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東の森の破壊神  作者: たけぞう


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3/13

3.農場の一日 前

先日「3.農場の一日」新しいエピソードを投稿してみたのですが、一ページあたりの文字数行数が多すぎて読みにくいというご意見があったので前・後編に分割しました。スマホでスクロール大変ですもんね。

他にも何かご意見ございましたらお寄せください。可能な限り対応いたします。(2025年10月20日)

 タパが東の森のチューリップ農場で働くようになってから一週間がたった。

 朝、農場で暮らす犬猫たちに餌を与えるのはタパに任された数少ない仕事のひとつだ。この一週間でタパはタパなりに様々な農場の仕事に挑戦したのだが、そもそも王族でその後は黒魔術師として生きてきた。とことん農場の肉体労働には向いていない。任された仕事にことごとく失敗し、ラウルから「農場の仕事に慣れるまでしばらく見学することにしようか。何か作業するときはぼくが立ち会うから。これ以上物を壊したりチューリップを傷つけたりしないように」と釘を刺されてしまった。犬猫の餌やりだけでも任せてもらえているのは、まあそれくらいならできるだろう、何もさせないのも可哀想だ、というラウルの温情である。

 ラウルのチューリップ農場ではもともと犬と猫を一匹ずつ飼っていた。無論ペットとしてではない。畑を掘り起こして作物を荒らすモグラや倉庫に備蓄した球根を食い荒らすネズミなどの獣害から生産物を守るためである。ラウルにとっては犬猫とはいえ農場の貴重な労働力として位置付けられていたので農場の仕事を祖父より引き継いでからは餌を惜しみなく与えることにしたそうだ。すると日々栄養豊富な餌を食べ狩りで鍛えられていた農場の犬と猫は瞬く間に近隣の同族たちのボスにのし上り、それぞれが十数匹ずつの配下を引き連れて農場を闊歩するようになった。はじめから農場にいた犬猫と野良あがりの配下との区別がつかなくなっても困るので、タパは農場の犬に「太郎丸」猫に「次郎丸」と名前を付けた。

 ある日タパは狩ってきた獲物を見せようと咥えてきた若犬を見て、戯れに褒美として既定の量の餌を入れた皿に肉をひと切れ加えてやった。すると若犬は喜び、その日一日群れの同族たちからの羨望のまなざしを受けながら得意げに過ごした。翌日から犬たちと猫たちはそれぞれ列をなして順々に狩ったモグラやネズミなどの獲物を恭しくタパに捧げるようになった。タパは狩ってきた獲物に応じて戦果をあげた騎士の功績を讃える王のごとく厳粛に追加の肉を下賜してやることにした。その結果、毎日の餌の総量は増大することになるのだが、それくらいの労働はタパが影の中に潜ませている闇の眷属たちをこき使えばわけもない。当初ラウルは犬猫にやる餌の量が急に増えたことに驚いたが、その後農場の獣害による損失が激減したことを知るとそれ以上は何もいわなかった。

 タパは頬杖をついて犬猫たちが餌を食べ終えるまで見届けると、すっくと立ちあがって凛とした声でいった。

「東の森ラウルのチューリップ農場の犬猫たちよ。戦士としての誇りがあるならば与えられた恩義にふさわしい戦果をあげ忠節をもって報いよ。行け!」

 犬猫たちは太郎丸、次郎丸を先頭にわんわんにゃあにゃあと喧しく一斉にそれぞれの持ち場へと駆け去った。タパは空になった餌入れの桶や食べ散らかされた皿の片付けを自身の影から呼び出した闇の眷属たちに命ずると鼻歌を歌いながら母屋に戻ることにした。タパの闇の眷属たちはその強大で邪悪な力に相応しくないつまらない仕事をいいつけられてどことなく不満げな様子だったが、そんなこと知ったこっちゃない。母屋に戻れば朝食だ。またあの甘くておいしいパンケーキが食べられる。


 こうしてラウルのチューリップ農場では毎朝の犬猫の餌やりでタパがママゴトめいた儀式を行うのが習慣になった。連日のごっこ遊びで戦士扱いされて勘違いしたのか、はたまたタパが従える闇の眷属たちの影響を受けたのか、やがて太郎丸をはじめとする犬たちは顔が十文字にぱっくりと割れて中からおぞましい何かをぞわぞわと滲み出させてくるように、次郎丸をはじめとする猫たちは背中がざっくりと割れてそこから鋭利な触手を伸ばしふよんふよんと振り回すようになるのだが……それはもう少し先の話になる。


