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第二節 高まるケオエコへの批判

 ケオエコでサンローとしてのプレイに少し疲れたので、冷蔵庫から飲み物を持ってきた。

 サンローを少し休憩するため、ネットニュースを漁ってみると記事はケオエコ批判一色だった。


「ケオエコ運営、命継庁の警告を受ける!」

「電脳楽園、通称電脳麻薬カンパニーは、命継庁に反論文掲載!」

「ケオエコは、事実命を軽んじる思想を広めていないか?」


 タイトルを読むだけで、ウンザリする。

 ブラウザを閉じて、ケオエコの世界にサンローとして戻る。

 最近は『エコ・リバース~でこぼこたいら』のギルドを中心に活動していた。


サンロー「やあ、美しいスクリプトを書いているかね?」

ああああ「あ、サンローさんおかえりなさい」

姫子「こんにちは、サンロー」

サンロー「今、ちょっとネットニュースを眺めたけど、ケオエコっていうか電脳麻薬カンパニーは、命継庁の警告を受けたんだってね?」

ああああ「サンローさんも読みましたか?一プレイヤーからすると……なんか命継庁って的外れに感じたんですよね」

姫子「そうね、私も電脳麻薬カンパニーの言い分は、かなり真っ当だと思うわよ」

サンロー「すまない、実は警告と反論までは目を通していなかった、少し離席するよ」


 ケオエコ画面を開いたまま、サブモニタでブラウザを開き、該当の記事に目を通す。


「……まあ、命継庁の言い分もわかるし、ケオエコプレイヤーとしては電脳麻薬カンパニーの言い分もわかる……わかるが、どうも微妙な内容だな」


サンロー「ただいま」

ああああ「おかえり、早かったですねサンローさん」

姫子「サンローさんおか」

サンロー「正直、私としては判断が難しい内容だったな。両者の言い分とも理解ができるだけに」

姫子「サンローは中立派なのね、私はケオエコ擁護だわ……命継庁の言い分は無理筋だと思う」

ああああ「俺は、さっき的外れに感じると言ったけど、命継庁の意見に若干傾いているな……ケオエコが命を軽んじていると言われたら否定できないし」

サンロー「別に中立とは言ってないぞ、どちらの言い分も分かると言っただけだ。判断は保留だよ」

ああああ「見事に、エコ・リバース内で意見が割れたな……」

姫子「ま、別にいいんじゃない?『ああああ』だって、命継庁の警告を受けてケオエコ辞めるの?」

ああああ「いや、俺の考えは命継庁寄りではあるが、だからこそ『デモケオ』今の『リパケオ』を作ったんだし……総理の座を退いたからって、無責任に投げ出さないよ」

サンロー「私は判断保留だが、少なくとも特別どちらに与するつもりもないぞ」

姫子「そうよ、マスコミなんて、外部からろくに知らずに勝手に言ってるだけなんだから」


 しかしサンローの思考は、何故か止まらなかった。


サンロー「すまない、私は少し思索の海に潜ることにするよ、店番だけはこなす」

姫子「またLISP愛の爆発?ホドホドになさいよ、私は『新・モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』の開発を続けるわ」

ああああ「じゃあ、俺は少し狩りをしてくる。また後で、サンローさん」


 こうしてチャットは解散したが、LISPを書くでもなく、命継庁警告とその反論を改めて見る。


サンロー「何故だ、何が引っかかっている?確かに命継庁の言い分も、電脳麻薬カンパニーの言い分も理解できる……それでいいはずだ、それなのに……」


 考えを整理するために、一通りのニュース記事を閲覧する。


サンロー「駄目だ、我ながら何が引っかかっているのかが分からない……」


 思考が行き詰まり、頭を抱える。

 ふと、時計を見ると既に三時間が経過していた。


サンローの父「おい、ちゃんと受験勉強してるんだろうな?」


 こんな時に、五月蠅い親父の説教か……ずっと呪文のように繰り返して。

 もう五浪もしてるんだから、医学部なんかに入る気がないって気付けよ。


サンロー「今はちょっと社会勉強をしているところ!」

サンローの父「まあ、サボってないならよろしい、今度こそ医学部合格するように!」

サンロー「くそっ……医学部医学部って、いつまで繰り返すんだ、そもそも医者になるつもりなんてないのに」


 いつも口だけの父に苛立つ、それでいてケオエコに没頭している事すら知らない。

 サンローが予備校に通ったのも、最初の一年だけだった……。


 途切れた思考を、一度リフレッシュするために、冷蔵庫から持ってきた飲み物を飲む。


サンロー「すっかり温くなってる、まあ今から冷蔵庫に行く気も起きないし我慢するか……」


 その独り言にハッとした。


サンロー「そうか、他人の言うことに誰も彼も我慢が足りないんだ。引っかかっていたのはそこか……誰も彼も主張が強すぎるんだ。まあ、再帰関数みたいに、我慢を積み重ねるといつかスタックオーバーフローを起こすか」


『私も愛するLISPを貶されたら我慢ならないな』


 などと思いつつ、あまりに個人的な引っかかりだと考え……誰にも話す気は起きなかった。


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