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どうやらこの世界は彼女の知る世界とは違うらしい  作者: カヲカヲ


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何が起きている

始まりの村、エーシン。


 朝の空気は澄んでいる。


 石畳を踏む音がやけに軽く聞こえた。


 唯はギルド前で足を止める。


 ――今回も、ここから始まるはずだった。


 凛は扉をくぐり、この村に現れる。


 戸惑いながらも前に進み、やがて死ぬ。


 そのたびに。


 自分は水晶を握り、世界を巻き戻した。


 何度も。


 何度も。


 最初は震える手で。


 やがて、迷いなく。


 そしていつからか。


「次がある」と思うことで、心を守るようになった。


 だが――


 今回は来ていない。


 唯は目を閉じる。


 【探索】を発動。


 意識が広がる。


 村全体が俯瞰で浮かび上がる。


 家屋の輪郭。


 森の入り口。


 畑の脈動。


 人々の生命反応が光点となって灯る。


 子ども。


 商人。


 冒険者。


 すべてが見える。


 だが。


 凛の反応がない。


 最初から、どこにも存在しないかのように。


 唯はゆっくりと呼吸を整える。


 死んでいれば分かる。


 消える瞬間を、何度も見てきた。


 だがこれは違う。


 “消えた”のではない。


 “入ってきていない”


 胸の奥にひやりとしたものが落ちる。


 今までと同じ失敗ではない。


 これは、流れそのものが変わっている。


「……遅れている?」


 そんなことは一度もなかった。


 唯は探索範囲を限界まで押し広げる。


 森の奥。


 街道の先。


 丘陵地帯。


 そのとき。


 端のほうに、奇妙な感覚。


 そこだけ、測れない。


 反応がないのではない。


 感知が“跳ね返される”。


 まるで透明な壁。


 触れようとすると、意識が歪む。


「……隔離空間?」


 あり得ない。


 今までそんな世界はなかった。


 凛は常に正規ルートを辿った。


 この村に来て、成長し、死んだ。


 それが“流れ”だった。


 なのに今回は。


 最初から違う。


 唯は目を開ける。


 胸の奥がざわつく。


 怖いのは凛の不在ではない。


 “やり直しの前提が崩れている”ことだ。


 右手に触れる。


 水晶は、まだ冷たい。


 やり直せる。


 それが分かっているから、今までは耐えられた。


 だが。


 もし。


 この違和感が、水晶すら想定していない変化だとしたら。


 唯は小さく首を振る。


 考えすぎだ。


 それでも、胸の奥の直感が告げる。


 ――今回は、待ってはいけない。


 今までは“やり直し”があった。


 だから凛の選択を尊重できた。


 だが今回は違う。


 動かなければ。


「……探す」


 自分から動く。


 ギルドで最低限の情報を集める。


 異常な転移反応は観測されていない。


 特別な魔力暴走もない。


 村は平穏そのもの。


 それが逆に、不気味だった。


 夕暮れ。


 門の前に立つ。


 振り返る。


 エーシンはいつも通りだ。


 何度も見てきた光景。


 何十回も。


 だが、同じではない。


「……今回は、変える」


 小さく呟く。


 門をくぐる。


 唯は村を出た。


 凛を探すために。


 今までとは違う未来へ踏み出すために。


 その頃。


 エーシンの中央広場に、光が落ちたことを――


 唯はまだ知らない。

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