第三節 動き始める国際命継会議とその実態
『しっかりと損得勘定の深淵を覗き込みたまえ。深淵からも見られていることなど気にするな。そこにしか、真実はないのだから』
(依田泰造著『目を逸らされる欺瞞』より引用)
◆◆◆
電脳麻薬カンパニーの佐藤は、あまりに大物すぎる相手からの警告文に、佐藤は絶句していた。
『あまりに非人道的であり、現実に命を弄ぶような内容である『Chaos Economica ~Bleak Rules~』のサービスを即刻中止せよ』
それは命継庁の上部組織、国際命継会議(International Lifekeep Council / ILC)からの直々の警告文だった。
各国の電脳楽園支部にも同様の警告文が届いたと報告され、本社は大騒ぎとなった。
もはや、隠しようもないし、国際命継会議が動いたというだけで大スキャンダルである。
佐藤は依田社長の下に駆け込む。
佐藤「依田社長!ILCから……直々にケオエコへの警告です、サービス即刻中止せよとのこと」
依田泰造「まだ警告文だろう?騒がしいと思ったらILCか、鬱陶しい」
佐藤「警告文とはいえ、とてもじゃないけど無視できません!もう、すぐさまサービス中止に動きましょうよ!」
依田泰造「対応は命継庁と同じでいい!各国支社にもそう伝えろ!」
佐藤「命継庁と同じ対応って……名指し警告ですよ⁉」
依田泰造「貴様も言われなければ分からないクチか?
ケオエコはあくまでゲームに過ぎない!
ケオエコが現実の命を軽んじた証拠はない!
こっちも簡潔に反論を出せ!
ILCの警告文と共に、だ!」
佐藤「そんな……命継庁ならまだしも……国際命継会議の警告文を『自ら』発表するなんて……我が社の損害は計り知れません!」
依田泰造「くどい!これは目的のためなのだ!」
佐藤「なんですか、その目的って……このままじゃ電脳楽園は反社会勢力と見なされますよ!」
依田泰造「それは、貴様が知る必要などないことだ!」
頑なな依田社長に、もはや佐藤は閉口するしかなかった。
何もかもを諦めつつ、佐藤は各国支社に連絡を取り、依田社長の指示を伝えた。
支社長たちも愕然としつつ、やむなく従うほかなかったようで、全世界で警告文と反論が公開された。
しかし、その警告文を発したILCは、警告文そのもので議論が紛糾していた。
「さすがに、あの警告はやり過ぎでしょう!あまりにも強圧的です!」
「電脳楽園……通称『電脳麻薬カンパニー』の反論も、一応は筋が通っている。もう少し様子を見るべきだったのでは?」
「しかし、日本の命継庁からの突き上げも凄まじく」
「たかが一国の突き上げで動いたというのか!我々は権威ある国際命継会議だぞ!」
「……只今、電脳麻薬カンパニーの動きがありました。各支部で全言語の警告文に同一の反論を載せています」
「電脳麻薬カンパニーは正気か?確かに問題ある警告文だった。しかし問題あるサービスなのは事実ではないか!」
「私は『Chaos Economica ~Bleak Rules~』を評価しているんですけどね?世界に『新しい可能性』を生み出したと思いますよ」
「だからと言って容認できる水準は、遙かに超えているではないか!」
「公開された警告文と反論、これ以上議論しても仕方ないだろう。特に一部『Chaos Economica ~Bleak Rules~』愛好者もいるようだしな?全会一致の結果など出るまい」
「電脳麻薬カンパニーの言い分に乗りましょう。自殺者数の増加をもって、警告を続けるという形で」
このILCを相手取る依田社長は、社長室で一人薄ら笑いを上げて独り言を言った。
依田泰造「……ここまで、『情報』と呼ばれるものを集め続けた。
もはや後戻りなどできはしない。
終幕をもって、私は全てを知るだろう」