   ※ ※


 この一週間、タパは従順に働く振りをしつつ慎重に破壊神の動向を窺った。

 タパはどうしても破壊神が趣味のチューリップ栽培に専念するため農場に居候して見習い従業員として働いている、だなんて話に納得がいかなかった。一時はもしかしてこの農場はある巨大な陰謀のもと世間の目から破壊神の存在を隠すための大規模な偽装なのではないか、などと疑いさえしたのだ。だがどうにもそんな気配を毛ほども感じさせないのどかな日々が続いている。

 タパは意を決して機会あるごとに破壊神に幾度となく話しかけてみた。だがそもそも破壊神は喋らない。よくよく考えれば悠久の月日にその躰は朽ち果てて全身残っているのは骨ばかり。喉も舌も唇もないのだから喋りようがない。おまけに顔には肉も皮もないので全く表情というか感情が読めない。破壊神に感情があればの話だが。先日ふたり並んで収穫した球根の選別作業をしていた時もタパが話しかけると手を止めて一度は顔を向けてくれるのだが、タパの話している内容が理解できているのかいないのか、特に反応もなくふいっと顔を背けて作業に戻ってしまう。ラウルや喋るチューリップのチャーリーは破壊神と意思疎通ができているようなのだが、正直何をどうやって交流しているのか見当もつかない。

(想像してたのとなんか違うなー。わたしが考えていたのはさ。森のどっかに破壊神が封印されているでしょ。それをわたしが解放してあげるでしょ。すると自由になった破壊神がわたしにすごーく感謝するの。お礼に願いをひとつ叶えてあげましょう、みたいな。そうしたら破壊神をおだてておだててその気にさせて、蛮族王ごと一気に世界を滅ぼさせて……)

 そんな想像に耽るのもむなしい。

 せっかく思っていたよりはやく簡単に破壊神と接触することはできたのに、ここで手詰まりになってしまった。今のところ次の段階に進むにも手掛りすらない。


 信じがたいことに破壊神がラウルの農場でチューリップ栽培に余生を捧げたいと考えているのは間違いないらしい。タパとは違う意味で失敗続き。下働きくらいしかさせてもらえていないのだが、まあ毎日よくそんなに熱心にと感心するくらい破壊神はいきいきとよく働いている。表情筋のないむき出しの骸骨なのでいきいきといっていいのか迷うところであるが、なんとなく労働に勤しむ時の足取りがスキップするかのごとく軽やかなのでおそらく上機嫌なのだろう。その背中を見送りながらこれでよいのかとタパは悩む。

 まずはじめに破壊神がチューリップ栽培をすること自体が間違っていると思う。破壊神は常時その周辺に破壊のオーラを纏っている。そのオーラに触れたものは全て元素へと還元されるまで破壊し尽くされてしまう。おそらく破壊神のオーラは無尽蔵でそれを無制限に放出することにでもなれば厄災どころの騒ぎでは済まない。その時はこの農場など一瞬で消し飛んでしまうだろう。だから破壊神が農場の従業員や備品、それこそ生産物であるチューリップを扱う時には滑稽なほど慎重に丁寧に破壊のオーラを抑え込みながら作業している。破壊神が農場の仕事で失敗するときはいつだって破壊のオーラをうっかり漏らしてしまった時だ。破壊神にとって自身から自然に漏れ出る破壊のオーラを抑えるのは、人が皮膚から放射される体温を止めるのに等しい難事である。

(そう考えると、破壊神ってやっぱり凄い、のか?)

 己が存在、その自然な在り方を否定してまで、それほどまでに無理を重ねて、なぜ至高の存在である破壊神がチューリップの栽培に夢中になっているのか?タパにはいくら考えてもわからなかった。

 ある日タパはその辺で転々と瞬間移動しているチャーリーを捕まえてきいてみた。少し考えこんでから戻ってきたチャーリーの返事はつかみどころのないものだった。

「さあなあ。こればっかりはあいつの趣味だから。なんでそれを趣味にしたのかと誰かにきいても答えは返ってこないだろ。好きだから、やりたいからとしか答えようがない」

「そういうものなの?」

「そういうものさ」

「何か納得がいかない」

 チャーリーは短く笑ってタパに向き直ると、珍しく真面目な声であらたまって語り始めた。

「そもそもあいつが破壊神としてこの世界で認識されたのが1000年くらい昔のこと。まだ神々の世界と人の世界の境界があやふやだった神話時代の話さ。その頃のあいつは世界中をさすらってはその途上にあるあらゆるものを意味もなく破壊していく、まさに歩く厄災というに相応しい存在だったんだそうだぜ」

「ふーん」

「当時の人間にとっちゃたまったもんじゃないわな。大昔の技術を使ってやっとの思いで家を建てようがそれを町に発展させようがそんなもの、破壊神がある日突然ふらっと現れては根底から破壊し尽くしていってしまう。でな。500年くらい前、そろそろ人間の世界がはじまろうかって時代にこれじゃあやってらんねーよって考えた今じゃ名前すら残ってない大賢者が破壊神を封印しようとしたんだ」

