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どうやらこの世界は彼女の知る世界とは違うらしい  作者: カヲカヲ


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彼女は何か言いたかったのか


光が収まり、蔵の中に静寂が戻った。


 白い扉は何事もなかったかのようにそこに佇んでいる。


「……行っちゃった」


 小さく息を吐く。胸の奥がきりきりとする。


 また、始まってしまった。


 何度目だろう。もう数えていない。数える意味をなくしたのは、いつからだっただろう。


「これでよかったのかい?」


 低い声が静寂を揺らす。


 振り向かなくても分かる。あの子だ。


 私はゆっくりと目を閉じた。


「よくなんてない!良いわけない……」


 答えは、決まっている。


 けれど。


「それでも、私にはこうするしかないの。」


 あの世界は必ず崩れてしまう。


 あの戦いは必ず起こる。


 そして――


 彼は、必ず命を落とす。


 何度繰り返しても、そこだけは変わらなかった。


 暗闇に包まれた空

 

 血に濡れた手。


『唯……笑って……』


 かすれた声が、今も耳の奥に残っている。


 笑えるはずがない。


 何度、あの瞬間を見たと思っているの。


「今回も同じ未来になると思う?」


 問いかけられ、私はわずかに唇を噛んだ。


「分からない」


 本当は分かっている。


 何度やり直しても、運命は変わらなかった。


 少しの違いはあっても、最後には同じ場所へ辿り着く。


 それでも


 今回は何かが違う。そんな気がした。


 彼は、扉を開ける前。


 凛は笑っていた。


 あんな顔、今までしていただろうか。


 いつもは戸惑い、不安を隠せず、それでも私を信じて手を伸ばしてくれた。


 でも今日は違った。


 怖いはずなのに。


 震えているはずなのに。


 それでも、前を向いていた。


「……違う未来も……あるかもしれない」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 胸元に手を伸ばす。


 そこにある、小さな結晶。


 淡い光を宿すそれは、幾度も私を過去へと戻してきた。


 世界が壊れ


 彼が倒れるたび。


 私はこれを握り、祈った。


 何を失ってもいい。


 もう一度だけ、と。


 その代償が何なのか、考えないようにして。


「これがある限り、まだやり直せる」


 そう、思っていた。


 思い込もうとしていた。


 蔵の外から、春の風が吹き込む。


 桜の花びらが、足元に落ちる。


「……ごめんね、凛くん」


 私は呟く。


 あなたは何も知らない。


 私が何度もあなたを戦わせてきたことも。


 何度も、あなたの最期を見てきたことも。


 でも。


 今度こそ。


「今度こそ、絶対に死なせない」


 指先に、かすかな痛みが走った。


 結晶を握るたびに、熱が伝わる。


 最初はこんなことはなかった。


 優しい光だったはずだ。


 ただ、願いを受け止めてくれるだけの――救いの光。


「それ、少し弱ってないかい?」


 低い声が、ぽつりと落ちる。


「そんなことない」


 反射的に否定する。


 否定しなければ、不安に呑み込まれそうだった。


「今まで、何度使った?」


「……覚えてない」


「覚えていないんじゃない。覚えたくないんだろう?」


 言葉が刺さる。


 私は唇を噛み、視線を逸らした。


 この力を使うたび、何かが削れている気はしていた。


 時間なのか。


 記憶なのか。


 それとも――私自身なのか。


 でも、それでもいいと思った。


 凛が生きるなら。


 凛が笑ってくれるなら。


 私がどれだけ壊れても、構わないと。


「次で終わりにしなよ」


 静かな声が告げる。


「無理だよ」


 即答だった。


「終わらせない。終わらせたくない」


 もう一度、結晶を強く握る。


 微かな音がした。


 ――ぱきり、と。


 それが気のせいだったのかどうか、確かめる勇気はなかった。

 


 結晶が、かすかに脈打つ。


 それが、ひび割れ始めていることに――


 私はまだ気づいていなかった――――

 

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