心の声
その夜。
唯との話はそこで終わった。
これ以上は感情が持たない。
「……明日の朝、出発しましょう」
唯が静かに言う。
「村を出て、都市メガルテへ」
凛は頷く。
「わかりました」
光は既に眠っている。
小さな寝息。
凛は椅子に座ったまま、しばらく考え込む。
ループ。
ゾウス。
ロギ。
光の王。
情報が多すぎる。
整理が追いつかない。
(考えても、今は答えは出ない)
凛はベッドに横になる。
目を閉じる。
意識が沈む。
――闇。
足元が黒く染まっている。
どこまでも広がる、静かな空間。
「久しいな」
低く、落ち着いた声。
振り向く。
そこに、ロギが立っていた。
闇を纏いながらも、威圧はない。
ただ、存在している。
「……夢か」
「夢であり、そうでない」
淡々とした声音。
「短剣から話しかけることも出来るが」
凛の腰に下げられたそれが、闇を帯びる。
「他の者に気取られてはならぬのでな」
凛は警戒する。
「俺の意識に直接、ですか」
「その通りだ」
ロギはゆっくり歩く。
「光の者共に、あれこれ吹き込まれておるようだな」
凛は黙る。
否定しない。
「お主は私たちに闇に選ばれた」
静かに言い切る。
「光の者の言うことを信じるな」
視線が鋭くなる。
「信じれば、世界が壊れる」
凛の眉が寄る。
「アルテは逆のことを言っていた」
「当然だ」
ロギは微かに口角を上げる。
「立場が違う」
「どう違う」
闇がわずかに波打つ。
「光と闇は均衡を保ってこそ世界は安定する」
はっきりと言う。
「どちらかが消えれば、世界は崩壊する」
凛の思考が止まる。
「だが光の者は違う」
ロギの声が低くなる。
「闇を撃とうとしている」
闇を“消す”のではなく、“排除”する。
「それを阻止せねばならぬ」
「……闇の王も、同じ考えか?」
ロギは一瞬沈黙する。
「王は均衡を望んでおる」
だが、と続ける。
「光は闇を悪と決めつけ、根絶しようとする」
凛は混乱する。
ゾウスは闇の王に身体を消されたと言った。
ロギは均衡を守るためだと言う。
「どちらが正しい」
思わず漏れる。
ロギは首を横に振る。
「正しさなどない」
ただ。
「均衡を保てるかどうかだ」
凛を真っ直ぐ見る。
「お主は鍵だ」
「光の王になれば、闇は滅ぶ」
静かな宣告。
「だが闇を受け入れれば、均衡は守られる」
凛の胸が重くなる。
「俺に選べっていうのか」
「いずれな」
ロギは背を向ける。
「今は惑わされるな」
最後に振り返る。
「光だけを信じるな」
闇が深まる。
視界が溶ける。
「時が来れば、また話そう」
意識が浮上する。
凛ははっと目を開けた。
夜明け前。
静かな部屋。
光は眠っている。
短剣は、何事もなかったかのように沈黙している。
(光と闇……均衡……)
アルテの言葉。
ロギの言葉。
真逆だ。
「……どうなってるんだ」
呟きが、朝の薄明かりに溶ける。
外では、鳥の声が響き始めていた。
都市メガルテへ向かう朝が、近づいている。




