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魔道士の伝説

 先生の面白い話につきあっているうちにすっかり予定より遅くなってしまった。

 家に帰ったみかは昼食を急いで食べ終わると、自分の部屋にロケットのように飛び込んだ。

 これからいよいよ旧校舎に乗り込んで、もしかしたら宇宙人さんに会えるかもしれないのだ。

 みかは持っていく物を大きめの鞄に突っ込んでいく。あれも持っていこう、これも持って行こう。あの思い出の望遠鏡も・・・・・・持っていこう。

 あの雪の日、宇宙の楽しさを教えてくれたお兄ちゃんのために、それを持っていくのは当然のなりゆきと思えた。

 いろいろ詰め込んだ鞄は重かったけど、宇宙人さんに会えるんだもん。これぐらいはいるよね。

 約束の時間が近づき、大きくふくらんだ鞄を背負ってみかは階段を降りていく。お父さんもお母さんも仕事に行っているので今は家に誰もいない。

 みかは鍵をかけて戸締まりをすると、庭の池で泳いでいるコイさんに行ってきますを言って、学校へと走っていった。


 青い空、日本上空を飛んでいるUFOがいる。昼を過ぎて傾いてきた太陽の光に銀色の輝きを跳ね返しているその乗り物は特殊なバリアで覆われ、この星の人間からは捕らえることが出来ない。

 指揮官達を追いかけてやってきた宇宙警察のお兄さんは今そのUFOの中でコンピューターを操作して追ってきた彼らの行方を捜していた。

 彼の目の前のスクリーンには地上の様子が映し出されている。横たわっている山々、広い海、賑やかな街。

 ボタンを操作するたびに画面は次々と切り替わっていく。

「あいつらどこへ行ったんだ」

 範囲はだいぶ絞れたがまだ見つからない。なかなかにしぶとい奴らだ。いっそ爆撃でもしてあぶりだせたらどれだけすっきりすることだろう。

 そんなことをしたら上司からのおとがめが来るだろうけれど。銀河の条例では他の星への無差別の破壊行為は固く禁止されているのだ。

<まったく面倒だな>

 彼は舌打ちをしながらもめんどくさい捜査を続行した。

『ジョー、奴らは見つかったか?』

 そうしてしばらくの時が経った頃、不意にしかめつらしい威厳のある男の顔がスクリーンに現れて言った。彼は銀河警察の署長であり、ジョーと呼ばれた彼の所属する組織の最高点に位置するとても偉い人だ。

 ジョーは姿勢を正そうとしながらもだらけた気分を抑えきれずに顔をあげた。

「いえ、まだです。この星のどこかにいることは確かなのですが」

 自分が無能だと思われたくは無いが、嘘を報告するわけにもいかない。ジョーは正直に答えた。

 署長は難しい顔をしてあごをさするしぐさをする。

「そうか、その星までは追い込んだか。引き続き捜査を続行してくれ」

「署長、あいつらはいったい何をしたんです?」

 手早く去ろうとする署長に、ジョーは前々から気になっていたことを訊いてみた。数ある任務のうちで今回の任務はかなり重要度の高いランクに位置づけられている。

 だが、今まで奴らと撃ち合ってきた感じからすれば、それほど重要視するような危険な奴らとは思えなかった。

 署長はしばらく渋るように考えてから答えた。

「やはり言っておいた方が良いか。ジョーよ、このことはくれぐれも他言はするなよ」

「はい」

「魔道神器のことは知っているな?」

「魔道神器、あのおとぎ話の?」

 そのことはジョーも知っていた。どこにでもあるおとぎ話の一つだ。

 それにはこう語られている。

 かつてこの宇宙は絶大な魔力を持った魔道士と呼ばれる存在によって支配されていた。

 彼らは途方も無い幾多の魔術を使いこなし、また様々な道具も作り出した。その道具は魔道神器と呼ばれ、今も宇宙のあちこちで眠っていると言われている。

 銀河の中央政府が管理する銀河博物館にもそれはいくつか展示されているが、ジョーはただの古い道具としか思わなかった。

<あのゴミがなんだと言うんだ>

 署長は言う。

「おとぎ話ではない。魔道士は実在したのだ。そして、伝説の魔道神器もな。奴らはその魔道神器を盗み出したのだ。それ自体不可思議な力を持つ魔道神器は魔道士でなければその能力は引き出せないと言われているが安心は出来ん。奴らが何のつもりかは知らんが、あの道具は中央政府が管理せねばならんのだ。その星に魔道士がいるという可能性もあるしな」

「そんなまさか」

 いるわけがないとジョーは思う。伝説は伝説だ。すでに大昔に過ぎ去った過去であるはずの出来事だ。

「銀河の波長が不穏な動きを示しているのだ。わしもまさかとは思うがなんとしてでも取り返してくれ。星に降りたのなら包囲も絞れる。応援をすぐにむかわせよう」

 通信は切れた。元通りの風景の並ぶスクリーンの前でジョーは考える。

 もしみんなが来る前に自分が魔道士とあいつらをやっつけて魔道神器を取り戻せば、俺は一躍ヒーローになれる!

 テレビにも大々的に取り上げられ、マスコミもこぞって押し寄せるだろう。昇進だって間違い無しだ。

「ひゃっほう!」

 彼は飛び上がって喜び手を打った。

 


 旧校舎地下の秘密基地の一角。静かで落ち着いた部屋がある。

 指揮官はのんびりと椅子に座ってくつろいでいた。彼の手には古ぼけた奇妙な装飾が施された棒が握られている。

 指揮官はこれの手触りが気に入っていた。それにこの年代を感じさせる光沢、質感、形状もたまらないではないか。

 一目見て惹かれ、彼は銀河の博物館に忍び込んだついでにこれをもらってきた。他にもいろいろ失敬してきたが一番気に入っているのはこの棒だ。

 彼が幸せな物思いにふけっていると、目の前のスクリーンが付いて部下の顔が現れた。

「指揮官様、また変な子供が来ていますがどういたしましょう」

 スクリーンに旧校舎前の風景が映し出される。枯れた草むらの荒野の中で一人の少女がじっと立って静かな視線で旧校舎を見上げていた。動かない彼女の体の中で長い黒髪だけが風に揺れている。その無表情からは少女が何を考えているのかはまるで分からない。

 ただぼーっと建物を見上げているだけかもしれない。だが、隠しカメラと見事に視線が交わっている。

 指揮官は不機嫌に言う。

「ばれていると言うのか」

「それは分かりませんが」

 部下の言葉は頼りない。指揮官は考えてから言った。

「お前はジェミーちゃんの修理に専念しろ。このことは校長、お前にまかせる。行け」

「はっ、二度とここに近寄る気など起こさぬよう厳しくしつけて参りましょう」

 校長先生はにやりと不敵な笑みを浮かべると外へ向かって歩いて行った。

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