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みかの覚醒

 みかは暗闇の中を飛んでいく。そこは生と死の狭間の境界。わずかに感じる光の一点を目指して賢明に意識を振り絞って進んでいく。

 背後では亡霊達が追ってきている。地獄へ引き釣り込もうと集団になって手を伸ばしてくる。

 意識がかすんでくる。この空間その物がみかの意識を蝕んでいくのだ。死の世界へと向かって落とそうと働きかけてくる。

「もう駄目」

 みかの体からがっくりと力が抜けた。もう限界だった。やはり大師ではない一介の魔道士にすぎない自分の実力では死の世界から抜け出すことなど無理だったのだ。

 意識が暗闇に沈もうとする。そんなみかの手を掴んでくれる手があった。

「え・・・・・・?」

 おぼろげに目を上げる。その視界の先に、その手の先に、光る人物の姿があった。

「お兄ちゃん?」

 なんとなしに呼びかける。光の人は微笑んだようだった。柔らかい暖かい声がみかの意識に伝わってくる。

「行って。ここはまだ君の来るところじゃない」

「わたしのこと、許してくれるの?」

 彼は自分のせいで死んでしまったのだ。あの時、事故のあった日に魔術が使えれば助けられたのに。

 自分が、出来ないことをやろうとしたばっかりに。あの雪の日に、視界は赤く染まったのだ。そうしてもう一人の自分が生まれ、今の自分がいる。

「どっちも本当の君だよ」

「え・・・・・・?」

 みかが苦悩していると光の人はそれを読み取ったかのように優しく言ってくれた。

「今の君も、暗闇に沈んだ君も、どっちも本当の君なんだよ。大師はそれを利用しただけなんだ」

「でも・・・・・・」

 それで自分の罪が晴れるわけではない。みかが考えこんでいると彼が声をかけてきてくれた。

「いつも明るい君のことが好きだから。どうかくじけないで。君には素晴らしい友達がいる。そして希望の未来がある。僕もそれを見たい」

「みかちゃん」

「みかちゃん」

「みかちゃん」

 みんなの声が届いてくる。気が付けば光の世界はすぐそこにあった。彼の背後にその入り口が開いていた。

「さあ、行って。君にはまだやらなきゃいけないことがあるんだろう」

 彼が手を引っ張ってくれる。みかにはまだ知りたいこともあった。

「お兄ちゃんは?」

「僕には僕の、君には君のやるべきことがあるんだ。だけど、いつかきっと出会える。この世に星空が輝いている限り。人が優しさを失わない限り。きっと」

「ありがとう、お兄ちゃん。わたし、行ってくるね」

 みかは最後の別れを惜しみながらも手を離すと、光の中心へと向かって飛んでいったのだった。


 みんなの祈りでみかは戻ってきた。目を開けるとそこはUFOの中だった。心配そうに自分を見つめるみんなの顔が見えた。

「みかちゃん!」

「良かった」

 けいことゆうなが抱きついてくる。みかの母は目じりに涙を浮かべながら微笑んでいる。

「お帰りなさい、みかちゃん。無事で良かったわ」

「ありがとう、みんな。みんなの声、聞こえたよ」

 みかは柔らかく微笑んだ。みんなはそれぞれに再会を喜んだ。

 その優しさを吹き飛ばすかのようにジョーが運転席から切迫した声を飛ばしてくる。

「早速だけど、みか! ぼやぼやしている場合じゃないぜ! うおっ!」

 それと合わせたかのようにUFOが突然に大きく揺れた。みんなはそれぞれに危うくバランスをとる。ジョーは悔しげに舌打ちをした。

「くそっ、つかまっちまったか!」

「あいつは・・・・・・!」

 みかはまだ戻ってきたばかりで意識が本調子ではなかった。どこかぼんやりとした目つきでスクリーンに映る機械の化け物の姿を見上げる。

 撃ち落とされた宇宙警察のUFO隊のなごりとも言える煙がうっすらと立ち込めている中にそいつはいた。

 妨害する宇宙警察を蹴散らし、ついに間近までたどり着いた機械大師の腕がジョーのUFOを掴んでいた。

 頭部の赤いレンズの瞳が不気味に動き、こちらを覗き込んでくる。スクリーン越しにこちらの姿が見えるとは思えないが、大師なら透視できてもおかしくはないかもしれない。

 面白い玩具でも見つけたかのように機械の化け物は軽い調子で言ってきた。

『あれえ? みかちゃん復活したんだ? せっかく死んでいたのにこりない子だね』

「すまない、ジョー。大師を止められなかった」

 通信映像を通して血まみれになった署長がジョーにわびを入れる。その表情がみかを見て優しげに微笑まれた。