「その伝説は子供の頃にきいたわ。で、破壊神は一度は封印されてたってわけね?」

「まさか。あんた、あいつを見てわかんねえかな。いつだってあんな無尽蔵に破壊のオーラをダダ洩れさせているようなやべー奴だよ。人間ごときじゃ無理無理。相手にもならない。大賢者はあらゆる手を尽くしたんだけどどうやっても破壊神を封印することができなかったんだ」

「えー、なんか子供の頃にきいてた話と違う」

「世界中の人類のために破壊神を封印してみせると大見得をきっちまった手前、大賢者は困っちまったんだけどさ、そんな中である日おかしなことに気が付いたんだ」

「なに?なに?」

「冬が明けて春がくるその時期だけは破壊神の来襲が少なく……というかほぼなくなることさ」

「そうね。春は破壊ってイメージないわね。どっちかっていうと芽生えの季節」

「オレたちチューリップの開花の時期でもある」

「そういえばそうね」

「破壊神は春の来襲しない時期に何をしているんだろうと考えた大賢者が世界中を探すと、世界の果て……この東の森の近く、あんたが死にかけたあの荒野の片隅で、咲いている野生のチューリップの花をにこにこしながら眺めているあいつを見つけた。『チューリップが好きなのかい?』そう大賢者が声をかけるとあいつは嬉しそうに頷いた。『ではその花をいつでも愛でられるようにしてやろう』そういって大賢者はあいつが見ていたチューリップを鉢植えにして、この東の森で育てていけるように教え導いたんだ」

「ふーん」

「東の森で大賢者の指導を受けながらチューリップ栽培をはじめたものの、破壊神はあの不器用さだろ?最初は破壊のオーラを抑えることも知らなかったらしいし、それは試行錯誤の繰り返しだったそうだ。ヘマこいて花をダメにするたびに大賢者は新しいチューリップを鉢植えに仕立てて破壊神に渡す。破壊神はそのチューリップを一生懸命育てるため段々とこの森にいりびたるようになる。いつの間にやら時が経ち、かくして世界は破壊神の厄災から解放され平穏が訪れたんだ」

「ちょっと待って?じゃあ何?破壊神は封印されたんじゃなかったの?チューリップを栽培するために何百年もの間この森で自主的に引き籠っていただけってこと?」

「そういうこと」

「信じらんない」

「やがて大賢者も年老いて死に、その頃にはちょっとばかり栽培技術を上達させていた破壊神は下手クソながらもひたすらチューリップを育てるためだけにこの森で過ごしてきた。ところが50年くらい前かな、隣国との戦争が終わって軍隊を除隊してきた若かりし頃のラウルのお祖父さんがこの東の森を開墾し、チューリップ農場を立ち上げて見事な花を育てはじめたんだ」

「それを知った破壊神がこの農場に弟子入りしに来たと」

「そう。オレを連れてな。オレはこの農場で育てられたチューリップじゃないんだ。大賢者が破壊神に渡した鉢植えのチューリップの末裔がこのオレさ。長いこと、開花と休眠を数えきれないくらい繰り返す間あいつに育てられてきた。だからラウルの農場で育てられた端正に整った観賞用のチューリップとはどことなく違うだろ?」

「そうね。ごつごつと不格好で色も鈍いし観賞用に買おうかって気にはならない感じよね」

「おまえなー、結構傷つくからそう真実をズバズバ畳みかけてくるのはやめろ」

「あ、ごめん」

「だからな、破壊神に世話されるからには、いくら植物でも同じ場所におとなしく植わってるってわけにはいかなかったんだよ。破壊神のオーラをモロに浴びせられたら死んじまう。避けなきゃ」

「それで動かないわけにはいかなくなって、瞬間移動の能力を……」

「生き残るためにはどうしても必要だったんだよ。たとえば破壊神がうっかりオーラをダダ洩れさせながら近付いてきたとするだろ?そうしたらやめろって怒鳴りつけて止めなきゃならない」

「だから喋れるようになったんだ」

「そう」

「見かけによらず苦労しているのね」

「見かけによらず、は余計だ」


 こんな話をきいた後ではタパはチャーリーと互いに顔を見合わせて苦笑するしかなかった。その後も役立たずだの穀潰しだのタパの仕事ぶりをいいたい放題に貶しまくってくれるこのチューリップによい感情を抱けたわけではなかったが。

(さてどうしようか。破壊神と意思疎通する糸口を見つけるまで、今は現状を維持するしかないのかな。現状が維持できるならば、の話だけど……)

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