宇宙の果てで
みか達の暮らす地球から遥か遠く離れた宇宙の果て。
そこは遠くでありながら近くと同じような星々が広がり、宇宙は変わらないという印象を見るものに抱かせる。静寂に沈むその空間が不意に揺れ始めた。
巨大な青い宇宙が黒い宇宙を侵食していく。まるで全てを飲み込み、黒を青く塗り替えていくかのように。
その侵攻がふと止まった。
ただ青い宇宙のような存在と思えたものの中に、巨大な赤い二つの瞳が開いた。
《なんだ、これは?》
その疑問を抱いたのは混沌の星獣カオスギャラクシアンの意思。その巨大すぎる意識の波はただそれだけで目の前の宇宙を震わせていく。
青い獣は何かを感じ取っていた。ただ滅ぼすだけでいいはずの広大な宇宙に、わずか一滴投げかけられたごく小さな一つの光を。
それは広大な海に落とされたわずか一粒の水滴のようなもの。だが、何か気になる存在だった。
カオスギャラクシアンの瞳が目の前の宇宙を眺め渡す。だが、それだけで何か変わった物が見つかるわけでもない。宇宙はただ平凡だ。
星獣は次にテレパシーを試みた。広大な宇宙の先で自分の意思を受け取れる存在へ向かって。
星獣の意思はあまりに異質で強大だ。宇宙のほとんどの者はそのテレパシーに気づくことはない。気づいたところで解読し交信するすべを持たない。
それほどに特殊な星獣のテレパシーに、
《キサエルよ、答えよ》
『はい、何か御用ですか? カオスギャラクシアン様』
キサエルと呼ばれた少女はただ普通に話しかけられたから答えたとばかりの気安さでもって応じた。
そこは遠く離れた宇宙のどこか。
金色の豊かな髪、ピンク色のドレスを着た優しげで気品を持った少女が、屋敷の部屋で椅子に腰掛けたまま宇宙の果てのカオスと交信した。
混沌の星獣はただ自らが気になったことだけを訊く。
《この感覚はなんだ?》
『愛ではないでしょうか』
《愛とはなんだ?》
『・・・・・・』
その問にキサエルは読んでいた恋愛小説を置き、少し考え込んだ。
先ほど適当に言ってしまった愛について考えたのではない。それより別の、星獣がその疑問を持つに至った思考について考えたのだ。
少し経ってからキサエルは答えた。
『何か気になることがあるんですか?』
星獣はしばし黙りこむ。そして言った。
《そうだ。余はこの宇宙のことが気になっている。あれはそう・・・・・・何か引き付けるものを感じる光だった》
『光ですか・・・・・・』
星獣は少女と交信をしながらその感触を思い起こそうとした。
今まではただ生まれた時からの使命に従ってこの宇宙を侵食し続けてきた。だが、カオスギャラクシアンはこの宇宙に一つの言い知れぬ興味を持ってしまった。
だが、興味を持ったところでそれをどうすればいいのか。教えてくれるものは今はただの一人しかいなかった。
『気になることがあるなら調べればいいと思います』
《調べる? それで何かが分かるのか?》
『分かるかもしれませんし、分からないかもしれません。宇宙はわたしの手には広すぎますから』
《ならば余の配下の軍団レギオンをそちらへ送ろう。お前の手足として好きに使うがいい。この調査はキサエル、お前に任せる》
『了解しました。その・・・・・・カオスギャラクシアン様を引き付ける何かの光・・・・・・を探してくればいいんですね?』
《そうだ。この宇宙にあって、余に疑問を抱かせるその何かの光を調べてくるのだ。余はここで待っているぞ》
『ご期待にそえるよう頑張ります』
そして、カオスギャラクシアンは交信を終え、その侵攻を一時的に止めることにした。
それはみか達の星から遠く離れた・・・・・・だが、同じ宇宙の出来事だった。