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けいこの推理

「みかちゃーーーん! 会いたかったよーーー! 寂しかったよーーーー!」

 教室へ戻ってきて席に座ろうとしたみかに、いきなりけいこが抱きついてきた。

「災難だったね、けいこちゃん。校長先生怖かったよね」

 みかは校長先生に怒られて気を落としているであろうけいこをなぐさめてやった。みかと一緒に教室に入ってきたゆうなは、そんな彼女達にそっと一瞥をくれただけで、黙って自分の席に座った。

 けいこは目をうるうるさせて不満たっぷりに口をとがらせた。

「校長先生のことは別に良いの! そんなことよりも、みかちゃん! わたしのこと無視してゆうなちゃんとばかり楽しそうにお話ししてたでしょ! ずるいよー!」

「ずるいって・・・そうなの?」

 みかは驚いてゆうなとけいこを見比べた。ゆうなはそしらぬふうに黙って自分の席で、次の授業のノートを机から引っ張り出している。

「もう、みかちゃんなんて知らないもん! 今度はわたしがゆうなちゃんとおしゃべりするもん!」

 けいこは前の座席に座っているゆうなの腕を掴むと、ずるずると自分の席へと引きずって連れていってしまった。

「けいこちゃん、どうしたんだろう」

 みかはあっけに取られてそんな彼女達を見送っていた。


 キーンコーンカーンコーン!

 授業終了のチャイムが鳴り響く。今日の授業が終わった。

 学校が始まったばかりの今ではまだ授業は午前中だけだが、それでもみかは力つきた兵士のようにバタっと自分の机を枕にして倒れ伏してしまった。

「学校の授業って、疲れるうー」

 両手をだらりと伸ばし、うめき声混じりのため息を上げ、ぐったりとのびふせる。口から魂でも出ていきそうな気分だった。

「大丈夫?」

 そんなみかの頭の向こうから前の席に座るゆうなが振り向いて、あまり心配しているとも思えないような声で話しかけて来た。みかはチラリと顔をあげる。

「うーん、大丈夫じゃないけど。がんばらないとね。ハハ」

 力無く笑う。不意に何者かの腕が首に巻き付いてきて思わず目を見張った。

「みかちゃーーーん! 一緒に帰ろーーーー!」

 けいこだった。産まれた時からのみかの親友はそのまま背後からみかの首をぐいぐいと締め上げて来た。結構な力だ。

「け、けいこちゃん。苦しい。ギブギブ」

 みかは目を回しながらパタパタと自分の首に巻きついている親友の手を叩いた。慌てふためくみかの様子にけいこは急いで手を離した。

「ご、ごめん。みかちゃん。ちょっときつくしめすぎちゃったかな」

 みかはゲホゲホと咳き込んだ。けいこは申し訳なさそうにみかの背中をさすってやった。ゆうなは黙って二人の様子を眺めている。その無表情からは彼女が何を考えているのか、けいこには分からなかった。

 みかが落ち着いたのをみて、けいこは隣の席から椅子を引っ張ってくると、そのままみかの机の横に陣取って座った。

 みかは不思議に思って声をかけた。

「けいこちゃん、帰るんじゃないの?」

 そう、もう授業は終わったんだから帰る時間のはず。けいこはみかの疑問にすぐに答えた。

「そうだけど、その前に相談しようと思って。今朝、校長先生が言ってたよね。旧校舎には近づくなって」

「うん、言ってた」

「それでわたし思ったの。校長先生は旧校舎に何かを隠しているんだって」

「何かって?」

 みかはごくりとつばを飲み込んだ。

 旧校舎に何かが隠されている……それはみかも思ったことだ。

 すぐにも発言したいとも思ったが、みかはじっと彼女の次の言葉を待つことにした。けいこが何を思っているのかとても気になったからだ。

 けいこはもったいぶるように少しの間を置いてから答えた。

「多分……宇宙人さん」

「宇宙人さん!!」

 みかは思わずバタリと席を蹴って立ちあがった。ゆうなとけいこの視線の他に、教室にいる何人かの生徒の視線が集まってくる。

<まさか旧校舎に宇宙人さんがいるなんて!!>

 みかも薄々は思っていたことだが、けいこの今の言葉でそれは確信へと変わった。みかの目線の下からけいこが声をかけてくる。

「落ち着いてみかちゃん! まだそうと決まったわけじゃないよ!」

「あ、う、うん、そうだね。うん、そうそう」

 まだ確信と決めるには早かったようだ。

 早とちりを恥ずかしく思いながらもけいこにそでを引っ張られ、みかはなんとか気を落ち着けるよう意識して席に戻った。そんな気のはやるみかの様子を見て、けいこは今度は注意深く言葉を選ぶようにしながら話を続けた。

