背中越しから美琴が話しかけてきた。


「なんかさ、最近小さい頃の事をよく思い出すんだ。」


「そうか…。」


「あの頃はみんないたよね。お父さんもお母さんもお婆ちゃんだって。あの頃は気付かなかったけど、あの時が一番良かった気がする…。」


「…みんなバラバラになっちゃったな。」


「もう、戻りたくても戻れないんだよね…あの頃に。」


「あぁ、でもまだお兄ちゃんがいるぞ?…女になっちゃったけど。…はは。」


「ふふ。そうだね………それにお父さんもね。」


「………。」


「…お兄ちゃん、棚に飾ってあった古いお酒知ってる?」


「ああ、あれな。そういえばあと少ししか残ってなかったけど、さてはお前呑んだだろ…?」


美琴は少し間を置いた後に、

「実はお父さん、一昨日までここに居たんだよ。」


「えっ?あの家族ほったらかしの仕事人間が?」

親父は海外に仕事で長いこと単身赴任をしていた。


「お兄ちゃんが亡くなったって聞いて急いで帰国して一昨日まで。」


「…………。」


「後で知ったんだけど、お父さん、あの棚に飾ってあったあの古いお酒を、成人したお兄ちゃんと一緒に呑むのが夢だったみたいね。


……でもなかなか帰国出来なくて。」


「……え?」


「ある日の夜ね、私が喉が乾いたからお水を飲もうと思って二階から降りてきたの。そしたら…


…そしたら、

お父さんが、仏壇の前で…泣いてたの。


……そのお酒を呑みながら…。」


「…お兄ちゃんの写真の前にね、そのお酒の入ったコップを置いて…ずっと……ずっとね、すまなかったって謝ってたんだ…。」


「え?…だって…親父は…」


「お父さんは…本当は家族みんなと一緒に居たかったんだと思うの。

…別れる時言ってたわ。


もし海外の仕事先でお父さんが居なくなってしまったら、バラバラになってしまう家族が沢山あるんだ…って。


だから……今思うと家族を大切に想っていたからこそ、家族の所に帰って来れなかったんだなって…そう思ったの。

…お母さん、その事を分かっていたのね。」



親父…は、居て欲しい時にはいつも居なくて…昔から親父といる記憶はほとんどなかった。

だから、親父にはきっと家族なんて、どうでもいいんだと昔からそう思ってた。


………。


……でも美琴の言うとおり一番家族のそばに居たかったのは、……親父だったのかもしれないな……。


…だけど…なんで今頃……もう、遅いよ…



「…お兄ちゃん。」

美琴が背中に顔を寄せる。


「…美琴、ありがとうな。」


でも、今まで見えなかった親父の気持ちが、少しでも分かった事でわだかまりが溶けていく…



…そんな気がしていた。



いつも"接木の花"を読んで下さって本当に有難うごさいます。

とても読みにくい、分かりにくいとは思いますが、ここまで読んで下さって本当に感謝しています。

ストーリーはまだまだ続く予定ですが、諸事情により更新が不定期になりそうです。

これからも良いものにする為に努力していきますので、今暫くお付き合いして貰えるととても嬉しいです。

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