彼女は何を話すのか
ギルドの端。
喧騒から少し離れた席で、唯は静かに口を開いた。
「凛くん。あなたは選ばれたの」
その言葉に、凛は目を細める。
「……選ばれた?」
ロギにも、似たようなことを言われた。
胸の奥がざわつく。
「この世界を救う。そして――私たちの世界も救う。その役目が、私たちにはあるの」
「私たちの……世界?」
凛は首を傾げる。
「この世界を救うっていうのはわかります。でも、私たちの世界って……別の世界ですよね? なんでですか?」
唯は一瞬だけ視線を落とし、それから静かに続ける。
「本来、この世界と私たちの世界は強い魔力で入口が閉ざされているの。でも……もしこの世界が壊滅してしまったら、その魔力が弱まる」
空気が重くなる。
「次元のゲートが開かれ、世界が繋がってしまうの」
「……繋がる?」
「ええ。侵食が始まるわ」
凛は息を呑む。
「覚えているかしら? あの、肩に乗っていた生き物」
「あの光ってたやつ……?」
「あの子から全部聞いたの」
「……何者なんですか?」
唯は迷いなく答える。
「あの子は“光の使者”と言っていたわ」
「光の使者……」
凛の脳裏に、ロギの言葉がよみがえる。
闇の使者。
光と闇。
偶然とは思えない。
「何がなんだか……って感じかもしれないわよね」
唯は小さく笑う。
「でも私たちは戦わなきゃいけないの。お願い……私と一緒に来て」
凛は黙り込む。
情報が足りない。
危険も多い。
だが――。
「……元の世界には帰れるんですか?」
唯はわずかに目を伏せる。
「帰れる……とは言いきれない。でも、この世界を救えば道は開けるはず」
曖昧だ。
確証はない。
それでも。
「……やるしかないんですよね」
凛は息を吐く。
「行きましょう、唯さん」
そして横にいる光を見る。
「妹の光も連れていきます。ひとりにはさせられないので」
「お兄ちゃんはあげないからね!」
光が唯を見てむっとする。
唯は一瞬、言葉を失う。
「……妹さんなんて、いたのね」
小さな声。
その表情が、ほんのわずかに揺れる。
(今までの……?)
何かを言いかけて、飲み込んだ。
唯は心の中で思う。
――この世界は、何かが違う。
凛はその違和感を見逃さない。
「唯さん……何か隠してますか?」
一瞬の間。
「そんなことないわ」
柔らかな笑み。
「凛くん、光ちゃん。よろしくね」
立ち上がる。
「明日の朝には村を出るわよ」
「どこへ?」
「村を西に出た先に、あの子がいる。導いてくれるはずよ」
光の使者。
闇の使者。
世界を救う使命。
そして帰れるかどうかわからない未来。
凛は静かに拳を握った。
物語は、もう後戻りできないところまで来ていた。




