王子様
大宮くんとの対面がこんな形になろうとは思ってもみなかった。
「ほんっとごめん」
目の前でわたしに両手をあわせて謝っている彼こそが、噂の大宮郁くんだ。
わたしはといえば、みっともなく膝を擦りむいて椅子に座っている。
「いいよ、ぼーっとしてたわたしも悪いし」
お弁当を食べ終わって、わたしは校庭の隅にある鶏小屋を見に行こうと1人で校庭を歩いていた。
実紗は動物が苦手だと言って行きたがらなかったから。
そのとき校庭でサッカーをしていた大宮くんのシュートが外れてわたしに直撃したのだ。
保健室の場所がわからないわたしに付き添ってくれて、今この状況に至る。
膝の傷なんて大したことないだろうに、大宮くんは言い訳ひとつせず、ずっと謝っている。
「大宮くん、もう大丈夫だから。ほら、あと……」
あと数分でチャイムなるよ、と言いかけて時計を見た時だ。
昼休みの終了を告げるチャイムがなり響いた。
「あっ」
わたしと大宮くんの声がチャイムに重なった。
「ごめんっ」
大宮くんが言ったと同時に身体がふわりと浮いた。
「えっ、いや、歩けるから!」
わたしの声など聞こえていないかのように、大宮くんは走り出す。
「俺、走りには自信あるから」
ただ一言そう言って。
大宮くんの顔が急に近づいて、本当に王子様みたいに綺麗だと思ってしまった。
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