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どうやらこの世界は彼女の知る世界とは違うらしい  作者: カヲカヲ


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19/47

私はそれでも…



 始まりの村から西へ、森を抜けた静かな高台。


 鷲野唯はひとり、地面に膝をつき、目を閉じていた。


 淡い魔力が周囲へと広がる。


 職業《魔導探査師》。


 それは魔力の流れ、生命反応、世界の歪みを感知するための力。

 直接戦闘向きではないが、“見つける”ことにおいては右に出る者はいない。


「……お願い」


 小さく息を吐き、探査範囲を広げる。


 村周辺、草原、洞窟方面へと意識を伸ばす。


 その時――


 確かな反応を捉えた。


「……凛」


 胸の奥が熱くなる。


 生きている。


 この時間軸でも、ちゃんと存在している。


 何度も見失い、何度も救えなかったその命が、今は確かにここにある。


 安堵が込み上げる。


 だが同時に、違和感。


「……え?」


 凛の反応のすぐ隣に、もうひとつ小さな生命反応。


 常に寄り添うような位置。


 距離が近すぎる。


「そんなはず……」


 この時点で、彼の隣に仲間はいなかった。


 これまでのループでは。


 凛はいつも、孤独に戦っていた。

 仲間が現れるのは、もっと後。

 しかも女性ではなかった。


 だが今感じる気配は、柔らかく、未熟で、それでいて強い光を持っている。


「……誰?」


 知らない存在。


 自分が見てきたどの世界線にもいなかった人物。


 分岐が起きている。


 唯の背筋に冷たいものが走る。


「どうして……?」


 凛の運命は、ほぼ固定されていたはず。


 大きな流れは変えられない。


 だからこそ、彼は何度も――


 そこまで考えて、唯は強く目を閉じる。


 思い出してはいけない光景が脳裏をよぎる。


 血。

 崩れ落ちる背中。

 届かなかった手。


「……違う」


 今はまだ、生きている。


 確認できただけで十分だ。


 だがその時、胸元のポーチの中で、かすかな違和感。


 唯はゆっくりと取り出す。


 透明な水晶。


 それは探索の道具ではない。


 時間を巻き戻すためだけの、唯一の鍵。


 その内部に――


 細いヒビが増えていた。


「……っ」


 息が詰まる。


 これまでのループで刻まれてきた亀裂。

 限界は近いと分かっていた。


 けれど、確実に進行している。


「まだ……壊れないで」


 指先が震える。


 これが砕ければ、やり直しはできない。


 この世界が、最後になる。


 凛を救えなければ――終わる。


 そして今、想定外の存在が彼の隣にいる。


 それが救いになるのか、破滅を早めるのか。


 分からない。


「……確認しなきゃ」


 探査で再び位置を測る。


 凛は東。

 草原を抜け、洞窟方面へ向かっている。


 魔物の密度が濃い。


 嫌な予感が強くなる。


「待ってて、凛」


 水晶を握りしめる。


 まだ使わない。

 使いたくない。


 この世界で、終わらせる。


「とりあえず……彼の元へ急がないと」


 唯は立ち上がる。


 西の高台から駆け下り、東へと走り出した。


 運命が分岐し始めた世界へ向かって。

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