紅龍激突、そして
凛は地面を蹴った。
身体強化(攻)が乗った肉体が軋む。血流が爆ぜ、筋繊維が悲鳴を上げる。
闇を纏った短剣を振り抜く。
赤い鱗へ――叩き込む。
ザシュッ。
確かな手応え。
「……通る!」
今まで弾かれていた鱗を、闇が侵食するように裂いていく。
洞窟の外。岩肌がむき出しの広場。焦げた地面から熱気が立ち上る。
龍が低く唸り、怒りの咆哮を空へ放つ。
「これならいける!」
凛は走る。
足は重い。肺は焼けるように痛い。だが止まらない。
龍の懐へ潜り込み、斬る、斬る、斬る。
血飛沫が弧を描き、赤い鱗が裂ける。
「うおおぉおお!!」
跳躍。
翼へ全力の一撃。
裂帛の音と共に翼膜が大きく裂ける。
龍が体勢を崩し、巨体が地面に叩きつけられる。
衝撃で砂塵が舞い上がる。
確実に効いている。
いける――!
だが次の瞬間。
巨大な爪が凛を捉える。
直撃。
「ぐあっ……!」
身体が吹き飛び、岩に激突する。
肋骨が軋む。視界が白く弾ける。
HPが再び赤く点滅。
残り僅か。
「まだ……終わらない……!」
震える手でポーションを二本流し込む。
回復するが、残りはほとんどない。
荒い息。汗と血が混ざる。
その時。
右手に異変。
「……っ」
短剣を握る腕が、黒く侵食されている。
闇が皮膚を覆い、指先まで染め上げる。
冷たく、重い。
鼓動に合わせて脈打つ。
使いすぎている。
このままでは、飲み込まれる。
「……次で決める」
避けられたら終わり。
「諸刃の刃、発動」
HPが削れ、代わりに力が跳ね上がる。
視界が研ぎ澄まされる。
龍が咆哮し、口元に炎を集める。
踏み込もうとした、その瞬間――
「凛くん!!!!」
聞き覚えのある声。
振り向くと、洞窟入口付近に立つ影。
「唯さん……!?」
「私が動きを止めるから!」
地面に魔法陣が展開される。
「拘束、発動!」
光の鎖が龍の四肢に絡みつく。
完全ではない。
だが確かに動きが鈍る。
龍がもがく。
「今だ!!!」
凛は地面を蹴る。
攻撃強化と諸刃の刃、そして闇の短剣。
全てをこの一撃に込める。
「終わりだあああ!!」
首元へ、全力で振り抜く。
閃光。
鈍い断裂音。
首が地面へ落ちる。
そして巨大な身体が地面に崩れ落ちる。
土煙が舞い、焦げた匂いが広がる。
やがて――完全な静寂。
「……倒した」
その瞬間。
【凛がレベル15に上がりました】
【光がレベル8に上がりました】
【鷲野唯がレベル11に上がりました】
淡い光が三人を包む。
凛の身体に力が戻る感覚。削れきっていたHPが一気に回復していく。
だが――
「……っ」
右腕の闇は、すぐには消えない。
力は戻っているはずなのに、身体が言うことを聞かない。
光が驚いた声を上げる。
「お兄ちゃん、光ってる……!」
唯も息を呑む。
「三人とも……レベルが……」
凛の視界が揺れる。
確かに回復している。
生きている。
それでも。
諸刃の刃の反動と、闇の侵食。
精神の消耗が限界を超えていた。
「はは……さすがに……きつい……」
膝が崩れる。
「凛くん!」
「お兄ちゃん!!」
駆け寄る二人。
空は静かに晴れている。
龍は動かない。
勝った。
それだけは、確かだ。
だが凛の意識は、ゆっくりと遠のいていった。




