力を求めて
宿の部屋は静かだった。
光の寝息が聞こえる。
唯もベッドに横になり、すでに眠っているようだった。
凛は窓の外を見ていた。
メガルテの街はまだ完全には落ち着いていない。遠くで兵士たちの声が聞こえる。
だが凛の頭の中にあるのは――
ゾルの姿だった。
(強すぎる……)
あの圧倒的な力。
今の自分では、まるで届かない。
その時。
凛の視界に、いつもの表示が浮かぶ。
【ランク2】
そして、その下に現れる文字。
【ランクアップダンジョン】
凛は目を細めた。
(これか……)
レベル20になった時に現れた表示。
自分にしか見えない、謎のシステム。
凛は一度、唯と光を見る。
二人とも眠っている。
(今なら……)
凛はゆっくり立ち上がった。
そして、心の中で思う。
(ランクアップダンジョン)
その瞬間――
視界が白く染まった。
次の瞬間。
凛は別の場所に立っていた。
地面は黒い石。
空もない。
上下の感覚すら曖昧な、奇妙な空間。
広い。
だが何もない。
ただ――
一つだけ。
目の前に巨大な扉があった。
黒い。
禍々しい紋様が刻まれている。
まるで邪悪な存在が封じられているかのような扉。
凛はゆっくり近づく。
(ここが……)
ランクアップダンジョン。
その時だった。
「来たか」
低い声が背後から響いた。
凛は振り向く。
「ロギ」
短剣から、ロギの気配が強く感じられる。
『ついにこの場所へ来たか』
凛は扉を見る。
「ここがランクアップダンジョンか」
『そうだ』
ロギの声は静かだった。
『ここから先は試練だ』
凛は少し考える。
「死ぬこともあるのか」
少し沈黙。
『ある』
はっきりと言う。
『覚悟はあるか』
凛は迷わなかった。
「あります」
ゾルの姿が頭に浮かぶ。
守りたいものもある。
ここで止まるわけにはいかない。
ロギは少しだけ間を置いて言った。
『ならいい』
そして続ける。
『安心しろ』
「?」
『外の世界の時間は止まっている』
凛は少し驚く。
『ここでどれだけ時間が経とうと、外では一瞬だ』
ロギが言う。
『あの二人のことは気にするな』
凛は小さく息を吐いた。
「……助かる」
唯と光を残して来たことが、少しだけ気になっていた。
ロギが言う。
『行け』
凛は扉を見る。
黒く巨大な扉。
ゆっくり手をかける。
「開けます」
重い音が響いた。
ギィィ……
扉がゆっくり開いていく。
その先に広がっていた光景を見て――
凛は目を見開いた。
「……ここは」
そこにあったのは――
見覚えのある場所。
石段。
鳥居。
そして古い社。
現実世界。
凛がいた場所。
出発地点の神社だった。




