闇の使者ロギ
「特に、闇の使者ロギは別格に強い」
唯のその一言。
空気が一瞬、止まったように感じた。
凛の鼓動が、わずかに速くなる。
「……ロギ」
自然を装って繰り返す。
だが、腰の短剣が微かに震えた。
じわり、と熱を帯びる。
(反応してる……?)
凛はさりげなく柄に触れる。
震えは一瞬で収まる。
唯は続ける。
「何度挑んでも勝てなかった。あれは、今の私たちじゃ相手にならない」
凛の脳裏に、あの声がよぎる。
――お主は私たちに選ばれた。
胸の奥が、ざわつく。
だが顔には出さない。
「……どれくらい強いんですか」
声は落ち着いている。
唯は苦しそうに答える。
「規格外よ。戦闘中に遊んでいるみたいだった」
凛の指がわずかに強く柄を握る。
(遊んでいる……?)
ロギの声。
余裕。
あの闇の気配。
もし本当に唯の言う通りなら。
あれは“敵”なのか。
凛は視線を伏せる。
心の奥に、微かな違和感。
(敵……なのか?)
あの時、胸を締め付けられた。
だが同時に、守られた感覚もあった。
矛盾。
理解できない感情。
「凛くん?」
唯が覗き込む。
「顔色、悪いわよ」
「……大丈夫です」
即答。
作り笑いではない。
ただ、整理しているだけ。
「そのロギってやつに会えば、何かわかるかもしれませんね」
淡々と言う。
唯は首を振る。
「会ったら死ぬわ」
断言。
その重み。
凛はゆっくり息を吐く。
「……じゃあ、今は会わない方がいいですね」
軽く言うが、内心は違う。
(会うことになる)
確信に近い予感。
短剣が、再びわずかに熱を持つ。
まるで名を呼ばれて応えたかのように。
光が不安そうに言う。
「お兄ちゃん……怖い?」
凛は一瞬だけ考える。
「……強い相手は、怖いな」
本音だ。
「でも、怖いからって逃げる理由にはならない」
唯はその横顔を見る。
どこか、覚悟が深い。
(前のループより……)
そこまで考えて、はっとする。
今は比較できない。
もうやり直せないのだから。
凛は窓の外を見つめる。
闇が広がっている。
(ロギ)
名前を心の中で繰り返す。
そのたびに、胸の奥が静かに波打つ。
敵なのか。
味方なのか。
それとも――
運命そのものか。
答えはまだ出ない。
だが一つだけ確かなこと。
この名は、これから何度も自分の前に現れる。
凛は静かに決意を固めた。
逃げない。
たとえ相手が“別格”でも。




