これは光なのか
女神像の前に降り注いだ黄金の閃光。
それは暴力的なまでに神々しかった。
風が巻き起こる。
床の石が震える。
凛は反射的に一歩前へ出た。
「唯さん、下がって」
「え……?」
言葉の途中で、唯は息を呑む。
そこに立っていたのは――光。
だが、いつもの光ではない。
身体の周囲に黄金の粒子が舞っている。
まるで太陽の欠片のような輝き。
その魔力は、重い。
圧力が空間を満たしている。
「なに……これ……」
唯の声が震える。
膝がわずかに揺れる。
強い。
強すぎる。
凛の背筋に冷たい汗が流れる。
(魔力の質が違う)
量ではない。
純度。
格。
明らかに“上位”。
光がゆっくりと目を開く。
その瞳は透き通り、感情の揺れがない。
「試練は、終わりました」
静かな声。
幼さが消えている。
凛は一瞬、言葉を失う。
「……光?」
呼びかけても、返る視線が遠い。
唯は無意識に一歩後ずさる。
「凛くん……これ、光ちゃん……よね?」
「……ああ」
だが確信が持てない。
女神像が共鳴する。
淡い光が像から溢れ、光へと吸い込まれる。
アルテが硬直している。
(この波動……)
だが声を出せない。
凛の腰の短剣が震えた。
闇が、警戒している。
凛は気づく。
(反応してる……?)
黄金の粒子がさらに濃くなる。
空間が軋む。
唯の胸が締めつけられる。
涙が滲むほどの圧。
「光ちゃん……戻ってきて……」
その瞬間。
黄金の光が不安定に揺らいだ。
粒子が乱れる。
ひび割れるように崩れ始める。
「……っ」
光の身体がぐらりと傾く。
「光!」
凛が駆け出す。
オーラが霧散する。
瞳から神秘の色が消える。
「……あ」
力なく崩れ落ちる。
凛が抱き止める。
軽い。
だが、さっきまでの存在感が嘘のように消えている。
「おい、光! 聞こえるか!」
反応はない。
深く、静かな呼吸だけ。
唯が駆け寄る。
「光ちゃん……っ!」
肩を揺らす。
目覚めない。
唯の声が震える。
「どうして……どうしてこんな……」
凛は歯を食いしばる。
恐怖ではない。
理解できないことへの警戒。
「あれは……なんだった」
アルテを見る。
アルテは数秒沈黙する。
やがて、いつもの調子に戻す。
「命に別状はないよ」
「力を使いすぎただけだ」
「使いすぎ……?」
凛の声は低い。
「レベルアップの範囲じゃない」
鋭い指摘。
アルテは目を逸らす。
「……強い適性がある。それだけだ」
それ以上は言わない。
言えない。
今は。
唯は光の手を強く握る。
「無理させちゃった……私が……」
「違う」
凛が即座に否定する。
「これは光の意思だ」
だが胸の奥で、別の感情が渦巻く。
(あれは……俺たちの知らない何かだ)
短剣がまだ微かに脈打つ。
闇が静かにざわめいている。
アルテだけが理解していた。
今の一瞬で、何かが“目を開けかけた”ことを。
だが、それを告げることはしない。
まだ早い。
均衡が、静かに揺れ始めている。