「それでね、校長先生はこうも言ってたよね。静かにしろとか黙っていろとか」

「静かに勉学に打ち込むのが学生の本分、だっけ」

 みかはその時の校長先生の言葉を頭に思い浮かべようとしながら言った。ゆうなは黙って聞き耳を立てている。けいこは答える。

「それもそうだけど。校長先生が強調していたのは静かにしろの方だと思うの」

「静かに・・・・・・する」

 みかは静かに両手で口を抑え、そして早く先が聞きたくて、思わずいびつな姿勢で興味津々と身を乗り出した。けいこは驚いたように目をぱちくりさせてみかの姿を見つめた。

 助けを求めるようにゆうなの方に視線を移すと彼女は黙って冷静な視線を維持させているだけだった。ちらっとこちらを見てすぐにみかに視線を戻す。

 無表情に見えながらも自分達のことを面白がっているようにも見えるとけいこは思ったが、これ以上面倒を見ることになるのも嫌なので落ち着いてみかのフォローに回ることにした。

「みかちゃん、とにかく落ち着いて。ちゃんと席に座って」

 けいこは手振りを交えながら説得して、なんとか変な姿勢で身を乗り出していたみかを席に戻すことに成功した。自分も落ち着いて深呼吸をしてから話を続ける。

「そ、それでね、わたしが思うに校長先生は旧校舎に宇宙人さんをかくまっていて、宇宙人さんはうるさいのが嫌いで、それで、宇宙人さんは校長先生に頼んでみんなを静かにさせようと訴えたんだと思うの」

 度重なるみかの失態をこれ以上重ねさせたくないと思い、けいこは早く話をまとめようと一気にまくしたてた。

 みかは黙って腕組みをしながら軽く頭をひねった。彼女なりの軽い頭で考えをまとめようとしているようだ。

「うーん、よくわかんないけど。とにかく宇宙人さんは旧校舎にいるんだね! じゃあ、さっそくみんなで行こう!」

 勢いよく椅子を蹴って立ち上がる。けいこは再び慌てて彼女を呼び止めた。これで何回目になるのだろう。力強く説得をする。

「待って、みかちゃん! 宇宙人さんはうるさいのが嫌いだって言ったでしょう。だから、きっと宇宙人さんはさわがしい昼の間は出てこないわ!」

「あ、そっか。じゃあ、夕方、みんなで旧校舎の前に集合ね!」

「うん! もうそれでいいや」

 なんとか話がまとまったことで、けいこはほっとした。

 みかとは古くからの付き合いだが、宇宙人がすぐそこにいるとみて、みかの興奮ぶりはいつも以上だった。

「ゆうなちゃんもそれでいいよね!」

 終始だんまりだったゆうなにも伺いを立てると彼女は黙ってうなずいた。話は終わった。

 しかし、せっかくうまくいったのもつかの間、災厄は向こうからやってくるものだ。

「三人揃っていたずらの相談か?」

 不意に三人の間に、男の声が割って入った。みか達がその方向へ視線をあげると、担任の浅見先生が面白そうに笑っていた。

「兵藤、お前、視線が痛いぞ。ほーらよしよし」

 浅見先生はじっと黙って座っているゆうなの頭をいいこいいことなで始めた。みかはずるいと思った。

「ゆうなちゃんだけずるいよー。わたしも頭なでてー」

 みかがそう言うと、先生は面白そうに笑顔を向けた。

「そうか、平口もなでて欲しいか。よーし、お前もいいこいいこしてやるぞー」

 先生はみかの頭もなでてくれた。その手がとても気持ち良くて、みかは無邪気に笑った。

「篠崎もやって欲しいか?」

 先生の目がただ一人残ったけいこの方へ向かった。

「いえ、わたしはいいです」

 けいこは慌てて断った。とてもじゃないがもうそんな年じゃない。自分達はもう小学生なのだ。子供じゃないのだ。

「そうか。篠崎はいいのか」

 先生は残念そうに呟くと、頼まれてもいないのに、自分が子供だった頃、先生に褒められて嬉しかった話なんかをし始めた。

 その話はみかにとってはとても面白かった。ゆうなは相変わらず無表情でよく分からない顔をしてたけど、多分面白かったのだろう。

 そんな二人の様子をみて、けいこは自分の気持ちが揺れ動くのを感じた。

「あの・・・・・・やっぱりわたしも・・・・・・やって欲しいです!」

 けいこの絞り出すような決心に、先生はにこやかな笑顔で答えた。

「そうか、篠崎も来るか。今日はたっぷりとほめてやるぞ」

 罠にかけられたような気がしないではなかったが、褒められて悪い気はしなかった。

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