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究極の兵器

 大師の姿が黒い雲となって散っていく。

「シャリュウの姿が消えていく。あいつがやったのか」

「みか・・・・・・」

 大師の術から解放され、みかの体が落ちてきた。ジョーは今度こそその体をアームで受け止め、UFOの中へと引き入れた。みかの母もすぐに飛んでやってくる。

 みかの体は部屋の床の上に静かに横たえられた。

「みかちゃん!」

 みかは眠っている。だが、今度はかすかに息をしているのを感じた。

「魔道士達の魔法の力がかろうじてみかちゃんをこの世に引き戻したのね」

「あとはわたし達が」

「うん」

「祈ろう」

 みんなはそれぞれにみかの手をとって深く静かに祈るのだった。


「これで全ては終わったのか」

 署長はこみあげる万感の思いとともに静かに帽子を脱いだ。

 大師の消滅とともに猛威を振るっていたセラベイクとデアモートも姿を消し、夜空に束の間の平和が戻ってきた。

「我々は結局何も出来なかったか」

「いいえ、あの子達を助けられたんです。それで良かったではないですか」

 署長の力無い言葉に部下の一人が元気付けるように言ってくる。署長はゆっくりと周囲を眺めやり、思いを噛み締めながらうなづいた。

「そうだな。みんなよくやってくれた。ミッション完了だ。それぞれに疲れをとってくれ」

 場に和みの空気がやってくる。みんなはそれぞれに喜びを分かち合っている。色々あったが戦いは終わったのだ。

 確かに今回の働きぶりは宇宙警察として決して満点と言えるものではないだろう。だが、世界の平和は守られた。この働きぶりを誰に恥じることがあろう。

「あとはあの娘が帰ってきてくれればな」

 署長は優しい目をしてジョーのUFOに乗っているであろう少女のことに思いを起こした。

 みかのことはすでに事情を聞いていた。だが、署長は事態をそれほど危険視してはいなかった。

 あのダイダルウエイブを命がけで封じたみか。そして、彼女を支える素晴らしい友達。こんなにも好ましい状況があってその祈りに答えて帰ってこないなどとどうして思えよう。

 彼女とその仲間ならきっとどんな困難があったとしても乗り越えられるはずだ。

「願わくばこの世界に永遠の祝福と平和を」

 署長はそっと祈るとともに呟いた。その時だった。

『お前達の安らぐ場所は、死の世界だけだ!』

 不気味な声が辺りを震撼させたのは。場の平穏な空気が一瞬にして緊張に覆われる。

 一瞬の硬直時間の後に空から一本のレーザーが降ってきた。署長のUFOのすぐ隣のUFOを貫通し、爆発させる。署長は慌てて居住まいを正し、夜空を見上げた。

「なに!?」

「署長! 大師の消えた雲の中から何か化け物が、化け物があ!」

 部下の声は悲鳴じみている。それは署長も同じ思いだった。

 空を覆っていた黒い雲が晴れていく。その暗がりの隙間から何かの不気味な異影が現れてきた。

 暗い夜空に散っていく黒い雲をまとわせて、浮かんでいる丸い巨大な金属質の物体。その塊から六本の腕が伸びてくる。

 巨大なアームをきしませて、ある一定の距離を伸ばしてから化け物は威嚇でもするかのようにその六本の腕を一気に周囲へと解放し、広げきった。

 体中で赤いレンズの瞳が光る。獣にも似た頭部がゆっくりと持ち上がっていく。

 背部では二本の巨大な角が生えていく。帆でも降ろすかのようにそこから薄く輝く網目模様の電気の翼が広がっていく。

 化け物と呼ぶにはあまりにも化け物じみたその姿。蜘蛛とも獣ともつかない巨大な機械の存在。あれはもう一種の空中要塞とも弩級戦艦とも呼べる物かもしれない。

「あれが永遠を生きるシャリュウ大師の正体だと言うのか」

 署長はただ声を震わせて呆然と見上げていることしか出来なかった。

 天から声が響いてくる。不気味な肉食獣が喉を鳴らすかのように震わせながら、骸骨の時よりも幼さを感じさせる声が語る。

『そうとも。これが僕のアリのママのショータイという奴さ。実は僕はもう魔法の力には行き詰まりを感じていたんだね。そこで新しく手にしたのがこの機械の力なのさ。さあ、見せてやるよ』

