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はじまり
手つかずのまま積み上げられたダンボールだらけの部屋。
今日からここに住むなんて感覚がまるでない。
誰もが、忘れないと、ずっと友達だと言ってくれた。
わたしも同じ言葉を何度も言って、涙ながらに手を振った。
昨日のことなのに、もうすでに懐かしく感じてしまう。
鞄から色紙を取り出す。
昨日クラスのみんなからもらったものだ。
『また会いに行くからね!』
『大阪でも、アイらしく頑張れ』
ひとつひとつ読むとまた涙がこぼれてきそうになる。
ふと、わたしの目がとまった。
……えっ、なにこれ?
綺麗な黒い字で書かれているのは……
住所?
瀬川 陽。
そんなによく話した覚えもない。
あまり女子と話しているところも見たことがない。
茶色い縁のメガネをかけて、窓の外を見ている印象の人だった。
どうして住所を書いているのだろう。
手紙送ればいいの?
でも、それ以外何も書いてないし……
わからない。
瀬川くんがどういうつもりで住所を書いたのか。
そして、それを知る方法はただ一つしか思いつかなかった。
手紙、書こうかな。
読んでいただきありがとうございました!