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第四節 三人組のクーデター

 暗澹たる雰囲気が流れるデモケオ国民とは対照的に、三人組の顔は希望に満ちていた。

 デモケオ国内では『国家反逆罪』に問われかねない情勢のため、一時的に森に身を潜めて、あばら屋で会議を行う。


桃雄「こないだ話したことは、覚えているな?」

百合男「あんな衝撃的な内容、忘れられるわけがないだろ」

雛太郎「ああ……まさかこんな手段は、アドバイザーとして賞賛せざるを得ない」

桃雄「これは数少ないデモケオ憲法の穴なんだ……軍国主義立法に集中している、今が最後のチャンスとなるだろう。しかも成功の保証は、残念ながらない」

雛太郎「そんなのは百も承知の上だ、それはもう散々話しただろう」

百合男「元内閣情報調査室の総力で、実現可能性は高いと結論付けただろうが」

桃雄「最終確認だよ、本当にいいんだな?」

百合男「当たり前だろう、エコ・リバースのいないデモケオに価値はない」

雛太郎「アドバイザーとして、とりあえず所持金は換金したか?」

桃雄「当たり前だろ、もうゲーム内通貨なんて不要だ」

百合男「来年の所得申告は、大変なことになるな」


 覚悟を決めた三人組は、もう未練はないとばかりに全額換金していた。


桃雄「突入は明日一四三〇、実行は一五〇〇、露払いは俺に任せとけ」

百合男「実行役は俺だよな、なんで俺が?」

雛太郎「アドバイザーの俺が、宣言役だ。こればかりは譲れないからな」


 そして、いつもより遙かに早い時間にログアウトして、作戦に備えて就寝する三人組。


 翌日一四三〇、国会議事堂前に配置した三人組。

 まずは桃雄が突入し、あらかじめ買収した警備員と目で合図して議事堂を駆けていく。


 途中で、実行役の百合男と合流する。時刻は一四四五、正直猶予は少ない。

 だけど余裕を持ちすぎた作戦は、それもまたリスクが高かったからやむを得ない。


 三人組の利点は、元内閣情報調査室として土地勘に明るかったことだ。

 桃雄は、邪魔になる議員を昏倒させる。『軽犯罪現場裁量法』に留まる暴行だ、しかしそれも長くは続かない。


桃雄「このネズミども……そろそろ、軽犯罪じゃ済まなくなりそうだ!最後まで露払いできずに済まない」

百合男「いや、もう十分だ。もうすぐ総統がいる部屋だからな」


 そう答え、桃雄が議員を一人昏倒させたところで、遂に『法律違反』の判定が下されて姿が消えた。投獄されたのだろう。


百合男「待ってろ桃雄、俺ももう少ししたら、そっちに行くからな……」


 そして、一五〇〇ほぼジャストに、総統を斬り捨てる。


百合男「最後は頼んだぞ、雛太郎……」


 同時に、百合男も投獄される。


 まったく別の場所にいた雛太郎は、少し余裕を見て一五〇三に、高らかに宣言する。


雛太郎「総統不在の為、総統代理として宣言する!

 『憲法追記!デモクラティック・オブ・ケオエコ国民の同意を得た土地は、リパブリック・オブ・ケオエコとなる!同時にデモクラティック・オブ・ケオエコ国民は宣言することでリパブリック・オブ・ケオエコに帰化できる!』」


 僅かな時間が、永遠に感じる。実際はどれ程の時間が経ったのか……AIの声が響いた。


『憲法が制定されました、通称デモケオ国民の同意を得た土地は、リパブリック・オブ・ケオエコとなることが定められました。

 また、通称デモケオ国民の宣言により、リパブリック・オブ・ケオエコに帰化できることが定められました』


 安堵のあまり、腰を抜かす雛太郎……これはクーデター、そう、デモケオの法の穴を突いたクーデターだった。


 AIは、雛太郎を捕らえることはなかった。安堵したが雛太郎には、まだやることがあったのだ。雛太郎はすぐに『リパブリック・オブ・ケオエコ』の話を広く触れ回った。


 この衝撃的クーデターは、AIの説明だけでは理解できなかった人々の間で瞬く間に広がった。また次々と『リパブリック・オブ・ケオエコ』略称『リパケオ』に帰化する元デモケオ民達。

 雛太郎の最後の仕事は、総統代理権限があるうちに、更に憲法を追加することだ。


雛太郎「立法府の長代理として宣言する!

 『憲法追記!リパブリック・オブ・ケオエコの政府関係者は、死してもその地位を喪失しない!』」


 これは一応の保険だ、正直通らなくても仕方ないと思った……が、AIの声が響いた。


『憲法が制定されました、通称リパケオの政府関係者は、死しても地位を喪失することがないことが定められました』


 ほっと一息ついた雛太郎は、リアルで脱力感に襲われた。


雛太郎「あとは頼みましたよ『エコ・リバース~でこぼこたいら』の皆さん……」


 このクーデターを受けて、商人や生産職は全員リパケオ民に帰化した。

 しかし、傭兵達は自分たちの財産がデモケオに握られているから、リパケオへの亡命もままならない。彼らは明日の食糧すら持っていないのだから。


 こうしてデモケオには莫大な富を持った、元総統を筆頭とする国会議員や司法関係者と、ゾンビのごとき傭兵だけが残る。

 『リパケオ』はかつてのデモケオのように、全く同じ場所で活気溢れる商人や生産職、そして覚悟を決めて亡命した一部の傭兵で構成された。


 リパケオのトップには「代理でいいですから!」と『エコ・リバース~でこぼこたいら』の三人が、強く推されたのだった。

 そしてリパケオでは不文律として、デモケオが獲得したであろう法定通貨での買い物は一切認めなかったという。


 デモケオとリパケオは、一国二制度となったのだ。

 その後、三人組の姿を見た者はいなかった……


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