 六本の腕がそれぞれに宇宙警察のUFOを狙おうと動きを開始する。それとともに周囲の小型砲塔も狙いを定めてくるくると全方位へと回されていく。

「いかん! 散れ!」

 危険を察知した署長の号令とともに周囲に分散するUFO達。大師は気にもしていないようだった。

『おお、逃げろ逃げろ。そして僕を楽しませる獲物となるんだよ。さあ、見るがいい。この素晴らしき科学の力を! まずは第一の砲、究極の炎メギドフレイムをお見舞いだ!』

 巨大な腕の一本から燃えさかる炎の柱がほとばしる。夜空を駆けて照らし出す赤い炎の柱は飛んでいるUFOの一隊を瞬く間に包み込んでしまった。

「うわあ! 熱い! 熱い!」

 乗員の悲鳴とともに燃え落ちていくUFOの群れ。そうしている間にも大師の別の腕がすでに別のUFOの一隊を捉えている。

『お次はこいつだ。究極の氷結フリージングコフィン!』

 今度は青く澄んだ氷結の輝きが放たれる。雪と氷の入り混じった青く凍てつく波動が別のUFOの一隊を包み込み、一気に凍りつかせて墜落させていった。

 大師の攻撃は続く。さらに別の腕が別のUFOの一隊に向けられる。

『究極の雷ライトニングサンダーウエーブ!』

「うわあああ!」

 それぞれの腕からそれぞれの武器が飛び出し、宇宙警察のUFOが落とされていく。大師は続けてなおもひとしきり撃ち終わってから満足したように腕を下ろしていった。

『どうした、弱いじゃないか。つまらないなあ。やっぱりみかちゃんと遊ばないと駄目だね』

「なんだと!?」

 署長が顔を引きつらせる。大師は海を泳ぐタコのように足をくねらせ空中を漂い、みかの乗るUFOに近寄ろうとする。

「やらせるな!」

 署長の号令とともにUFOが一斉に大師に向かって攻撃していく。だが、大師の機械の体はどのような攻撃を食らわせてもびくともしない。

「文明レベルが違うとでも言うのか!」

『フッフッフッフ、アッハッハッハ』

 大師が立ち止まり、機械の腕をぐるぐる回しながら武器を乱射していく。次々と一方的に落ちていく宇宙警察のUFO達。

『あっけないなあ。もっと頑張らないと駄目だよ』

 大師はあざけり笑っている。署長は頭を抱える思いだった。

「くそっ! なんということだ!」

 宇宙に伝説としてまで語り伝えられている魔道士の力を決して甘く見ていたわけではない。だが、これほどまでとは。その力はまるで想像というものを超えている。

 このままでは部下を無駄に死なせてしまう。みんな正義感に熱い奴らばかりだ。この状況を見ても自分から逃げようとはしないだろう。

 決断しなければ。例えこの星を見捨てることになったとしても。

 署長は頭を押さえながらマイクを手に取った。部下に撤退を呼びかけるために。

 大師は激しく回転を始め、宇宙警察のUFOを狙って一斉射撃を仕掛けていく。もう全ては無駄だったのだ。

「みんな・・・・・・聞いてくれ・・・・・・」

 署長は苦しげに声を絞り出した。そうしている間にも大師の攻撃によって貴重な命が失われていく。

 大師の声が笑う。

『死んでも悲しむことはないよ。僕の死霊術で蘇らせてこき使ってやるからね。ただし、僕が飽きるまでだけどね。今のうちに出来るとこ見せて僕の気を引きなよ』

「シャリュウ!」

『ん?』

 その人を小馬鹿にしたような態度に署長はきれてしまった。

「みんな、絶対にこいつを倒すぞ! 宇宙の平和を守るために、正義の力を見せてやろうぞ!!」

 署長の号令にみんなが顔を上げる。みんな強い意思に瞳をみなぎらせている。みんな想いは同じなのた。

 撤退など冗談ではない。こいつとは何が何でも決着をつける!

 宇宙警察のUFOは一斉に空に巨大な姿を見せつける機械大師へと向かっていった。

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