「そうか、助かったのか。よかった」

 署長の体が屑折れる。彼のUFOが海に落ちていく。そして、宇宙警察のUFO隊は機械大師の前に敗北を喫したのだった。

「いや、敗北なんかじゃねえ」

 ジョーは気持ちを改めるとともに操縦桿を強く握りなおした。

「署長は立派にやってくれました。後は俺たちヒーローの出番だぜ!」

「みんな、希望をつないでくれたんだね」

「みかちゃん、今こそみんなで力を合わせて大師を倒す時よ!」

 ジョーに続いてけいことみかの母も乗り気だ。いよいよ決戦の時だ。長きに渡って自分達を苦しめてきたシャリュウ大師と決着を付けるのだ。

 だが、みかはどこかうかない顔だった。けいこは心配になって訊ねた。

「みかちゃん、まだ具合が悪いの?」

「ううん、そうじゃないけど」

 眉を潜ませ、みかは軽く首を振る。そして、スクリーンの向こうに映る巨大な機械の化け物を指して言った。

「あいつ何?」

「え?」

 みかの言葉に周囲のみんなは一瞬呆気に取られてしまった。

 ゆうなだけが内面はどうあれいつもの冷静な態度でじっと状況を見つめている。

 いち早く状況を呑み込んだけいこが事情を説明した。

「そうか、みかちゃんは知らないんだ。あいつがシャリュウ大師なのよ」

 生まれた時からの親友にそう教えてやる。だが、みかは難しい顔をして考え込むだけだった。その表情はどこか不安を噛み締めているようでもあった。ややあって言う。

「違う、大師はあんな奴じゃない。大師はもっと強くて恐ろしい奴なんだよ」

「やっぱり」

 みかの言葉にゆうなが相槌を入れる。けいこは思わず目を丸くして口をあんぐりと開けてしまった。そこから息を吐き出すように今度はゆうなの方に向かって言った。

「やっぱりって、何か知ってるなら言ってよ」

 言われてゆうなはいつものそ知らぬ風できっぱりと答えた。

「自信無かったから」

「はあ・・・・・・」

 この人達は・・・・・・思わずそう呟かずにはいられないけいこだった。

「そう言えば聞いたことがあるわ」

 今度はみかの母が言ってきた。

「何を?」

 けいこはまたもや聞き役に回る。悔しいが魔道士のことは自分には分からないことだった。それはジョーも同じだろう。同意を求めるようにちらっとそちらへ目を向ける。

 みかの母は言葉を続けた。

「大師は可愛らしい女の子の姿をしてるって。ずっと遠い昔にご先祖様が会ったことがあるらしいわ」

 けいこはため息をついた。

「骸骨とか機械の化け物だったじゃない」

 けいこの言葉にみかの母は言い訳がましく手を振った。

「だってあれから随分時代が経ってるんだもの。大師が永遠の時を生きる存在だと言われていたってその間に何に変わってたって不思議じゃないじゃない。そうでしょ?」

「おいおい。あいつはじゃあなんなんだ」

 今度はジョーが訊ねる。その言葉に答えたのはみかでも誰でもないここにはいない別の人物の声だった。

《機身アルティメットジャッカル。わたくしが宇宙で手に入れた素晴らしい機械の力ですわ》

「!!」

 突如聞こえたやけに透明感を感じさせる少女の声。その涼やかな声音にみんながスクリーンの向こうの外の景色を振りあおぐ。

 いつの間にか機械大師の上に立つ人影があった。銀色の髪をなびかせて星空の下で青い衣の少女が儚げとも思える存在感を漂わせて立っている。妙に哀愁をたたえた赤い眼差しで見つめている。

 みかは緊張に息を呑んで言った。

「シャリュウ大師!!」

 名を呼ばれ、その少女は軽く微笑んだようだった。

《みかさん、復活おめでとう。この世界で会うことが出来て、わたくしとても嬉しいですわ》

「こっちは嬉しくない!」

「あいつがシャリュウ大師なの?」

「骸骨の方が強そうだったんじゃないのか?」

「冗談じゃないわ。あいつの魔力とんでもない!!」

《フフ、みかさん。それにそのお友達のみなさん。あなた達にこのアルティメットジャッカルの真の力を見せてさしあげましょう》

 少女の姿が幻のようにかき消える。みかは決意をみなぎらせて飛び出そうとした。これで何度目になるか、けいこは慌てて呼び止めた。

「みかちゃん!」

「大丈夫、わたしちょっと行ってくるね」

 いつかと同じような台詞を残してみかは外へと飛び出していった。

「本当に大丈夫なの?」

 不安に見送りながらもどうすることも出来ないけいこだった。

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