第五節 デモケオの崩壊とリパケオ
それは、本来なら起こるはずのない事件、誰もがそう思っていた。
リパケオ民の商人は、法定通貨を使おうとしたデモケオ政治家を相手にしなかった。
そのデモケオ政治家が商人に、剣を振り下ろしたのだ。
本来、国民が国内にいる人を傷つけた瞬間に投獄だ。
そしてここはデモケオであり、同時にリパケオであり、相手はリパケオ民だ。
これは、正直なところAIの判定がどう転ぶか未知数な出来事だ。
しかし結果は想定外にも、リパケオ民商人は斬られても、政治家は投獄されれなかった。
結果として、プレイヤーキルに至った。
さらに、斬った本人にとって、あまりに予想外なことが起こった。
斬った相手の財産が全額懐に入ってきたのだ。
その話を聞き、リパケオ民に逆恨みをしていた、デモケオ政治家達もまた……次々と商人達に斬りかかった。
これで判明したのは、プレイヤーが自国民を殺傷目的で傷つけることは法で禁じられていたとしても、他国民は法で定めても庇護下にないという事実。
他国でのプレイヤーキルは、そのまま自分の財産を増やす上で、とても美味しいという事実。
それを知って、真っ先に動いたのは、散々搾取されてきたデモケオの傭兵達だった。
リパケオの領土に入ると、真っ先に『リパケオの民になる』と宣言し、直後からデモケオ政治家達の殺戮を繰り返した。
リパケオ民として、デモケオ政治家を殺しても、一国二制度であっても投獄なんてことにはならないことを、皮肉なことにデモケオ政治家自らが示してしまっていた。
もはや、全財産を奪うだけでは怒りが収まらなかったのだ。
傭兵達は、デモケオ政治家殺戮で手に入った資産の莫大さに、もはや呆れるしかなかった。
傭兵達は、リパケオの民を尊重し、涙ながらに食糧を買って貪った。
さすがにこの時ばかりは法定通貨が解禁され、彼らは久々にHPが正常な水準に戻ったのだ。
デモケオ政治家を殺し損ねた傭兵達に、殺戮した傭兵達は惜しみなく財を分かち合い、称え合った。こうしてデモケオに残るのは、今や莫大な富を失った政治家達だけだった。
さらに、デモケオにとっては悪い事に、リパケオに帰化した者達が攻め込んできた。
自業自得としか言いようがないが、デモケオの国会議員や司法関係者は全財産を失った。
ここで、デモケオ政治家達は、地位を喪失している元総統を『国家反逆罪』で投獄したが、時既に遅し。
もはやデモケオは国家維持費を支払えない困窮国家となり果てた。
デモケオとリパケオの一国二制度でデモケオの崩壊に対し、AIが下した判定は単純かつ明快だった。
『旧デモクラティック・オブ・ケオエコ領、及び国民は全てリパブリック・オブ・ケオエコに吸収合併されます』
こうして、短い間だった一国二制度体制は、わずか数日で崩壊した。
リパケオでは総理となった『ああああ』も軍国主義化はある程度やむなしとした。
しかし、国家総動員法は許しがたく『総動員圧政重罪』を立法化した。
『旧デモクラティック・オブ・ケオエコで、国家総動員法に能動的関与をした者は全財産没収の上、永久拘束とする』
という、理想主義的らしからぬ……いや、ある意味では、理想主義の暴走とも言える苛烈な法律を制定した。
リパケオ民達も、国会で満場一致だったため「必要な措置だった」と『ああああ』は自己正当化する。
この法律は、まさに国家によって「真のケオエコ上の死」をもたらすものだったのだからと……一抹の罪悪感を抱きながら。
ああああ「なあ、本当に『総動員圧政重罪』の制定は、正しかったのかな……」
サンロー「あまり気に病むな『ああああ』よ……彼らは野放しにしては、あまりに危険だったのだ」
姫子「そうね、確かに『ああああ』の理想主義の暴走には鳥肌が立ったけど、仕方ないわよ」
ああああ「少なくとも、永久拘束は厳罰が過ぎたかな……と」
サンロー「いや、正直な話、彼らはもうケオエコでは、もうマトモに生きていけなかっただろう」
姫子「『ケオエコエデン』の元カズヤ王も、惨憺たる人生を送ってるって噂だからね」
サンロー「それに、何より『総動員圧政重罪』は、きちんと手続きを経て法制化されたのだ。満場一致だったではないか!」
姫子「『ああああ』が前に言ってたじゃない、国は民意に任せるみたいな事をね」
ああああ「そうなんだけどな……人を裁くって、結構重圧なんだね」
サンロー「それを言われると、私が冷血漢のようではないか!私は立法に従い、司法判断を下す立場だぞ!」
姫子「なんか、総理辛いって被害者面してゴメンね、二人には一番辛い役目を押しつけちゃった……辛いなら、私のおっぱい揉む?」
ああああ・サンロー「「ゲームでおっさんのおっぱい揉むとか、罰ゲーム以外の何物でもないぞ!」」
しかし、これでめでたしめでたし……とは行かなかった。
人間国家間では容赦なく戦争ができる、そんなことが明らかになっているのだ。
当然このデモケオとリパケオの事件は有志Wikiにも大々的に記され、世界中のWikiにも翻訳されて、瞬く間に広まった。
外国人の国家間でも紛争が頻発し、中にはリパケオにも侵略する小国が現れる始末。
やむなくリパケオも自衛軍の強化を法制化した、もちろんきちんと国から報酬が出る形でだ。
それでも、時には講話で領土を削り取られる事もあり、徐々に『リパケオ』も土地が削り取られていくのだった。
羽手名「あーあ、もう誰も彼もが山賊じゃないか……」




