4/5
最終章 引退の日
渡り廊下の先で、先輩の背中が止まった。
今日は、いつも見るジャージ姿じゃない。
制服を着ている背中は、少しだけ遠く見えた。
「今日で……終わりなんだ。」
先輩はそう言って、静かに笑った。
その笑顔が、最後だと分かってしまった。
何か言わなきゃ、と思ったのに、声は出なかった。
代わりに、胸の奥が、静かにふわっと熱くなる。
気づいたら、ずっと好きだった。
過去形にしなきゃいけないほど、ずっと長い時間。
先輩と話せただけでも、
同じ場所にいられただけでも、
それはきっと、幸せだった。
先輩が前を向いて歩き出す。
少しだけ振り向いた気がした。
風が、私の周りを囲うように通り抜ける。
(佐倉先輩。私は、佐倉先輩に恋をして、幸せでした。)
声にならないまま、心の中でつぶやいた。
走るのが好きで、いつも少し掴めなくて、
気づくと、遠くへ行ってしまう。
それでも、全部が好きだった。
――さあ、前を向こう。
今日から、また新しい日が始まる。
そして今日は、夕焼けがやけに綺麗だった。




