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第五節 ケオエコサーバーの大規模襲撃と『命継』

 ケオエコ内の平和とは裏腹に、その影響は現実に波及した。

 突如、国際的大規模爆破テロが発生したのだ。


 その標的は各国のケオエコサーバー、および電脳麻薬カンパニー系列各社。


 捕らえられたテロ実行犯の言い分は、主に二つに集約されていた。


『自分たちの稼いだ金が瞬時に吹き飛んだ』

『家族がケオエコにのめり込み、家庭が崩壊した』


 である。


 姫子は、何げなくケオエコにログインしようとして、失敗した。

 それで原因を調べて、テロの報道を読んだ。


 サンローは、ケオエコにログインしていたが、突如断線のようなトラブルが発生。

 再ログインできないために、ネット情報を調べて、爆破テロの報道を知った。


 『ああああ』は、仲間との繋がりが失われる悲しみで、ぼんやりネットサーフィンをしていたら、爆破テロの報道動画を見た。


 三人とも国際爆破テロ報道には心底驚いた。

 サービス終了が別れの時だと覚悟していたのに、その時が唐突に訪れた衝撃は半端ではなかった。


 ケオエコの資産の大半は現金化している。

 しかしその現金が、三人の最後の繋がりのように感じた。

 三人とも、とてもではないが、その金を使う気は起きなかった。


「ああ、サービス終了まで無邪気に遊んで、最後は笑って別れたかった……」


 奇しくも、全く別の場所にいる三人が同時に口にした。


 爆破テロ実行犯の「稼いだ金が瞬時に吹き飛んだ」というのは、ケオエコ内の話だろう。

 その吹き込んだ金も、ケオエコがあったから手に入った金じゃ無いのか。

 そんなのは、ただの逆恨みじゃないか、と三人とも呆れ果てた。


 燃え上がるサーバー管理施設、爆破される電脳麻薬カンパニー系列の各社。

 未曾有の国際的爆破テロ、テロ実行犯は具体的な要求をしてこない。

 ただ以下のような声明を発するばかり。


『ケオエコの悲劇を繰り返してはならない!ケオエコを生み出す元凶となった全てを、我々の手に取り戻す!』


 捕らえられた実行犯達も、また同様であった。


 電脳麻薬カンパニー、正式名称:電脳楽園は事業清算に入ると発表した。

 ケオエコに関する知的財産は残っておらず、所持していた暗号通貨も全て吹き飛んだ。

 放火や爆破された土地と、保険料くらいしか財が残らないほどの徹底的な爆破テロであり、全世界を震撼させた。


 しかし、電脳麻薬カンパニー襲撃だけでは、事件は終わらなかった。

 電脳麻薬カンパニー国際爆破テロ事件について、命継庁と国際命継会議(International Lifekeep Council / ILC)の見解は割れた。


 命継庁は強硬な姿勢を取る。


『電脳麻薬カンパニーは既に絶対悪の領域にいたため、これは単なるテロではなくレジスタンスだった!』


 ILCは、比較的常識的な姿勢を取る。


『国際爆破テロこそ絶対悪と呼ぶに相応しい』


 しかし、命継庁もILCも『命継思想』を切り取って都合の良いように『命継理論』として使う、どちらもどちらの組織である。


 割れた見解は、苛烈な衝突に発展した。


命継庁「電脳麻薬カンパニーは、その名の通り、今までも麻薬的と呼べるソフトウェアリリースを続けていた!」

ILC「だからと言って、爆破テロを肯定できるはずもなかろう」

命継庁「今回のケオエコは特に悪質な電脳麻薬だったと言える!これは麻薬撲滅のレジスタンスだ!」

ILC「麻薬撲滅のために、破壊活動を許容しろとでも言うのか!」

命継庁「麻薬の影響は広範囲に渡る、その破壊の影響は一時的に過ぎない!」

ILC「世界規模の爆破テロを許容しろと、貴様ら本気で言っているのか⁉」

命継庁「だから、テロではなくレジスタンスだと何度言わせるのだ!」

ILC「もはや、日本の命継庁は、ILCの場に相応しくないようだな!」

命継庁「ILCがレジスタンスを認めないというなら、ILCこそが絶対悪ですよ!」

ILC「大規模国際爆破テロこそが絶対悪だろう!もう出て行け!日本の命継庁は除名だ!」

命継庁「ああ、ILCなど、こちらから願い下げだ!」


 日本命継庁はILCから正式に除名され、命継庁は「真命継庁」と名を改めたが、その体質は一切変わることはなかった。


 ILCからの除名は「命継理論を否定している」という誤解を生み、日本の外交は一気に厳しくなった。

 それに加えて「ケオエコを作った電脳麻薬カンパニーの国」という事実も、更に諸外国の反感を買うようになった。


 こうして日本は、再起不能レベルの国際的孤立に追いやられたのだ。


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